兎と狼のラビリンス

こちらは白泉社『狼陛下の花嫁』の二次創作ブログサイトです。(作者様・出版社様とは関係ありません)

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可愛い部下の、初出張 14

ラストです

何度も書き直して、ようやくアップ出来ました

長かった~

夕鈴、課長、お疲れ様でした



可愛い部下の、初出張 14

「…夕鈴っ!」
「汀さん、久し振りね!!」

夕鈴が一週間振りに出社すると、一課の面々に声を掛けられる。

「――汀、体調はもう良いのか?」
「風邪だって?…初めての出張で、身体がこたえたのかもな。」

出張は行き帰りも含め四日間の日程だった。彼女の出張後の欠勤は、体調不良という事になっていた。
本当の理由を知らない彼らに、夕鈴は曖昧に返事を返す。

「聞いたわよ?契約取れたんでしょ?…頑張ったじゃない!」
「あ、ありがとうございます。…先輩、痛いです~っ」

古株の先輩女性社員にギュウッとハグをされ、豊満なバストに押し付けられた夕鈴は悲鳴を上げる。
けれど、褒めてもらえてとても嬉しい。
自分の頑張りが、認められた気がする。
やっと解放されて、「課長も喜んでいたんじゃない?」なんて会話をしていると。

「――騒がしいな。もう始業ベルは鳴ってるぞ?」

背後から、件の課長が現れた。
彼の声を聞いただけで、夕鈴の胸がドキンと音を立てる。

「ちょっとぐらい良いじゃないですか。課長は硬過ぎます!」
「…女子高生じゃあるまいし、さっさと仕事をしろ。」

ギャアギャア言い合いしている光景を見ながら、課長と普通に話せる先輩を羨ましく思う。
ぼんやりしていると、課長に手に持っていたファイルで軽く頭を叩かれた。

「いた…」

そんなに痛くはなかったのに、思わず頭を押さえて課長の顔を見上げる。

「――良く眠れたか?」

ちょっと怒っているように見えたが、彼はただ素直になれなかっただけらしい。
プイっとそっぽを向いて、黎翔はそう聞いて来た。

「…あ、はい。昨日はありがとうございました。」

夕鈴はぺこりと頭を下げた。

そんな彼女を見て、黎翔は目を細める。
あんな事があってどうなるかと不安だったが、顔色も良さそうだ。
昨夜の心細い泣きそうな声が耳の奥に残っているが、少しずつ乗り越えていくしかないだろう。

「それなら、良い。」

クシャリと頭を撫でると、周囲で興味津々に二人の会話を聞いていた女狐達が、キャアと黄色い悲鳴を上げた。

「…これからまた忙しくなるぞ。気を抜くなよ!」
「はいっ!!」

踵を返した黎翔の背中を見ながら、夕鈴も自分のデスクに着く。
彼はすぐにパソコンに目を向け、部下と書類の確認をし、慌ただしく動き始めた。
彼の動きを目で追っていると、ふとこちらに視線を向けた彼と目が合い、すぐに仕事の指示が飛んできた。

「――汀、午後の会議までに去年と一昨年の予算の資料を揃えておいてくれ。」
「…予算案の会議用ですね?30人分で良いですか?」
「ああ、頼む。」
「分かりました。至急、揃えておきます。」

他の女性社員に会議室の掃除を頼んでいる課長の声を聞きながら、夕鈴は腰を上げた。

何人もの社員と擦れ違いながら資料室に向かう。
活気溢れる職場、温かい同僚達。

――これが、私の日常。


あの日を、忘れる事は出来ないだろう。
眠れない夜もあるかもしれない。
けれど、乗り越えていくしかないと夕鈴は思う。

自分には、支えてくれる親友も上司もいるからきっと大丈夫だ。

『…そっか、あの後はちゃんと寝れたんだね?良かった。』
「迷惑かけてごめんね、明玉。」

昼休み、本日公休の明玉に電話を掛けた。
昨夜の事を、どうしても礼を言いたかったから。

『私は何もしてないわ。それより、課長にもお礼を言った?』
「…うん。眠れたかって聞かれて、頷いたらホッとしてた、みたい…?」
『何その『みたい?』って。』

課長が何を考えているのかいまいち分からなくて、曖昧な答えになってしまったのだが、明玉はクスクス笑う。
鈍感夕鈴には、真っ直ぐに伝えないと分からない。
課長のはっきりしない態度では、彼の気持ちは一生伝わらないのだろう。

彼はとても心配していたから、夕鈴が頼ってくれて嬉しかったのではないだろうか。

『久し振りに出勤したんだから、今日はあまり無理しちゃ駄目よ?』
「分かってる。ありがとう、明玉。」

親友の優しい言葉に夕鈴は笑顔で感謝を述べ、青い空を見上げた。

***

暗い闇は、嫌な記憶を呼び起こす。

出張先から戻った夜、寝ようと瞳を閉じるとあの日の事を思い出した。
伸し掛かってくる大きな身体、ベッドのシーツに抑え付けられる手首。
少しの物音も気になって、どうしても眠る事が出来ない。

『夕鈴、課長の連絡先知ってるでしょ?…掛けてみなさい。きっと力になってくれるから。』

明玉に助けを求めると、彼女はそう言った。
けれど自分の上司とはいえ、凄く親しい間柄でもない。こんな遅い時間に電話を掛けるのは躊躇われた。
「大丈夫だから」と後押しされ、震える指で押した課長の携帯番号。

『――どうした?』

ワンコールで出た彼の声は、思った以上に優しかった。
ぽろっと、夕鈴の目から涙が溢れる。

『眠れないのか?』
「…はい。」
『そうか…。少し話すか。』

正直に眠れない事を告げると、課長はそう提案してきた。
布団に横になったままで良いと言われ、しばらく他愛のない話をした。

好きな食べ物の話や、良く読む本の話。
休日には何ををしているか、課長はたまに釣りに行く事を初めて知った。
明玉と美術館に行ったりすると言うと、遊園地じゃないのかと笑われ。
料理が美味しいお勧めの店もいくつか教えてもらった。

次第に強張っていた身体から力が抜け、夕鈴の瞼が下がり始める。

『――汀…?』

彼の声が、夢心地に聞こえ始めた。
耳に届く、優しい彼の声。

『眠れそうか…?』

とろとろと、眠りに誘われていく。

(…ああ、もっと聞いていたいな…。)

でも眠くて、もう返事も出来ない。
クスリと、電話の向こうで彼が笑った気がした。

『――おやすみ、夕鈴。』

携帯電話は、夕鈴の耳元から離れ。
その言葉を聞く前に、彼女の意識は眠りに引き込まれていった。

スースーと、静かな寝息が聞こえる。
黎翔はホッと息を吐き、携帯電話の通話を切った。

もう少ししたら寝ようかと思っていた矢先に鳴った、携帯電話。
画面に初めて表示された、部下の名前。

大丈夫なはずが無かった。
あの出来事は、彼女の心に深い傷を残した。
震える細い声が、耳の奥に残る。

彼女が、自分を頼ってくれた事が嬉しかった。
彼女の支えになれたら良いなと思いながら、黎翔はベッドに身体を横たえる。

部下の初めての出張は、彼女の身に消えない傷を残しながらもようやく終わりを迎え、それぞれの夜は静かに更けていった。


END

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  • posted by  
  •  
  • 2013.07/14 14:15分 
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  • [Res]

良い夜を・・・ 

連載、お疲れ様でした!

あんなことがあって、傷つかないはずはないけど。
それでも前に進もうとする夕鈴を、課長はもっとがっちり支えてあげて欲しいと!!欲しいと!!!

いやー・・・楽しませていただきました。ほんとに。

ありがとうございますっ!

  • posted by あさ 
  • URL 
  • 2013.07/14 14:26分 
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Re: 長編連載完結おめでとうございます。 

さくらぱん様

コメントありがとうございます~。
ああ、本当に長かった…!
先が見えない時は不安になりましたが、何とかまとめる事が出来てホッとしてます。

このシリーズはまだまだ書きたい内容があるので、ちょっとお休みしたらまた再始動すると思います♪
それまでこのお二人には休暇を差し上げましょう(笑)
慧ネンも休みます~(^^♪
  • posted by 高月慧ネン 
  • URL 
  • 2013.07/14 15:10分 
  • [Edit]
  • [Res]

Re: 良い夜を・・・ 

あさ様

ありがとうございます~。
長々とお付き合いさせてしまって申し訳ないです<m(__)m>
いつももう少し取り留めのある文章が書けないものかと思うのですが、慧ネンには無理みたいです。

課長にはもっとがっちり支えてあげて欲しいのですね?
でも夕鈴は、素直に助けを求めるような性格じゃないし…。(自分で乗り越えようとしそう)
陰ながらサポートでも良いのではないでしょうか?

楽しんで頂けて何よりです♪
また頑張りますね!!
  • posted by 高月慧ネン 
  • URL 
  • 2013.07/14 15:14分 
  • [Edit]
  • [Res]

NoTitle 

長編連載お疲れ様でした^^

最後までドキドキハラハラ、緊張しっぱなしで・・・。
本当に辛い場面も多々ありました
傷つき、傷つきながらも必死に前を向き進んでいこうとする
夕鈴の直向きな態度には唯々感心するのみです。

二人なら乗り越え、きっと幸せになれると信じています^^

  • posted by ぷーちゃん 
  • URL 
  • 2013.07/17 08:10分 
  • [Edit]
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Re: NoTitle 

ぷーちゃん様

コメントありがとうございます!
そして、お返事遅くなったすみません<m(__)m>

辛い事があった初出張ですが、課長や明玉達に支えられ、夕鈴は乗り越えていってくれると信じています。
課長がなかなか素直にならないせいで、ラブラブには程遠い二人ですが、生温かい目で見守っていてあげて下さい(ぺこり)
  • posted by 高月慧ネン 
  • URL 
  • 2013.07/23 01:16分 
  • [Edit]
  • [Res]

 

初めまして〜いろんな方の2次を経て辿りつきました^ ^


原作は、渡しては読んでいないのですが、とっても面白く、全てのお話しを拝見しました

ただ… このお話しの中で、出張を言い渡した狸親父へは、処罰があったのかな?と気になり、コメさせていただいた次第です


絶対に、諸悪の根元なのだから、降格人事して欲しいです
  • posted by むぎょ 
  • URL 
  • 2015.05/25 03:44分 
  • [Edit]
  • [Res]

Re: タイトルなし 

むぎょ様

初めまして~。コメントありがとうございます!
素敵サイト様の放浪の果てに、このような辺境までお越し下さり恐縮です(*_*;
そして全ての話に目を通して下さったとか…!
目は大丈夫ですか!?
文字ばかりなので、疲れなかったか凄く心配です(*_*;

この狸親父…もといハゲ部長は、今の所処罰は無しですね。
今の黎翔は社長ではなく一課長ですから、下手に動けば勘繰られるので。でも李順(社長代理)の方から、厳重注意はされているかもしれませんね。
ちなみにこのハゲ部長、また出てくる予定です(汗)

  • posted by 高月慧ネン(むぎょ様へ) 
  • URL 
  • 2015.05/28 01:38分 
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