兎と狼のラビリンス

こちらは白泉社『狼陛下の花嫁』の二次創作ブログサイトです。(作者様・出版社様とは関係ありません)

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♪その光に手をのばし ♯6【不安】

リクエスト小説の続きです。

いつもお越し下さる皆様、本当にありがとうございます

今回は、黎翔、几鍔、青慎。
それぞれの不安を、書いてみました。




♪その光に手をのばし ♯6【不安】


人気のない病院の、薄暗い廊下。
一人ベンチに座っていた几鍔は、エレベーターの扉が開く音に顔を上げて目を見開いた。

「――几鍔っ!!」

現れたのは、黎翔だった。
彼はステージ衣装の上に、真っ黒いコートを羽織っただけ。

「黎翔、お前…」

今頃ツアー最後のコンサートの最中のはずの彼が、息急くって駆け寄ってきた。

「夕鈴、ねえ、夕鈴は!?…夕鈴は無事なの!!?」
「―――落ち着け、黎翔!」

腰を上げ立ち上がった几鍔に、問い詰めるように聞いてくる。そんな彼の両肩を、几鍔は押えた。

「夕鈴はあの中にいる。」

几鍔の視線の先には、『手術中』と書かれた赤く光る文字。

夕鈴が事故に遭ってから、すでに三時間以上たつ。
それなのに彼女はまだ、手術室にいる。
そんなに、怪我は酷いのだろうか?

ふらりと几鍔の横を擦り抜け、黎翔はベンチに崩れるように座ると呆然と視線を彷徨わせた。

「出血が、酷いらしい。あいつのクラスメイト達何人にも献血してもらって、何とか持っているそうだ。」

黎翔の隣にドカリと腰を下ろした几鍔は、淡々と夕鈴の今の状態を語った。

彼も何も出来ない自分が歯痒かった。
病院に来ても、血液型が同じでない自分は献血すら出来ない。
せめて出張先からこちらに向かっている二人の父親が到着するまで、青慎の傍にいてやろうと思った。

「夢を、見たんだ…。」

ポツリと呟いた黎翔を、几鍔は訝しみながら見る。

「――夕鈴を、失う夢。やけにリアルで、不安で堪らなくて…。」

アレは、こうなる事の暗示だったのだろうか?
だとすれば、夕鈴はこのまま助からないのだろうか?

そんな漠然とした恐怖が、黎翔を襲った時。

「…それは夢だ。――現実じゃないだろう?」

少し怒ったように、几鍔がそう言った。

「ただの夢だ。そんなものに左右なんかされない。…違うか?」

睨み付けるように見詰めてくる几鍔の目を見つめ返す。
その瞳は、まるで自分にも言い聞かせるような強い光を放っていて、几鍔も不安なんだという事が分かる。

――そう、あれはただの夢。

だからきっと、夕鈴は、大丈夫だ。

「疲れてるんじゃないか?…終わったら起こしてやるから、寝てろよ。」
「いや…大丈夫だ。」

気を使ってくれている几鍔にありがとうと礼を言い、黎翔はフウッと肩の力を抜いた。

そうは言ったものの、身体は正直だったのか、黎翔はいつの間にかうつらうつらしていた。
時々、バタバタと医師や看護師が行ったり来たりするだけで、几鍔との会話もない。
自分が微睡んでいたと気付いたのは、先程まではいなかった第三者の声が聞こえたからだ。

「…ちゃんと食ってきたか?」

この声は几鍔だ。
それに応える声は小さくて、何を言っているのかまでは分からなかった。

――と、カツンと靴音がして、すぐ傍に人が立った気配を感じ、黎翔は俯いていた顔をゆっくりと上げた。

そこには、まだ幼さの残る少年が立っていた。
優しいはしばみ色の瞳、ふわふわの栗色の髪。
それは、愛しい彼女と同じ。

「…何だ、初対面か?夕鈴の弟、青慎だ。」

目を丸くしていると、几鍔が教えてくれた。

「夕鈴の…弟…」
「初めまして。」

彼は、礼儀正しく頭を下げた。そして、手に持っていたコンビニの袋を、黎翔に向かって差し出す。
中には、パンと缶コーヒーが入っている。

「疲れているんじゃないですか?すごく顔色が悪いですよ。良かったらこれ、食べて下さい。」

そう言って微笑む青慎の目元も真っ赤になっていて、顔色は良くなかった。

夕鈴から良く話は聞いていた。
中学生の可愛い弟がいる事。
彼女が弟の事ばかり話す時には、軽い嫉妬心が芽生えたものだ。
会った事はなかったが、夕鈴自慢の弟。
きっと可愛くて、とても真面目で誠実な子なのだろうと思っていた。

この子が、夕鈴の弟、青慎……。

黎翔は急に、恥ずかしくなった。
一体、何をしているのだろう。
自分より、彼の方がきっと何倍も不安だろうし、辛いはずだ。
それなのに、逆に気遣われてしまった。

黎翔は腕を伸ばし、青慎の細い手首を掴み引き寄せた。
そして彼の小さい頭に顔を埋め、ギュウッと抱き締める。

「わ…えっと、あの…。」

顔を胸に抑え付けられて、青慎はワタワタともがくが。
抱き締める彼の腕が、身体が震えているのに気付き、動きを止めた。

会った事はなかったが、姉が年上の男性と付き合い始めた事は気付いていた。
まだその事実を知らない父親を、良く誤魔化したりと協力した事もある。

彼の身体から香る香水、同性の自分から見ても艶のある端正な顔立ちの、大人の男性。
この人が、四つ年上の姉の、彼氏…。

切れ長の涼しげな目元は赤くなっていて、彼が泣いた事が分かる。
伝わってくる震えは、抱えている不安な気持ちを伝えてくれた。

彼はとても包容力があり、抱き締められると力が抜けてくる。
耐えていたものが溢れ出し、青慎は広く逞しい胸に縋って泣いた。

胸元が濡れるのを感じながら、黎翔は無言のまま、青慎の頭を撫でる。
その横で、そう遠くない未来に兄弟になるであろう二人を、几鍔が目を細めて見ていた。


続く


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(T_T) 

不安の感じ方はそれぞれ違って…
でも、同じことを不安に思ってて。

青慎と黎翔さん。
夕鈴を挟んできっと良い兄弟になりますね(^_^)
  • posted by さき 
  • URL 
  • 2013.09/05 10:47分 
  • [Edit]
  • [Res]

Re: (T_T) 

さき様

人によって不安は様々。でも三人とも、夕鈴の事が大切で、不安に思っている。
助かって欲しいと願う三人の思いはきっと届きます!

時々子供のようになる黎翔さんには、しっかりした青慎君が義弟になったらちょうど良いと思います。
色々ストッパーにもなりそうだし(^^♪
  • posted by 高月慧ネン 
  • URL 
  • 2013.09/05 17:41分 
  • [Edit]
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