2013.09/07 [Sat]
♪その光に手をのばし ♯8【夜長】
連続(深夜)更新、失礼します
リクエスト小説(Creuzシリーズ)の続きです。
原作沿いのSSS『あかねいろ』『はいいろ』に、勿体無いほどのコメントを頂いております。
本当にありがとうございます。
さらに続きが読みたいと仰って下さる方がおいでますので、書き上がったらアップさせて頂きます
♪その光に手をのばし ♯8【夜長】
夕鈴の容体は、楽観視出来ないものだった。
不幸中の幸いか頭に損傷はなく、脳波も正常。ただ本当に出血が酷かったようで、献血をしてくれた彼女のクラスメイト達のお陰で何とか手術は持ち堪えたものの、医者からは「今夜が峠です。今夜さえ乗り越えてくれたら…。」と言われてしまった。
24時間看護の、集中治療室。
本当は付き添いも必要ないのだが、黎翔はどうしても夕鈴の傍にいたかった。
「お願いします。彼女の傍にいたいんです。」
何かあったら連絡するから家に帰るように言われたが、彼は食い下がり、岩圭に何度も頭を下げて許しを乞うた。
傍にいても、出来る事など何もない。
けれど、近くにいて僅かな変化も見逃したくなかった。
マンションに帰っても、どうせ眠れないのは目に見えている。
それなら、何も出来なくても彼女の傍にいたかった。
「…分かったよ。」
根負けしたように、岩圭は首を縦に振ってくれた。
苦笑いをしていたのは、黎翔の必死さに面食らったからなのだろうか。
几鍔は岩圭に言われ、帰る事にしたようだ。
家で心配している自分の家族に夕鈴の容体を伝え、明日また来ると言って病院を後にした。
岩圭と青慎も、一度家に帰って入院の準備をしてくると言い、連絡用に携帯のナンバーを教えてくれた。
「…黎翔君。」
青慎を先に行かせて、岩圭は黎翔と向かい合って口を開く。
「くれぐれも、無理はしないでくれ。君にもし何かあれば、娘に怒られる。」
気丈に振る舞っているように見えた彼が、時々ふらついているのを岩圭は見てしまった。
顔色が悪いのも、きっと疲れているから。
彼にもきちんと休んで、休息を取って欲しかった。
「はい…。」
ポンポンと肩を叩かれ、黎翔は瞳を閉じて息を吐き出す。
知らぬ間に身体に入っていた力が、抜けていくようだった。
夕鈴のいるベッドの傍に椅子を引き摺って行き、黎翔は彼女の顔を覗き込んだ。
酸素マスクをされて、腕からは沢山のチューブが伸び、機械に繋がっている。
頬には擦り傷があり、額の髪の生え際に切り傷があった。
点滴のされていない方の腕には、袖口から包帯が見えた。
頬に触れようとして、傷に触ったらいけないと思い、慌てて引っ込める。
そして恐る恐る、点滴が繋がれている方の手のひらに、そっと触れてみた。
いつもより少しだけ冷たい手に、黎翔は泣きたくなった。
「夕鈴…。」
彼女の指に、そっと自らの指を絡ませる。
「夕鈴…夕鈴。」
皆が心配してるよ。
君が目を覚ますのを、待っていてくれている。
心待ちにしている。
だからどうか、お願い。
「起きてよ、ゆーりん…。」
―――僕を置いて、逝かないで。
機械音だけが響き、非常灯が灯る中、黎翔にとって長い夜が始まった。
静かに扉を開けて病室を覗いた岩圭は、表情を緩ませる。
どうしても傍にいたいと頭を下げた娘の恋人は、小さな椅子に腰掛け、顔をベッドに突っ伏すようにして眠っていた。
二人の指先は離れまいと絡まっていて、どれほど思い合っているのかが良く分かる。
ベッドに近付くと、気配を感じたのか彼は身動ぎする。起こしてしまったかと思ったが、目を覚ましたわけではないようだった。
起きている時は年齢以上に大人びて見えた彼は、こうして見ていると、子供のような寝顔だった。
「ゆ、りん…」
ツウッと頬を流れる涙が、幼さを引き立てる。
岩圭はコートも着ずに寝ている黎翔の背に、家から持ってきた毛布をそっと掛けてやった。
カーテンの隙間から見える外は、まだ真っ暗で一筋の光すら見えない。
暗い闇は、心の内の不安を掻き立てる。
――けれど。
「どんなに長い夜でも…必ず明けるよ、黎翔君。」
その光に手をのばし、掴み取るように。
待ち望む夜明けも、きっとやって来る。
続く
リクエスト小説(Creuzシリーズ)の続きです。
原作沿いのSSS『あかねいろ』『はいいろ』に、勿体無いほどのコメントを頂いております。
本当にありがとうございます。
さらに続きが読みたいと仰って下さる方がおいでますので、書き上がったらアップさせて頂きます
♪その光に手をのばし ♯8【夜長】
夕鈴の容体は、楽観視出来ないものだった。
不幸中の幸いか頭に損傷はなく、脳波も正常。ただ本当に出血が酷かったようで、献血をしてくれた彼女のクラスメイト達のお陰で何とか手術は持ち堪えたものの、医者からは「今夜が峠です。今夜さえ乗り越えてくれたら…。」と言われてしまった。
24時間看護の、集中治療室。
本当は付き添いも必要ないのだが、黎翔はどうしても夕鈴の傍にいたかった。
「お願いします。彼女の傍にいたいんです。」
何かあったら連絡するから家に帰るように言われたが、彼は食い下がり、岩圭に何度も頭を下げて許しを乞うた。
傍にいても、出来る事など何もない。
けれど、近くにいて僅かな変化も見逃したくなかった。
マンションに帰っても、どうせ眠れないのは目に見えている。
それなら、何も出来なくても彼女の傍にいたかった。
「…分かったよ。」
根負けしたように、岩圭は首を縦に振ってくれた。
苦笑いをしていたのは、黎翔の必死さに面食らったからなのだろうか。
几鍔は岩圭に言われ、帰る事にしたようだ。
家で心配している自分の家族に夕鈴の容体を伝え、明日また来ると言って病院を後にした。
岩圭と青慎も、一度家に帰って入院の準備をしてくると言い、連絡用に携帯のナンバーを教えてくれた。
「…黎翔君。」
青慎を先に行かせて、岩圭は黎翔と向かい合って口を開く。
「くれぐれも、無理はしないでくれ。君にもし何かあれば、娘に怒られる。」
気丈に振る舞っているように見えた彼が、時々ふらついているのを岩圭は見てしまった。
顔色が悪いのも、きっと疲れているから。
彼にもきちんと休んで、休息を取って欲しかった。
「はい…。」
ポンポンと肩を叩かれ、黎翔は瞳を閉じて息を吐き出す。
知らぬ間に身体に入っていた力が、抜けていくようだった。
夕鈴のいるベッドの傍に椅子を引き摺って行き、黎翔は彼女の顔を覗き込んだ。
酸素マスクをされて、腕からは沢山のチューブが伸び、機械に繋がっている。
頬には擦り傷があり、額の髪の生え際に切り傷があった。
点滴のされていない方の腕には、袖口から包帯が見えた。
頬に触れようとして、傷に触ったらいけないと思い、慌てて引っ込める。
そして恐る恐る、点滴が繋がれている方の手のひらに、そっと触れてみた。
いつもより少しだけ冷たい手に、黎翔は泣きたくなった。
「夕鈴…。」
彼女の指に、そっと自らの指を絡ませる。
「夕鈴…夕鈴。」
皆が心配してるよ。
君が目を覚ますのを、待っていてくれている。
心待ちにしている。
だからどうか、お願い。
「起きてよ、ゆーりん…。」
―――僕を置いて、逝かないで。
機械音だけが響き、非常灯が灯る中、黎翔にとって長い夜が始まった。
静かに扉を開けて病室を覗いた岩圭は、表情を緩ませる。
どうしても傍にいたいと頭を下げた娘の恋人は、小さな椅子に腰掛け、顔をベッドに突っ伏すようにして眠っていた。
二人の指先は離れまいと絡まっていて、どれほど思い合っているのかが良く分かる。
ベッドに近付くと、気配を感じたのか彼は身動ぎする。起こしてしまったかと思ったが、目を覚ましたわけではないようだった。
起きている時は年齢以上に大人びて見えた彼は、こうして見ていると、子供のような寝顔だった。
「ゆ、りん…」
ツウッと頬を流れる涙が、幼さを引き立てる。
岩圭はコートも着ずに寝ている黎翔の背に、家から持ってきた毛布をそっと掛けてやった。
カーテンの隙間から見える外は、まだ真っ暗で一筋の光すら見えない。
暗い闇は、心の内の不安を掻き立てる。
――けれど。
「どんなに長い夜でも…必ず明けるよ、黎翔君。」
その光に手をのばし、掴み取るように。
待ち望む夜明けも、きっとやって来る。
続く
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おおっ!?
まともに見える!←おい
きっと黎翔さんにとって良い義父になってくれる予感がしてきましたー!(^O^)