兎と狼のラビリンス

こちらは白泉社『狼陛下の花嫁』の二次創作ブログサイトです。(作者様・出版社様とは関係ありません)

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♪幼馴染の覚悟

このお話は『♪同級生』で黎翔の恋人が夕鈴だと言う事を几鍔が知った後の内容です。

几鍔と夕鈴しか出てきません

Creuzシリーズ


♪幼馴染の覚悟


「…よう。」
玄関のドアを開けると、見知った男が短く挨拶し片手を挙げた。

「…何か用?」
夕鈴は男の顔を見るなり顔を顰める。

「そんな嫌そうな顔するなよ。…ちょっと話したい事がある。時間あるか?」

夕鈴はチラリと玄関脇に置いてある時計に目を向ける。今は二時、バイトは六時から。
「五時までなら大丈夫。…上がって。」
夕鈴はそう言うと、踵を返した。

夕鈴の自宅を訪ねたのは、彼女の幼馴染の几鍔。
夕鈴の母親が事故で他界する以前から、家族ぐるみで付き合いがある。

几鍔は中に入るとリビングを通り越し、奥の部屋にある仏間に向かう。彼は夕鈴の家に来るたび、彼女の母の仏壇に手を合わせる。それは彼女の母が亡くなってからずっとだ。

夕鈴が用意した飲み物をリビングのテーブルに置いていると、几鍔が仏間から戻ってきた。そして慣れたように、リビングの椅子に腰掛ける。

「で、話って何?」
その向かいに座った夕鈴は、グラスに口を付けながら几鍔に聞いた。

「…あのよ、ちょっと聞きたい事があるんだが…」
そう言いながら、几鍔はあーとか、う~ん…と言いあぐねるばかりで、なかなか話を切り出さない。

「…何よ、そんなに言い難い事なの?」
普段は物事をはっきり言い切る彼の珍しい態度に、夕鈴は眉を寄せた。

「そう言う訳じゃないんだが…。」
どう切り出そうかとまだ唸っている几鍔を見ながら、夕鈴はまたカップに口を付けた。

「あ~もう!…悩むのは性に合わねえ!単刀直入に聞く!…夕鈴、お前!恋人が出来たって本当か!?」

「…!…ゲホッ、な、何であんたが知ってるのよ!?」
夕鈴は飲んでいたお茶に盛大に咽た。頬を赤くし、焦ったように几鍔に向かって叫ぶ。

「…本当なんだな?」
念を押して聞くと、夕鈴は唸った後コクリと頷いた。

先日の黎翔の言葉を疑ったわけではないが、夕鈴の方にも確認しておきたかった。
彼と付き合っていく事の意味を。その覚悟があるのかを。

「相手はCreuzのリーダー・Rei。…そうだろ?」
意地が悪いと思ったが、几鍔は単刀直入に聞いてみる。

「…なんで知って…」
息を飲んで夕鈴は呟いた。その顔は真っ青だ。

「…本人に聞いたからだ。」

「本人?」

「ああ。…Rei、いや、珀 黎翔からだな。」

あの日彼とはプライベートな付き合いだった。相手は芸能人のReiではなく、腐れ縁で元同級生の珀 黎翔という一人の青年。

「…どうして黎翔さんの事を知っているのよ!…彼は世間に本名を公表していないのに!」

「おい、落ち着けよ!」

「これが落ち着いていられますか!」

几鍔の仕事は知っている。彼はライターでもありカメラマンだ。几鍔がその気になれば、Creuzの素性を世間にばらす事も可能なのだと夕鈴は驚愕する。

「…あんたが記事を書いて世間にばらすような事があれば、彼は、皆は…!」
唇を噛み締める夕鈴を見詰め、几鍔は溜息を吐く。

「…お前なぁ、俺はそんなに信用無いかよ?」

「だって…」
夕鈴は俯いた。

彼と交際している事が知られないように、家族にも親友にも恋人が『彼』だという事は伝えていない。
彼のマンションに行く時も細心の注意を払うし、普通の恋人同士なら当然普通に出来る事が出来なくても、夕鈴は文句を言わない。

どんなに寂しくても、どんなに街行くカップル達が羨ましくても。

『彼』は芸能人だから。

世間に二人の関係は、知られてはいけない。

「安心したよ。…あいつと付き合っていく事の意味を、お前はちゃんと分かっているんだな。」

きっと様々な辛い事がある。苦しむ事もある。外でデートする事も儘ならず、誰にも話す事が出来ない関係。芸能人と一般人という壁が、二人の前に大きく立ちはだかる時が、いずれ来る。

「…あいつの実家の事、何か聞いているか?」

「…実家?…あまり詳しい事は…。ただ、折り合いが悪くて家を出たって事しか聞いてない。」

「あいつの実家はな、あの『珀』家だ。」

「『珀』家って、あの大財閥の…?」

「…そうだ。あいつはあそこの次男だ。親との確執は深いようだが、その事については俺は詳しく知らないし、知っていたとしても俺の口から話す事じゃない。」

本人がまだ話していない事を、他人の自分が話すのはフェアじゃない。

「知りたきゃ、本人に聞け。」

「…ううん。黎翔さんが自分から話してくれるまで、待ってる。」

黎翔の事は何でも知りたいが、誰にだって話したくない事が一つや二つある。いつの日か、彼が自らの事を自分に話してくれるのを願って。

彼にとって自分の存在が、何でも話せる心安らぐものになったら良いと夕鈴は思う。

「…それにしても、どうしてあんたはそんなに黎翔さんの事に詳しいの?」

夕鈴が口を尖らしながら聞いてくる。長い間一緒にいるが、彼女のこんな表情を見るのは初めてだった。

これはあの時の黎翔と同じ、嫉妬の目。獰猛ではないが、自分が知らない彼の事を知る存在が近くにいる事に拗ねているような瞳だ。

こんな顔をさせるような存在が夕鈴に出来た事が、嬉しいような、寂しいような。

複雑な自分の感情に苦笑いをし、几鍔は一枚の写真を取り出し、夕鈴に向かってテーブルの上を滑らせた。

「…わあ!」

写真に写っていたのは、制服姿の青年が二人。一人は几鍔、そしてもう一人は、黎翔だ。

「俺とあいつはな、高校ン時の同級生だ。…今でも少し付き合いがある。」

夕鈴は写真を手に取り、マジマジと見詰める。数年前の写真なので、現在の彼と凄く変わっているようには見えない。だがやはり成人前の彼の顔付きは、今とは違う幼さ、子供らしさが少し見て取れる。

だが、今とは明らかに違う事が一つだけあった。

「…黎翔さん、なんだか寂しそう?」

硬い笑み、と言うのだろうか。笑っているのに、微笑っていない。写真を撮られる時条件反射的に微笑んだだけで、心の底から笑みとは違うものだった。

その証拠に、紅い瞳は全く明るさがなく、深い悲しみや辛さを湛えている。

これは、まだ自分が会う前の、Reiの表情に似ている。彼のコンサートやドラマのDVDを見た時に、感じた事。楽しんでいるように見えるのに、どことなく寂しそうな表情。泣いているわけではないのに、泣いているように見える彼の瞳。

心の底からは楽しんでいない、笑っていない。高校生の頃から、彼はこんな表情をしていたのか。

「…お前の前では見せない顔だろ?…いや、お前に出会ったからこそ、見れなくなった表情と言うのか。」
几鍔は先日のバーでの黎翔を思い出し、苦笑いをする。

見た事がない表情。心の底から楽しんでいる。幸せだと、本当の笑みを見せた黎翔。

どんな事があっても必ず夕鈴を守ると、覚悟を見せた黎翔。

「…あいつと付き合っていると、色々な壁にぶつかるぞ。もしかしたら凄く苦しむ事になるかもしれない。夕鈴、お前に…その覚悟はあるんだな?」

夕鈴はあの日の黎翔の言葉を思い出した。黎翔が美女と口付けを交わしている場面を見て、彼のマンションから逃げ出した数日後。

もしかしたら彼と別れなければいけないかもと、そう思いながら向かった彼のマンション。

何かあるたびに嫉妬して、多忙な彼を支えて力になるどころか煩わせるばかりの子供の自分。このまま付き合っていっても良いのかと、夕鈴が不安を彼に伝えた時。

実家の事、過去の女性の事。自らにある沢山の柵(しがらみ)。そして芸能人と一般人という、普通ではない関係。これから付き合って行く上で、苦しむ事もあるかもしれないと黎翔は言った上で。

それでも別れたくないと、彼は言ってくれた。

何も持たない自分に、傍にいて欲しいと。何があっても二人で支え合いながら進んでいこうと。

だから、夕鈴もこのまま子供のままではいられないと思った。彼が覚悟を見せてくれたから、自分も彼と付き合っていく事の辛さや大変さを理解し、覚悟をしようと。


二人で進むその先に、確かな幸せがある事を信じて。


夕鈴は几鍔に向かって微笑む。自らの覚悟を、彼に示すように。


几鍔は呆気にとられたような顔をした。
餓鬼だ餓鬼だと思っていた幼馴染の、彼女が見せた『女』の表情に。

「…何時の間にか、そんな表情(かお)を出来るようになっていたんだな。」

誰かを愛する事を知った、大人の女性の顔。

いつも自分の後ろを付き纏っていた男勝りの彼女はもういない。

これからは愛する男と共に、進んでいくだけだ。


夕鈴の事を愛し守ってくれる存在。
そんな相手が現れるまで、守って欲しいと亡き夕鈴の母に頼まれた。
当時小学生だった几鍔は、幼いながらも彼女の最期の頼みを護ろうと必死だった。

今まで守ってきた『妹』を、これからは几鍔ではなく黎翔が守っていく。


夕鈴に愛する男が出来たのは嬉しいが。

その相手が黎翔(あいつ)だと言うのが、ちょっと、いやかなり悔しいな、と几鍔は思った。


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よろしくお願いします。

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