兎と狼のラビリンス

こちらは白泉社『狼陛下の花嫁』の二次創作ブログサイトです。(作者様・出版社様とは関係ありません)

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♪何よりも大切なもの ♯6

続きです。

Creuzシリーズ

♪何よりも大切なもの #6


まだ数えるほどしか訪れた事がない恋人の部屋で、夕鈴はソファに膝を立てて座り、クッションを抱き締めていた。

セキュリティが完璧な、超高級マンション。

付き合い始めてまだ日が浅いのに、彼からこの部屋のオートロックを解除するナンバーを教えられ、指紋照合に登録させられた時には、もしかしたら彼は、今まで付き合ってきた女性全てに同じ事をしてきたのではないかと疑ったものだ。

だが今でこそ自由に出入りしているCreuzのメンバーでさえ、この部屋に初めて入ったのはバンドを結成して一年が過ぎた頃だと聞いた時、自分の思いがただの杞憂である事を知った。


自分は彼にとって相応しくないという思いは、常に夕鈴の胸の内を巣食う。

だが自分と言う存在は変え様がなく、二人の立場も変える事が出来ないものだ。

この関係に自分が慣れていかないと、彼と付き合い続けるのは難しいと夕鈴は思う。


彼の過去の事に嫉妬し、彼を取り巻く環境に心が苦しくなる。自分でない誰かが彼の隣に立っているのを見るだけで、夕鈴は不安に押し潰されてしまう。

このままではいつまでたっても、彼を煩わせるだけだ。

浩大の言うように今思っている事を彼に全部ぶちまけて、何か変わる物が、得る物があるのだろうか?


抱き込んだクッションにギュウッと顔を押し付ける。そこからは彼がいつもつけている香水の匂いがして、夕鈴はまた胸が苦しくなった。


午後のリハーサルを無事に終え帰途に着いた黎翔は、地下の駐車場に車を停め、急ぐ気持ちを抑えられずにエレベーターに飛び乗った。

好きで好きで、どうしようもないくらい大好きな、恋人。

その恋人と、二日振りに会えるのだ。

自宅がある最上階に到着し、扉が開き切るのすら待てずに、黎翔は飛び出して玄関の扉を開ける。

靴を脱ぎ捨て、廊下を駆け、彼女が来た時いつも談笑するリビングを覗く。


「夕鈴……」

彼女は本当に来ているのだろうか?

そんな不安が胸にあった黎翔は、ソファに座る夕鈴の姿を見つけたとき、足から力が抜けるほどの安堵感を覚えた。

「良かった…」

ホッと息を吐いた黎翔を、クッションから顔を上げた夕鈴は少し困惑げに見上げた。

「…黎翔さん?」

普段見る彼はいつも自信に溢れている表情しかしない。そんな彼が見せたホッとした顔に、夕鈴は驚いた。


「…お茶、入れるね。」

テーブルに何も飲み物がないのに気付いた黎翔が、夕鈴に向かって言う。仕事から帰ってきたばかりの忙しい彼に、そんな事をさせるわけにはいかないと思い、夕鈴は慌ててソファから立ち上がった。

「あ!…それなら私が!」

「いいよ、夕鈴は座ってて?」

ね?と、優しげな顔で言われて、夕鈴は「はい…」と再びソファに座るしかなかった。

「どうぞ。」

「あ、ありがとうございます…。」

二人分のカップをテーブルに置いた黎翔は、夕鈴と向かい合うように、反対側のソファに腰掛けた。


暫くの間沈黙が続き、チッチッ、という時計の音しか聞こえない。

普段は自分がどう対応して良いのか分からないくらいに、甘い言葉を囁いたり、優しく抱擁してくる黎翔。だが彼は今日に限って何もしてこないし、何も言ってくれない。カップを手に持ち、思案顔で夕鈴を見ようともしない。

夕鈴は夕鈴で、彼と話をしようとここに来たはずなのに、どう切り出して良いか分からず、テーブルの上のカップをジッと見詰めていた。


「…ねえ、夕鈴。」

沈黙を破ったのは、やはり黎翔の方だった。

「話したい事って、何かな?」

話を切り出すタイミングを掴めずに、夕鈴が困っているのに気付いたから、彼女を促すように優しく問い掛けてみた。


今回の事は、夕鈴が思っているような事はないとは言え、彼女にかなりのショックを与え、嫌な思いをさせたのは事実。

彼女の話というのが、別れ話であったとしても、聞いてあげるのが自分の役目だ。

夕鈴は何か言おうと口を開きかけるが、なかなか言葉が出て来ない。

彼に聞きたい事は色々あった。

あの日の女性は、彼の何なのか。口付けを交わしていたという事は、彼女とはそういう関係なのか。

口を開いては閉じ、意を決して話そうとして、また口を閉じる。眉間にしわを寄せ、泣きそうになっている夕鈴に、黎翔は申し訳なくなって口を開く。


「…あの日の事は、誤解なんだ。君の思っているような事は、断じて無い。…彼女とは過去に少し関係を持っていてもう別れているんだけど、あの日突然尋ねてきた。私には君がいるから、もう彼女と関係を持つ事は無いと言ったら、『最後にキスして欲しい』と言われて、君が来る前に帰って欲しくてそうしたら、ちょうどそこを、君に見られた。」

こんな事を愛しい彼女に話さなければいけないなんて情けないと思ったが、本当の事を言わなければダメだと黎翔は思い、嘘偽り無く話した。

「…君と付き合う前の私は、愛なんて知らなくて。沢山の女性と肉体だけの関係を持っていた。私は自分が、誰かを本気で愛する事なんて一生無いだろうと思っていたんだ。だからそんな関係でも、全然良かった。――君に、会うまでは。」


そう、あの日、夕鈴に出会うまで。

確かに黎翔は、誰も愛する事はないと思っていた。

後腐れのない、身体だけの関係で十分だった。


「…軽蔑する?」

寂しげな声でそう聞かれて、夕鈴は慌てて首を横に振った。目尻に溜まった涙は隠しようがないが、夕鈴は必死に嗚咽を耐える。

軽蔑なんて出来ない。ただ、そう思いながら生きてきた、そう思う事しか出来なかった黎翔の事が、可哀想でならなかった。

「…過去の女性の事や、実家の事。私には色々と柵(しがらみ)がある。私と付き合っていると、これからも色々な事で君が苦しむと思う。」

だけど、と黎翔は真摯な瞳で夕鈴を見詰める。

「僕は、夕鈴と別れたくないよ。…僕が大好きなのは、僕の心を捕らえて離さないのは、夕鈴だけだよ。…僕は夕鈴に、ずっと傍にいて欲しい。」


ぼろっ


我慢して懸命に耐えていたのに、彼のその言葉を聞いた瞬間、夕鈴は嗚咽を堪える事が出来なくなってしまった。一度溢れ出した涙は、彼女自身にも止め様がなく。次々と彼女の頬を濡らしていく。

黎翔は立ち上がると、卓を回り夕鈴の隣に腰を下ろした。そして泣いている夕鈴をギュッと抱き締める。

「わ、た…私…あの時…」

夕鈴は泣きながら、必死に言葉を紡ぐ。

伝えなくては、と夕鈴は思う。彼は話してくれた、自らの想いを。

だったら、自分もこの想いを伝えなければいけない。

「うん…」

震える身体を抱き締めたまま、黎翔は短く相槌を返す。

「…黎翔さんの事、疑っちゃったんです…。私と、付き…合ってるのに…あの、人と…キス、してるの見て…私を、好きだって言ってくれる…貴方の言葉も、ウソじゃ、ないかって…」

「…うん。」

「私、…あ、なたを…信じなきゃいけなかったのに、…信じられなくて…貴方が、呼び止めるのも…聞かずに、に、逃げ…ちゃって…」

「…夕鈴は何にも悪くないよ?…そう思わせちゃったのは僕だし、悪いのも僕。」

「でも……!」

黎翔が自嘲気味に言うので、夕鈴は彼の胸に埋めていた顔を上げた。


そうじゃない。決して彼だけが悪いわけじゃない。

この胸の奥深くに渦巻く気持ちを、彼に伝えよう。

彼にどう思われようと、この醜い想いを吐露しなくては。


「…貴方に、聞いて欲しい事があるんです。」


たとえ彼と、別れる事になったとしても。




続く
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Comment

No title 

一気に、アップしましたねー
  • posted by 陽向 
  • URL 
  • 2013.01/15 03:16分 
  • [Edit]
  • [Res]

No title 

こんにちわ~^^

一気に読めるって・・・素晴らしい♪(笑)

移し替え作業大変だったのでは?

このところ極寒と言っていいほど寒いのでお体に気を付けてくださいね^ー^

待ってま~す♡
  • posted by ぷーちゃん 
  • URL 
  • 2013.01/15 15:43分 
  • [Edit]
  • [Res]

Re: No title 

陽向様

早く全記事を移さなくてはいけないので、頑張ってます!
  • posted by 高月慧ネン 
  • URL 
  • 2013.01/15 21:36分 
  • [Edit]
  • [Res]

Re: No title 

ぷーちゃん様

移し替え、結構大変です。
文字の大きさも、改行の広さも違うので、手直しが必要です。

でも早く全部移したいので、頑張ります!

確かに最近すごく寒くなってきたので、ぷーちゃんさんもお体に気を付けてください(^^♪
  • posted by 高月慧ネン 
  • URL 
  • 2013.01/15 21:39分 
  • [Edit]
  • [Res]

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よろしくお願いします。

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