兎と狼のラビリンス

こちらは白泉社『狼陛下の花嫁』の二次創作ブログサイトです。(作者様・出版社様とは関係ありません)

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上司と部下の、変化する関係 中編

慧ネンに短編を書くことは不可能だ。

分かっていました。
ええ。
分かっていましたよ。

それでも、何とかしたかったんです~(*_*;

結局無理でしたけど。

と言う訳で、中編をお届けします。




上司と部下の、変化する関係 中編


きちんとデーターを保存して、パソコンの電源を落とす。
出しさがしていた資料を元の位置に戻し、戸締りをする。

「…良し!帰ろ。」

誰もいない一課を見渡し、夕鈴はぱちりと照明をオフにした。

警備に声を掛け外に出ると、冬の夜の冷気が夕鈴を襲う。
コートを着ていても、エアコンで暖まったいた身体が一気に冷えていく感じがする。
マフラーを巻いている首を竦めながら、夕鈴は地下駐車場から地上に出る。

「わあっ…!」

寒いと思ったら、霙が降っていた。
このまま気温が下がれば、今夜遅くには雪に変わるかもしれない。
一課を出る時に確認した時刻は20時過ぎ。
明日は土曜日で休みだし、急いで帰る必要も、用事もない。
夕鈴はゆっくりと歩き出した。


メールを送っても返事が無く、電話をしても『只今、電波の届かないところにいるか、電源が入っていない為、掛かりません。』と無機質な女性のメッセージが流れるだけ。

焦って社に掛けると、警備の人間が彼女はすでに退社した事を教えてくれた。

自宅に帰っている頃だろうと思い、黎翔はタクシーを拾うと一度だけ行った事がある彼女の家に向かった。

古いアパートの二階の端。
彼女の部屋には明かりがついていなかった。
念の為インターフォンを鳴らしてみたが、返答もなく中からは物音一つしない。

腕時計を見れば、21時を大分過ぎている。

相変らず携帯は繋がらず、メールの返信もない。
この寒い中、一体どこにいるのだろう。

彼女ももう子供ではない。
プラーベートで誰とどこに行こうがそれは彼女の自由で、黎翔が詮索するべきではない。
けれど。
夕鈴が自分の知らない誰かと一緒に食事をしたり、遊びに行っているのではないかと思うと、黎翔の胸はどうしようもないほど苦しくなった。

玄関の扉に背を預け、ずるずると座り込む。

いつの間にか、霙は雪に変わっていた。
黎翔は悴む手に息をはきかけて、静かに降る雪を見上げていた。


どのくらい、そうしていたのだろう。
ただ降り続く雪を見ているのもつまらなくなって、黎翔は立てた膝に顔を埋めじっと座っていた。
キンと冷えた空気は肌を刺し、彼からどんどん熱を奪っていく。
吐く息は白く、手袋をしていない素手の両手は、すでに冷えすぎて感覚が無かった。

暫くして、カンカンと鉄の階段を上ってくる音が周囲に響き、顔を上げた黎翔は虚ろな目でゆっくりとそちらに視線を向けた。音が止み姿を見せたのは、ホワイトのダッフルコートを着た細身の女性。

黎翔の姿を見て驚いたように目を見開いた彼女の手から、コンビニの袋がするりと落ちた。


ただまっすぐ家に帰りたくなくて、コンビニに寄って立ち読みをし、新作のスイーツを吟味する。
明日のおやつにでもしようと、何個か買ってみる。
明玉にも味の感想を言わなくては。

霙はいつの間にか、雪に変わっていた。
コンビニで買った傘が無ければ帰り着くまでに雪だるまになっていたかもしれない。
一人暮らしのアパートには誰も待ってくれている人などいないので、ブラブラと歩いてゆっくり帰途につく。

――まさか、課長が待っていてくれているなんて知りもせずに。

うっすらと雪が積もっている階段を、滑らないようにゆっくりと登る。登り切って視線を自分の部屋の方向に向けた時、扉の前に誰かが蹲っているのが見えた。

薄暗い廊下の照明に照らされた、艶のある黒髪。
高級そうな黒いコート。傍に置かれた見た事がある鞄。
立てられた膝に埋められていた顔が上げられこちらを向いた時、夕鈴の手からスイーツの入ったコンビニ袋が滑り落ちた。

「汀…。」

夕鈴の姿を確認した黎翔は、心から安心した。
もしかしたら、彼女の身に何かあったのかもしれないと思い始めていたから。
そして、このまま自宅には戻らず、自分以外の誰かと共に、一夜を過ごすのではないかと不安に思っていたから。

ホッとした表情を見て、夕鈴は弾かれたように彼に駆け寄る。

「嘘…!課長、どうして…!」

傍に座り込み、触れた彼の手は、氷のように冷たい。

「こんなに冷たい…。ああ、どうしよう…!」

黎翔はマフラーも手袋もしていなかった。唇は寒さで青くなっていて、思わず頬に触れようとした夕鈴の手を、黎翔が掴んだ。

「このくらい大丈夫だ。」

気にする事はないと、黎翔は笑う。
立ち上がり、ぱんぱんと服に着いた土埃を払った。

「…あまりにも遅いから、何かあったのかと心配した。――無事で良かった。」

――ああ、どうして。

こんな優しい言葉を掛けてくれるのだろう。

一人で拗ねて、ショックを受けて。
素っ気ない態度を取り続けていた、自分。

こんなに心配して、優しくしてもらえる資格などないと言うのに。

泣きそうになって唇を噛み締めていると、彼の大きな手がポンポンと頭を叩いた。

「きちんと風呂入って、温かくしてから寝ろよ。」

風邪ひくなよ?

そう言って、帰ろうとしている黎翔の腕を、夕鈴は反射的に掴んでしまった。

「あ、あの、課長!お風呂、せめてお風呂に入って行って下さい…!」

彼が逃げないようにギュウッと腕を抱き込み、慌てて取り出した鍵で玄関を開ける。

「――いや、私は大丈夫だ。」
「ダメです!…このまま帰ったら、絶対風邪ひきますって!」

何だか焦ってる彼の背を押して、無理矢理部屋の中に押し込む。

所在無さげに立ち尽す黎翔を放置したまま、夕鈴はすぐに湯船に湯を溜め始めて、箪笥からバスタオルを引っ張り出した。
このアパートは狭いながらもバス・トイレが分かれていて、脱衣所もある。
コートは脱いでいたものの、まだ何だか戸惑っている黎翔を、夕鈴はそこに放り込んだ。

早く早くと追い立てられ、黎翔は脱衣所で鏡に映る自分の姿を見て溜息を吐く。

――彼女は。

自分をどう思っているのだろう。

確かに職場では彼女の上司だが、これでも立派な男なのだが。

一人暮らしの部屋に男を上げて、何かあったらどうしようとか思わないのだろうか?

上司を信用しているのか、全く何とも思っていないのか。
それとも。

(…私は男だと思われていないのか?)

思わず溜息が漏れた。

スーツの上着を脱ぎ、しゅるりとネクタイを外す。
シャツのボタンを外し、上半身裸になった時、突然背後の扉が開いた。

「――課長、白いボトルがシャンプーで、ピンクがコンディショナーですからね!」

まさか入ってくるとは思わず、驚いて顔を上げた黎翔は鏡に映った彼女の顔が真っ赤に染まっていくのを見た。

「ごっ…ごめんなさいっっ!!」

バタンと扉が閉まる。
黎翔は片手で顔を隠し、深い溜息を吐く。

「勘弁してくれ…。」

彼の呟きは誰も聞く事なく闇に溶けた。


続く


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よろしくお願いします。

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