兎と狼のラビリンス

こちらは白泉社『狼陛下の花嫁』の二次創作ブログサイトです。(作者様・出版社様とは関係ありません)

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上司と部下の、聖なる夜

2013年クリスマス小説をお届けします。

書き上がったシリーズから、アップしていこうと思います。
全ては書き切れないかもしれませんが、12月末を目安に頑張りたいと思います。

第一弾は『上司と部下シリーズ』の二人です。
相変らず不器用な二人の、クリスマスイブのお話。

とっても長いのでご注意下さい。なかなか終わらなくて焦りました

あまり難しく考えずに、軽く読んで下さる方だけどうぞ





上司と部下の、聖なる夜


「―――?」
「…うん。難しいかなあ…。」

頬を染めて少し俯き加減で、もじもじしながら言う夕鈴を見て、彼女の幼い頃からの友人明玉は、いつも意地っ張りの親友も、ようやく自分の気持ちに正直になったかとホッとする。

「大丈夫!この明玉に任せなさい…!」

だから、この奥手の親友のために、力になってやろうと彼女は思った。


綺麗なイルミネーションで飾られた街中は、夜遅い時間帯でもとても明るい。
24日、仕事を終えた夕鈴は一度帰宅しお風呂に入り着替えると、待ち合わせの場所に向かっていた。
相手は、職場の自分の上司。
別に恋人と言う訳ではない。

けれど、夕鈴は密かに彼の事を想っていた。

クリスマスイブと言う特別な日だから呼び出したのだと思われたくなくて、服装は普段着に近いものにした。
踝までくる長めのスカートに、少しだけヒールの高い靴。
いつもと違うのはそのくらいだ。

用意したプレゼントが入った袋を掲げ、恋人たちが腕を組んで行き交う歩道を白い息を吐きながら進んでいた彼女は、ふと目に入った店に足を止めた。
歩道から店内が見える、小さいながら高級感溢れるレストラン。
窓際のテーブル席に、恋人同士だと思われる男女が座っている。
その姿を見て、夕鈴は既視感に襲われた。

一年前の今日、夕鈴は残業を終え、この道を通った。
寒い外とは違い、とても暖かいだろう、明るい店内。
そこに、入社当時から密かに好きだった、自分に対してはとても意地悪な上司の姿があった。

彼の向かい側に座っていたのは、とても美しい女性。
恋人だったのかは分からないが、にこやかに談笑しながら食事をしている二人の姿を見て、胸が苦しくなったのを覚えている。
見ているのが辛くて、足早に歩き去ったあの夜。

今夜そこには、別のカップルが座っている。

あの日から一年がたち、彼と夕鈴の関係は少しだけ変わってきた。
課長が意地悪なのは相変らずだが、たまに二人だけで食事に行くようになり、ついこの前は(不可抗力だったが)彼が夕鈴ののアパートに泊まっていった。
たまに優しさを見せてくれるようになった課長に、夕鈴は勇気を出して聞いてみたのだ。

「…24日の予定?」
「はい…。」

終業時間が過ぎても、何だか忙しそうにしている彼に話し掛けるのは凄く勇気が言った。
しかも仕事の事ならともかく、完全にプライベートの事。
「職場でこんな事を聞くな」と怒られるかとドキドキしていたが、課長は普通に答えてくれた。

「その日は、確かR社との会談があるな。終わるのは…18時くらいか。」

書類に目を通しながら、彼はそう答える。

「…じゃあ、あの!その後、少しで良いんで、会えませんか!?」

思わず大きな声が出てしまい、彼はギョッとしたように顔を上げた。
驚いている表情を見て、夕鈴はハッとして顔を真っ赤にする。

「すみません…。」

周囲にいた一課の同僚達が、一瞬動きを止めながらも、にこやかにそんな二人を見ている。

「会談の後、たまに食事に誘われたりするから、本当に遅くなるかもしれないぞ。」

苦笑いをしながら、それでも良いかと聞いてくる。
頭ごなしに断られなくて夕鈴はホッとした。

彼との約束は、20時にした。
駅の向かいにある公園の、大きなツリーの前。
居酒屋かバーにでも行こうかと言う話になっている。

朝から雪がちらついていた今日は本当に寒い。
もこもこのダッフルコート、手袋、マフラーで夕鈴は防寒対策バッチリだ。
幸せそうな笑みを浮かべて道を行き交う人々を見ながら、彼女は課長が来るのを待った。


R社は、隣の市にある。
古くから白陽コーポレーションと取引をしている、大会社。
そこの社長とは顔なじみで、夫人とも親しい。
商談が終わった後顔を見せると、早速「夕食を共にどうかね?」と誘われてしまった。
無下に断るわけにもいかず、「少しなら。」と付き合う事にする。
商談が早く纏まったので、今の時刻は17時。
部下との待ち合わせは20時だから、少しくらいなら大丈夫だろう。

――その考えは甘かった事を、黎翔は知る事になる。
社長の自宅に案内され、談笑する事二時間。
19時を回り、黎翔は時間が気になってそわそわしていた。
社長も悪い人間ではないが、酒が入ると少し気が大きくなるらしい。
そろそろお暇しようと声を掛けると、「もう少しだけ良いじゃないか。」と引き止められてしまう。

夫人が気をきかせて送り出してくれたが、ワインを少し飲んだため、車を社長宅に置かせてもらい、タクシーで向かう事にした。

朝から降り続ける雪は止む事はなく、煌びやかな街に降り注ぐ。
気温が下がった夕刻には、すでに積もっている場所もあった。
路面も凍結している場所があり、ベテラン運転手もスピードを落とさずを得ない。

黎翔は溜息を吐き、間に合いそうもないのでどこか暖かい場所にいるように夕鈴にメールを送った。

揺られながら、窓の外を見ていると、タクシーのスピードがだんだん遅くなった。
のろのろとしか動かなくなり、黎翔は運転手に声を掛ける。

「何かあったんですか?」
「この先でスリップ事故があったらしい。かなり渋滞している。兄ちゃん、歩いた方が早いかもしれないよ。」

こんな時に…と、黎翔は唇を噛む。
料金を払い礼を言ってタクシーを降りると、黎翔は待ち合わせ場所に向かって走り出した。


「…遅いな。」

夕鈴は駅の時計を見上げ、ポツリと呟いた。
遅くなるから、どこかの店の中にいるようにと課長から連絡があったのは19時を大分過ぎた頃。
すでに20時を過ぎているが、それから何の連絡もない。
彼の携帯に掛けても、いきなり留守番電話サービスに切り替わった。

そう言えば、あの忘年会の夜、彼から「携帯どうしたんだ?」と聞かれた。
「充電切れでした。」と答えたけれど、本当は誰とも話したくなかったから、電源を落としていた。

「あの日、課長もこんな気持ちだったのかな…。」

連絡もなく、掛けても繋がらない。
今彼がどこにいるのかも分からない。
あの夜、寒さに震えながらアパートの前でずっと待っていてくれた課長。
その時の彼の気持ちを、今頃になって理解する。

冷たい風に身を竦ませながら、夕鈴は空を見上げた。

コートを翻し、黎翔は薄く雪が積もった歩道を走る。
夕鈴にメールをしようとポケットから携帯を出した時、他の歩行者が足を取られよろめき、黎翔にぶつかった。その弾みで飛んで行った携帯は運悪く植込みの端に当たり、壊れたのか今も画面は真っ暗のまま。
さすがの彼も番号を覚えていなくて、これで連絡を取る手段が無くなってしまった。
彼女との待ち合わせ場所は、駅前の公園。電車で行こうかと思ったが、酷くなった雪と風に、19時頃から運転を見合わせているらしい。

悪い事は続くものだなと、黎翔は溜息をついた。

駅前に着いた時には、もう21時を回っていた。
いつもは沢山の人で賑わっているこの場所も、電車が止まっている上、この天候のせいで人通りが少ない。
黎翔は立ち止まって軽く息を整えると、周辺を見渡した。
近くにあるコンビニを覗いてみても、夕鈴はいなかった。22時まで営業のブティックがあったので入ってみたが、そこにも彼女の姿はなかった。

連絡の手段が無く、どこにいるのか分からない。
キョロキョロと他に場所はないかと探していると。

「…あの子、さっきもあそこにいたよね。」
「この寒い中、誰かを待っているのかしら。」

母娘だと思われる中年女性と若い娘が、そう話しながら黎翔の前を通り過ぎていく。

(…あの子?)

「ツリーの前で待ち合わせなんて、相手は恋人だと思うけど。フラれちゃったのかな?」

二人の後姿を見ながら、黎翔は考える。
この周辺で、ツリーがある場所はただ一つ。
待ち合わせ場所の、公園だけ。

「まさか…!?」

嫌な予感がして、黎翔は慌てて公園に向かった。


周辺のライトが落とされ、薄暗い公園。
ツリーのイルミネーションだけが、ぼんやりと辺りを照らす。
毎年、このツリーを見る人々で溢れている公園も、この雪のせいで人は疎らで静かだった。
そんな人気のない場所に、彼女は、居た。

大きなツリーの前、傘も差さずにぽつんと立っている。

「――汀!!」

驚愕に目を見開き、黎翔は夕鈴に駆け寄る。
下ろされている長い髪や肩に、うっすらと雪が積もっている。
肌を刺すほどの冷気に頬を赤くして、彼女はガチガチと歯を鳴らしていた。

「課長…。」
「バカ野郎っ!…どこかの店に入っていろとメール送っただろう!?」

自分を見てホッと表情を緩めた夕鈴に、メールを見なかったのかと声を上げる。
この寒さの中、一時間以上ずっとここにいたと言うのか。

「メールは、見ました。」

確かに彼からのメールは見た。
そして一度は、ここに来る前に見つけていたコンビニに行こうかと思った。
けれど、その時彼女の脳裏に浮かんだのは、立てた膝に顔を埋め、扉の前でずっと自分が帰ってくるのを待っていてくれた課長の姿だった。

適当に理由を付け、何度も誘いを断った挙句、連絡もせずに素っ気ない態度ばかり取り続けた自分を責めなかった課長。寒さで蒼褪めた唇で、安堵したようにホッと息を吐いた彼。

――今度は、私が待つ番。

舞い降りてくる雪を見上げて、白い息を吐きながら夕鈴はそう思った。

「だからってなあ…。ああ、もうっ…!」

何だかイライラしたように髪を掻き上げた黎翔は、夕鈴の頭や肩に積もった雪を払い落とす。
そして彼女の背中に腕を回し、歩くように促した。
着ているダッフルコートもマフラーも、溶けた雪で湿っている。
早くどこかに入って、身体を温めなければきっと風邪を引いてしまう。

周囲に目を向ければ、さすが駅前。沢山のホテルが立ち並んでいる。
適当に何件か当たってみたが、クリスマスの夜は何処もいっぱいだった。

黎翔がフロントで聞いている間、ロビーで待っていた夕鈴の元に戻ると、彼女は震えながら自らの身体を抱き締めていた。唇が紫になっているのを見て、急がなければと思う。
腕を引きながらホテルを探していると、彼女の足が止まった。

「課長、あの綺麗なホテルとかどうですか?」

無邪気に聞いてくる部下に、がっくりと肩を落とす。
純真無垢なのか、単に鈍いだけか。
彼女が指差す方向には、煌びやかなネオンを発するホテルが並んでいた。

「あのなぁ…。あれがどういうホテルか教えてやろうか?」

呆れながら夕鈴の耳元で囁いてやる。
途端に、彼女の頬がポフンと真っ赤になった。

「な、ななな……っ!」

ワタワタしている夕鈴を、「行くぞ」と促す。
断じて、ラブホテルに向かっているわけではない。

駅から10分ほど歩いた場所にあった、少し高めのビジネスホテルに入り、夕鈴をバスルームに放り込む。
ツインの部屋を取ったので、彼女がシャワーを浴びている間、片方のベッドに座り溜息を吐く。
何もかも予定外だ。

こうやって彼女と同じ部屋にいるのも、彼女がバスルームから出てくるのを待っているのも。
決して、下心があるわけでは、ない。

「課長、…あの。」

ガチャリと扉が開き、バスルームから出てきた夕鈴を見て黎翔は驚いた。

「き、着方が分からなくて…。」

身体を隠すようにバスローブを押えている。
一体どうしろと言うんだと、頭が痛くなった。

初めて着るバスローブはどうやって着たら良いか分からず、夕鈴はずり落ちない様に手で押さえてバスルームを出た。やれやれと言った感じの課長が整えてくれるが、何故だかそっぽを向いている彼の耳が赤いのは私の気のせい?

首を傾げていると、ばさりと頭にタオルを被せられた。

「わぷ!」
「ちゃんと拭いておけ、風邪ひくぞ!」

そう言いおいて、彼はバスルームに消えた。

ソファに置かれた、大事なプレゼントの包み。
ビニール製のバックに入れておいて良かったと、夕鈴はホッと息を吐く。
これを渡したくて、今夜忙しい課長を呼びだしたのだから。

――本当は。

課長を待っている間、彼は自分に会いたくなかったのかなと不安になった。
遅れると言う連絡を最後に、待ち合わせの時間を過ぎても携帯は鳴らない。
彼は会いに来てくれないんじゃないかと、不安に押し潰されそうだった。

けれど、課長の姿を見た時、その思いは杞憂だった事に気付く。
走ってきたのだろう。吐く息は荒く、いつもきちんとセットされている髪は風に悪戯されて、ぼさぼさになっている。
ズボンの裾は土で汚れていて、雪が積もった不安定な道を、どれだけ急いできてくれたのだろうと、夕鈴は泣きそうになった。

いつも素直になれなくて、気持ちを伝える事が出来ないけれど。今夜はちょっとだけ勇気を出して、このプレゼントを彼に渡したい。

ガチャリと扉が開き、出てきた課長は自分と同じバスローブ姿だった。
なんとなく目のやり場に困るなあと、夕鈴は視線を泳がせる。
がしがしとタオルで髪を拭きながら歩いてくる彼は、ただそれだけでとても絵になる。
決して惚れた欲目だけではないと思う。

じっと目で追っていると、ドカリと空いているベッドに腰を下ろした課長が「何だ?」と聞いて来た。

「あ、あのっ!」

今しかないと思った。
このタイミングを逃せば、きっと渡すチャンスを失う。
夕鈴は持っていた包みを、ずいっと彼の方に差し出した。

「全然大した物じゃないんですけど!ひ、日頃ご迷惑掛けているお詫びと言いますか、感謝の気持ちですっ!」

お互いベッドに腰掛け、向かい合い。
黎翔は差し出される包みを見て、面食らっていた。
下を向いているので表情は見えないが、彼女の余りの必死さに驚く。

(は、早く~。)

なかなか受け取ってもらえなくて、夕鈴は真っ赤になった顔を上げる事も出来ない。
凄く勇気を出しているのだから、早くして欲しいと思う。
しばらくの沈黙の後、スッと手が軽くなってホッとする。

「…開けても良いか?」
「え?あ、はいっ。どうぞ!」

がさがさと包装紙を綺麗に剥すと、現れたのは温かそうなセーターだった。
しかも、一見売り物にも見えるが、所々目が粗かったり寄ったりしている。

「おまえ、これ…。」

課長が絶句している。

「は、初めて編んだので見栄え悪くてすみませんっ!そうですよねっ、こんなの着れないですよねっ!すみません、私ったら考えなしで恥ずかしい…!」


『…手編みのセーター?』
『…うん。難しいかなあ…。』

いつも世話になっていて、迷惑を掛けている課長に何か贈りたくて。
街に買い物に出た時目に付いた毛糸で、何か編んでみようかなと思った。
手袋やマフラーは、人の目に触れる。それなら室内で着て貰えるセーターを送ろうかと思ったが、家事は得意な夕鈴でも、編み物はした事が無かった。

手先が器用で、編み物やビーズアクセなどが得意な親友明玉に相談した日。
彼女は快く引き受けてくれて、それから仕事が終わると明玉の家に行って編み物をする日が続いた。
課長のサイズは、社きっての美人女医・珀瑠霞先生に教えてもらった。
一時期、彼女は課長の恋人なのでは?と不安に思っていた時があったが、本人は至極嫌そうに否定をしてくれた。

親戚で課長の叔母にあたる彼女曰く、
「あの子の恋人なんて、まっぴらごめんだわ。」
だそうだ。

明玉に教えてもらって初心者の割には上等なものが出来たが、それでも素人が作ったものだと一目で分かる目の粗さ。いきりなセーターを編むなんてやっぱり無謀だったかなと肩を落としたが、明玉は出来栄えを褒めてくれた。

「こう言うのってさ、要は気持ちだと私は思うんだよね。」

不器用でお互い言葉が足りない夕鈴と課長。
進展があったら良いねって、彼女は言ってくれた。

けれど。

課長は何だかすごく困ったような表情でセーターを見詰めている。

それはそうだ。
彼くらい容姿端麗で、仕事も出来る男なら、沢山の女性からプレゼントをもらう事だろう。
その中には、手編みのものもあったかもしれない。
それに比べると、なんと貧相で見栄えのしない物か。

惨めになって、目の淵に涙が浮かぶ。
夕鈴は自分のしている事が凄く恥ずかしくなった。

「課長、やっぱり返して下さいっ!」

こんな事しなければ良かったと、夕鈴は彼の手からセーターを取り上げようと手を伸ばした。

密かに想っている女性から、こんな嬉しいプレゼントをもらえるなんて思ってもいなかった。
優しい色合いの、温かそうなセーター。
きっと苦労して編んだのだろう。
日々の業務で疲れて帰って、睡魔と闘いながら仕上げてくれたのか。

色々考えてしまい、つい無口になってしまった事が、彼女に誤解を与えたらしい。
飛び掛かってきた夕鈴の手に取られないように、腕を高く上げる。

「うわっ、汀っ…!」

取り返そうと必死な彼女に、ベッドに押し倒されてしまった。

「ご、ごごごごごめんなさいっ」

今の自分達の状況を理解して、慌てて飛びのこうとした夕鈴の腕を黎翔は掴んだ。

「…お前が、私のために頑張って作ってくれたのなら、どんなものでも嬉しい。だが、私は何も用意していない。それでも、もらっても良いか?」

揺れる部下の瞳を見上げる。
一番気にしていたのはそこだった。

今まで、彼は自分から女にプレゼントを贈った事が無かった。
学生時代に勝手に自称彼女を名乗る女どもからプレゼントを強請られる事があったが、めんどくさいので全て李順や使用人に任せていた。

夕鈴に今夜会えないかと言われた時、黎翔はクリスマスの事なんて全く頭になかった。
待ち合わせに間に合いそうもなくて時間を気にしていた時、R社の社長夫人から、「せっかくのクリスマスですもの。貴方の事だから、きっと素敵な女性が貴方を待っているのでしょう?」と送り出され、ようやく気付いたくらいだ。

このプレゼントの代わりになるような物を、自分は何も贈る事が出来ない。
それでも。

「――課長が、もらってくれるだけで嬉しいです…。」

自分の上に乗っかったまま、そう呟く真っ赤になった可愛い部下が、とても好きだと思う。

「ありがとう。」

プルプルと首を横に振る彼女の頭を、クシャリと撫でてやった。

聖なるクリスマスの夜。
まだ恋人同士とは言えない不器用な二人は、クリスマス仕様の少し豪勢なルームサービスに舌鼓を打った後。
一人ずつベッドに潜り込み、向かい合って、珍しく夜遅くまで話をした。


その翌日。

部下達の視線が鬱陶しい。

何だ?その期待に満ちた目は?
ニヤニヤしながら仕事をするな。

朝から課長の声が飛ぶが、一課は妙に浮足立っている。
それと言うのも、いつも朝早くから出社している課長は始業ギリギリに来て、入社二年目の女性社員・汀夕鈴はまだ出社していない。
そして、彼は初めて見る手編みっぽいセーターを着ているのである。
二人の微妙な関係を知っている社員達からすれば、気になって仕方が無い。

「おはようございます…。」

窺うように、一課の入り口から声が掛けられる。
一時間遅れて出社した夕鈴が、課長のデスクの前まで行って頭を下げる。
そして、彼が着ているセーターを見て、一瞬で真っ赤になってしまった。

「か、課長…。恥ずかしいから、社では着ないで下さい。」
「何故だ?暖かくて、重宝しているぞ?」

こそこそと話す二人に聞き耳を立てるものの、何かを言うような無粋な事を一課の面々はしない。
約一名を除いて、まるで自分の事のように嬉しそうに微笑んでいた。

そしてその日の昼休み。

課長に声を掛けられた夕鈴は、彼の後についていく。
普段あまり来た事が無い階の、植え込みに隠れた廊下の影。
キョロキョロと周囲を確認して、黎翔は夕鈴にポケットに入れていた小さな箱を手渡した。

「…え?」

きょとんと、夕鈴が目を丸くしている。

今朝夕鈴が遅れたのは、ホテルを出た後、一度家に戻ってスーツに着替えて出社したからだ。
つまり、課長の事前承諾済み。
黎翔も同じように一度マンションに戻ったが、男の準備は早い。
すぐに家を出た黎翔は、昔馴染みの宝石店に寄ってから会社に来たので始業ギリギリになった。

「ほら。」

なかなか受け取らない彼女に、それを押し付け、開けてみろと促す。

「言っておくが、女にプレゼントなんかした事ないから、気に入るかどうか分からないぞ。」

箱の中には、何だかすごく高そうなプラチナネックレス。ペンダントトップに、一粒のダイヤが輝いている。

「それなら、服の中に隠せるし、仕事の邪魔にもならないだろう。」

何気なく言って夕鈴を見た黎翔はギョッとした。
彼女は、泣いていた。
それを包み込んだ両手をギュッと胸に抱き締め、俯き、幸せそうに。

「な、何も泣く事はないだろう…。」

悪い事をしたわけでもないのに、ついオロオロしてしまい、誰にも見られたいないか挙動不審になる。

「う、嬉しいんです…。課長、ありがとうございます。大切に、します…!」

彼女の頬を流れる涙はキラキラと光りとても綺麗で、黎翔は溜息を吐いた後。

泣き続ける夕鈴を引き寄せ、自分の胸に押し付ける。

窓の向こうは一面の雪景色。
昨日から降り続ける雪が、しんしんと降り積もる。

暖かい胸に抱き締められ、愛しい人の鼓動を聞きながら。
夕鈴はそっと、目を閉じた。


END


好きな人に手編みのセーターを贈る夕鈴とか、クリスマスの事が全然頭になく、プレゼントをもらったのに自分は何も用意してなくて焦る課長とか。

そんなのをただ書きたかっただけ


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Comment

 

いつになく、優しい課長が良かったです。このシリーズ好きですが、課長はタバコを吸うのが気になります。夕鈴が禁煙を手伝う話なんて、書いていただけないでしょうか?
  • posted by 聖璃桜 
  • URL 
  • 2013.12/09 02:04分 
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きゃぁーー 

待ってましたよぉ〜
クリスマスSS♪

すっごく
楽しませてもらいましたぁー
夜中なのに
1人叫んでいましたぁ〜
ってもう…
不審者ですよ…。


上司と部下シリーズ大スキなので、感激です☆
やっぱり
あの2人可愛いですよねぇ〜ふふっ♪

そういえば…
夕鈴ちゃんが見た…黎翔さんと親しげに話していたって人って誰なんでしょ?

クリスマスSS
始めからもぉ〜萌えっ!ですね☆
次も
楽しみに待ってまぁ〜す♪
でわ♪
  • posted by 鈴 
  • URL 
  • 2013.12/09 02:25分 
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管理人のみ閲覧できます 

このコメントは管理人のみ閲覧できます
  • posted by  
  •  
  • 2013.12/09 23:57分 
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管理人のみ閲覧できます 

このコメントは管理人のみ閲覧できます
  • posted by  
  •  
  • 2013.12/10 23:16分 
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Re: タイトルなし 

聖璃桜様

初めまして、ですよね?
コメントありがとうございます♪
このシリーズが好きと言う事で…。嬉しい限りです。
クリスマスSSなので、ちょっと優しい課長を書いてみました。
普段からこのくらい優しかったら、夕鈴に誤解される事もないのになあ…。
たばこネタは、いつか書かせて頂いて構いませんか?
出来るなら、恋人同士の関係になってから書きたいネタです(^v^)
  • posted by 高月慧ネン 
  • URL 
  • 2013.12/11 21:12分 
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Re: きゃぁーー 

鈴様

コメントありがとうございます(^v^)
夜中には叫んじゃダメですよ?近所迷惑になります。
どうせなら部屋で一人うふふ笑いを(余計怖い…。)

夕鈴が昨年のクリスマスに見た女性は、実はどこかの社長とかそう言うオチです。
まあようするに、クリスマスイブに商談?
上手いように纏まって、課長もご機嫌だった…という感じです。
次…次も頑張りますね(*_*;
  • posted by 高月慧ネン 
  • URL 
  • 2013.12/11 21:17分 
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Re: (≧∀≦)♪ 

風花様

コメントありがとうございます♪
ホント、どうして付き合ってないんでしょうね?この二人。
まあ最初の頃に比べると、付き合い始めるのも時間の問題のような関係になってきました。
不器用すぎる二人を見守る明玉や一課の面々を書くのも面白いです♪
第一弾と銘打ちましたが、第二弾は………。
頑張ってみますが、どうなる事やら?です(*_*;
  • posted by 高月慧ネン 
  • URL 
  • 2013.12/11 21:25分 
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Re: タイトルなし 

名無しの読み手様

コメントありがとうございます♪
押し倒す前に、まずは告白~。
課長は紳士というより、ただヘタレなだけでは?って感じです。
だから一課の面々もヤキモキしてる。
早く男らしく告白して、付き合っちゃえば良いのに(^v^)
初詣ネタは新年に欠かせないですが、クリスマスSSを書いた後なので、燃え尽きて何も書けないかもです…。
  • posted by 高月慧ネン 
  • URL 
  • 2013.12/11 21:28分 
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高月慧ネン

Author:高月慧ネン
『兎と狼のラビリンス』へようこそ。
黎翔と夕鈴が大好きな管理人・慧ネンが、溢れる妄想を書き殴るために作ったブログです。
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よろしくお願いします。

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