兎と狼のラビリンス

こちらは白泉社『狼陛下の花嫁』の二次創作ブログサイトです。(作者様・出版社様とは関係ありません)

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可愛い部下の、初出張 10

可愛い部下の、初出張』も、早くも10話目。
当ブログで、一番長いお話となりました

いつになったら、夕鈴は帰れるのでしょうか…?

そして、傷付いた彼女の心を癒すのは…?



可愛い部下の、初出張 10


初めて彼を見たのは、入社式の時。
スーツ姿で他の役員達と話すその姿を見て、恋に落ちた。

―― 一目惚れだった。

彼は有能で人望も厚く、配属された営業一課の課長として手腕を振るった。
優しく、そして何故か、自分にだけ冷たい。

そんな態度を取られ、嫌われていると思っていたら、彼は時々、優しさを見せるようになった。
初めて自分に向けられた笑みを見た時、(私はこの人が好き)と再確認させられた。

珀 黎翔。
意地悪で時々優しい彼は、私の自慢の上司。
――そして、大好きな人。


商談相手の社長に乱暴されかけた夕鈴が、救い出され何度か目を覚ました時に、彼は傍にいなかった。
明玉は「後処理の為」と言ったが、本当は、彼は自分に会いたくないのではないかと思った。
みっともない姿を、見られてしまった。
好きな人には、絶対見られたくない醜態だった。

薬を飲んだ後異様に眠くなって、つい明玉に愚痴を漏らしてしまったような気がする。彼女の言葉を聞く前に、夕鈴は眠りに引き込まれてしまった。

ふわふわと、波間を漂っているような不思議な感じがする。
額に大きな手が乗せられたような気がして、夕鈴はうっすらと目を開けた。

「――ああ、気が付いたか?」
「…課長…?」

覗き込んでいた黎翔の表情が、ホッと緩んだ。
彼の夢を見ていたような気がして、目を開けた時その彼が目の前にいて、夕鈴はとても驚いた。

ずっと横になっていたので身体は痛いが、熱は下がったのか、だるさは治まっていた。視線を移すと、カーテンレースが引かれた窓の向こうに、青々とした空が見える。

「今…何時くらいですか…?」
「午後三時を回った所だ。」

明るい日差しを見て、お昼は過ぎているだろうなと思っていたが、一体自分はどれだけ寝ていたんだと思う。
目を覚まし、そしてまたうつらうつらと眠りに入る――その繰り返しだった。

「…身体が休息を求めているんだ。仕事の事は気にしなくて良いから、しっかり休め。」

瞬きを繰り返している夕鈴の、まだ少し腫れている右の頬にそっと触れる。
途端に彼女はびくりと身体を震わせ、黎翔はハッとして手を引こうとした。

彼の手が離れていくのを感じ、夕鈴は思わず自分の手をその手に添えた。そしてゆっくりと、頬に押し当てる。

「…私に触れられるのは、怖くないか?」

不安げに黎翔が問う。
彼女が身を竦ませた時、自分を襲った男と重なりフラッシュバックを起こしたのではないかと思った。

夕鈴は首を横に振る。

「…課長の手、冷たくて気持ち良いです…」

スリ…と、頬を擦り付けてくる彼女が、とても愛おしい。

「課長?」
「ん?」

夕鈴は黎翔の手を頬に押し当てたまま、じっと天井を見詰めていた。

「私…みっともない所を見せちゃいましたよね…?」
「…汀。」

黎翔は驚いて、夕鈴の顔を見る。
彼女は泣くまいと歯を食いしばりながら、無理をして笑おうとしている。

「わた、私…課長に、あんな、情けない姿っ…見られたく、…なかっ…!」
「――汀っ!!」

見下ろす彼女の頬には、耐え切れなくなった涙が流れ落ちる。

「全部終わった!…もう何も、心配する事ないんだ!」

忘れろとは言えない、言いたくはない。
けれど、そんな辛そうな表情で、泣かないで欲しい。

身を乗り出した黎翔は、夕鈴の頭を抱え込むようにして優しく抱き締めた。

「か、ちょ……」

夕鈴は目を見開く。

彼の顔が、有り得ないほどすぐ近くにある。
大好きな人の香りを、胸いっぱいに吸い込む。

「温かい…」

こんな優しい抱擁は、初めて…。

うっとりと身を任せていると、黎翔の大きな手が優しく頬を撫で、流れる涙を拭ってくれた。

落ち着いてきた夕鈴にホッとし、黎翔は体を起こす。
彼の熱が離れ、少し残念そうにしている彼女に苦笑いした。

「もう少し眠れ。…飯の時間になったら、起こしてやるから。」

もう眠くないと言おうとしたが、夕鈴の瞼は思いに反して下がっていく。

黎翔は汗で貼り付いた彼女の前髪を、ゆっくりと払う。

せめて、今だけでも良い夢を――。

そう願いを込め、夕鈴の額にそっと唇を押し当てた。


続く


今回はちょっと短めです。
そして、更新ペースがまたスローに戻ります…。





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NoTitle 

慰めて・・・慰めてあげて、課長・・・

いつも強気な彼女がここまで弱るなんて・・・
二人共、辛いよね 苦しいよね
ゆーりん・・・
うわ~ん・・・どうにかしてあげて、慧ネンさん。

スローペース(>д<)ゝ”了解!!
暑くてお仕事大変でしょうが頑張ってくださいね♪
バテないようにね(ゝ。∂)


  • posted by ぷーちゃん 
  • URL 
  • 2013.06/30 10:19分 
  • [Edit]
  • [Res]

Re: NoTitle 

ぷーちゃん様

仕事も頑張ってますが、それ以上に更新を頑張りたい慧ネンです。

二人の仲は進展したようで、何も変わらないような、のらりくらりとしたものになってます。
けれど、傷付いた夕鈴を癒す事が出来るのは課長だけなので、課長にはこれからも頑張ってもらおうと思っています。

夕鈴が本心を彼に見せたように、課長も本心を彼女に見せる日が来ることを願います。
  • posted by 高月慧ネン 
  • URL 
  • 2013.07/03 21:10分 
  • [Edit]
  • [Res]

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