兎と狼のラビリンス

こちらは白泉社『狼陛下の花嫁』の二次創作ブログサイトです。(作者様・出版社様とは関係ありません)

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♪その光に手をのばし ♯9【黎明】

せっかくなので、タイトルは全て二文字にしたいと思ったものの、なかなか難しいものです

今回のタイトル【黎明】は、夜明けという意味で付けました

どんなに暗く長い夜も、いつかは明けるんだよ。




♪その光に手をのばし ♯9【黎明】


…声が聞こえる。

ああ、誰かが泣いている。

横たわった女性に縋り付くように泣いている、小さな女の子。

柔らかい長い髪を、お団子にした女の子。

ああ、夕鈴。
こんな所にいたの?

一人で泣かないで。
僕が一緒にいてあげるから。

――だからねえ、どうか…。

「お兄ちゃん、大丈夫?」

いつの間にか傍に来た女の子が、そっと頬に触れてきた。
彼女の指は濡れている。

泣いていたのは、僕だった?

驚いて顔を上げると、女の子の横には線の細い、優しげな女性が。

「…この子を、お願いしますね。」

母性に満ちた瞳で女の子を見下ろし、小さな頭を撫でた。
嬉しそうに笑う少女と、頭を下げる女性の姿が遠くなっていく――。

「…待って下さい!貴女は…」

ハッと顔を上げて、黎翔は現実に引き戻された。
まだ薄暗い室内、目の前のベッドには愛しい女性が横になっている。

肩に掛けられていたであろう毛布が床に落ちて、黎翔は自分が眠ってしまっていた事に気付いた。

「…黎翔君?」

声を掛けられ振り向くと、窓際にある長椅子には岩圭と、そして彼の肩に凭れるようにして眠っている青慎の姿があった。

「どうしたんだね?」

青慎を起こさないようにそっと椅子から立ち上がった岩圭は、傍に寄ってきて小声で問うた。

「夢、を…」

夢の中で会った、女性と少女。
小さい頃の夕鈴と、小学生の時、一度だけあった事のある彼女の母親。

「岩圭さん。」
「うん?」
「夕鈴のお母さん…奥様は、どのような方だったんですか?」

黎翔の問い掛けに、岩圭は面食らったように目を見開いた。
けれどすぐ、「そうだね…」と、懐かしむように語り出した。

「優しいけれど厳しくて、豪快な所もあって…。私には勿体無いくらいの、素敵な人だったよ。」

見るかい?

そう言って岩圭は、財布の中から古びた写真を取り出して見せてくれた。
今より若い岩圭と、優しげな女性。幼子と、髪をお団子にした女の子。
そこには、幸せな家族が写っている。

何だか泣きそうになって、黎翔は口元を覆った。
彼女の母親が、夕鈴をこちらに戻そうとしてくれている。
『頼む』と、彼女はそう言ってくれた――。

涙もろい娘の恋人に、岩圭は苦笑いをすると同時にとても嬉しくなる。
彼がどれほど、娘の事を想っているかが良く分かったからだ。

「さあ、夜明けまでまだ時間がある。もう一眠りすると良い。」
「…はい。」

トイレに行くと病室を出ていく岩圭を見送って、黎翔は涙を拭うとその手をもう一度、夕鈴の指に絡めた。
昨夜より少しだけ温かく感じる、彼女の体温。
特に変わった様子も見られないが、悪化もしていない。
医者が言う、『峠』を、無事に越えてくれたのだろうか…?

その時、絡めた彼女の指先に、キュッと力が入った。
びくりと身体を震わせた黎翔は、ガタンと椅子から立ち上がり、夕鈴の顔を見下ろす。

「夕鈴…?」

声を掛けると、彼女の目がうっすらと開いていく。

「――夕鈴!」

身を乗り出して、黎翔は声を掛ける。
彼女がまた、どこかに行ってしまわないように。

「夕鈴!…岩圭さん、夕鈴が…!!」

丁度戻ってきた岩圭に向かって叫ぶと、彼は慌ててナースコールを押した。

「姉さん…!」

黎翔の声で目を覚ました青慎も、ベッドの傍に駆け寄って夕鈴に呼びかけた。

ぼんやりしていた夕鈴は、眩しそうに目を細め、そしてパチパチと瞬きした後。

「父さん、青慎…?…黎翔さん…?」

ここがどこなのか、何故家族と恋人の黎翔がここにいるのか分からないと言った感じに、小さく呟いた。

――その後は。
あっという間に室内は、騒がしくなった。

医師と看護婦が沢山やってきて、熱を測り脈を調べ、診察している様子を、三人は邪魔にならないように入り口付近で見詰めていた。

「もう大丈夫ですよ。」

にこやかに笑った医師を、岩圭は深々と頭を下げて見送った。

「…ビックリしたぞ。」
「うん、ごめん…。」

そんな会話をしている父と、娘。
黎翔はそんな家族の輪に入り込めなくて、少し離れたところでぼんやりと見ていた。

「黎翔君。」

岩圭に促され、黎翔はふらりとベッドに近付いた。

「黎翔さん。」

まだ顔色は青いものの、酸素マスクを外された彼女は、いつものように微笑んだ。

「夕鈴…。」

彼女の傍に、縋る。
失うかと思った。
すごく怖かった。

「良かった…夕鈴…!!」

その光を失った時、もう夜明けは訪れないのではないかと思った。

隙間から洩れる一筋の光りに気付いた岩圭は、シャッとカーテンを開けた。
積もった雪に照らされた、眩しいほどの朝日が入り込む。


―――長い長い、夜が、明けた。


続く

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Comment

良かった~(T_T)/~~~ 

ゆ、夕鈴…良かった~!
夕鈴のお母さんも…

家族の愛が胸に染みます(*´∇`)
  • posted by さき 
  • URL 
  • 2013.09/09 20:50分 
  • [Edit]
  • [Res]

Re: 良かった~(T_T)/~~~ 

さき様

コメントありがとうございます。
夕鈴のお母さんも、彼女の幸せを願っていると思うのです。
夕鈴は皆に愛されていると思います。
とても良い子ですものね(^^♪
  • posted by 高月慧ネン 
  • URL 
  • 2013.09/10 02:55分 
  • [Edit]
  • [Res]

NoTitle 

一気読みしてきたんですけど・・・・・
言葉が見つかりません・・・・(つд⊂)
涙が止まらなくて・・・・
大事な人をなくすかもしれない思いや辛さ、何もできない悔しさ、その思いは大事であればあるほど強くて。
痛いほど伝わりました。
黎翔さんも家族愛に触れることが出来たし、黎翔さんの様子を見てたら親としても反対することもないでしょうね^^
これから、もっともっと大事にされそうですね♪

続きがあるみたいなので待ってますね^^
  • posted by ぷーちゃん 
  • URL 
  • 2013.09/13 09:05分 
  • [Edit]
  • [Res]

Re: NoTitle 

ぷーちゃん様

一気読みして下さったんですか!?
嬉しいけれど、無理はなさらないで下さいね?
黎翔さんが感じる恐怖や不安、そして夕鈴の家族に対する思いなど、色々書きたい事があって詰め込んでしまったんですが…。上手に表現出来なくて、悔しい思いをしてます。
もっとこう、ハラハラドキドキ、切なく、そして甘く幸せな話を書きたいんですが上手くいきませんね(*_*;
でも少しでも伝わってくれたみたいで良かったです。
黎翔の夕鈴を想う気持ちを知って、岩圭さんは彼を認めてくれたようなので、これからはさらに付き合いが増えます。まるで息子のように、接してくれる事でしょう♪

続きは…、ちょっと行き詰っているので、遅くなりますが頑張ります…!
  • posted by 高月慧ネン 
  • URL 
  • 2013.09/13 19:56分 
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