兎と狼のラビリンス

こちらは白泉社『狼陛下の花嫁』の二次創作ブログサイトです。(作者様・出版社様とは関係ありません)

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♪ドラマのように、衝撃的な

このお話は『♪ドラマのような、出会いじゃなくても』の続きです。

夕鈴、黎翔のもう一つの顔を知ってしまいます。



「お疲れ~」

「お疲れ様でした~!」

午後九時過ぎ、夕鈴はコンビニのバイトを終えて、裏口から通りに出た。学校が春休み中の今、夕鈴は朝から晩までバイトを入れている。

今日は朝八時から十二時までをカフェのバイト、午後一時から九時までコンビニでのバイト。

「はー、疲れた…」

立ち仕事が主なので、まだ若い夕鈴といえど足がパンパンになっている。今日は土曜日と言う事もあって、どちらのバイトも多忙だった。

本当はもう少し遅い時間まで働けたら時給が良いのだが、如何せん高校生の夕鈴は余り遅い時間まで雇ってはもらえない。仕方の無い事だが、時間が勿体無いな、と夕鈴は思う。

(帰って勉強でもしようかな…)

コンビニ袋を手にぶら下げながら、夕鈴は家に向かって歩き始めた。

弟や父は、年頃の夕鈴が夜遅くまでバイトをする事を反対はしないが、夜道を帰ってくる夕鈴の身を心配している。

悪い男に絡まれたりしないか、暴漢に襲われたりしないか。
出来るだけ人通りの多い、明るい道を帰ってくるようにと、耳にタコが出来る程言われている。

(二人共、心配性なんだから)

だが夕鈴は、全く身の危険を感じていなかった。

自分が男勝りだと分かっている夕鈴は、そんな自分に声を掛けてくる男なんているはずが無いと思っていた。幼い頃から幼馴染である几鍔と喧嘩ばかりしていたので、腕には少し自信がある。

もし絡まれたりしても、返り討ちにしてやろうと、父や弟が聞けば卒倒しそうな事を考えていた。


♪ドラマのように、衝撃的な


土曜日の夜は、通りは沢山の人で埋め尽くされている。

仕事帰りだと思われるサラリーマンやOL。これから夜遊びに向かうのか、若い男女達も楽しそうに道を行き交う。擦れ違いながら歩いていた夕鈴は、沢山の人達が集まっている場所でふと足を止めた。

足を止めて視線を心なしか宙に向けているのは、圧倒的に女性が多かった。だが、若者から結構年齢がいっている女性など、その年齢層は様々だ。

彼女達が見ている方向に目を向けた夕鈴は、目を瞠った。

彼女達が見ていたには、街ビルに備え付けられた大きなテレビ画面だった。
アーティストのライブ情報を伝えているらしいブラウン管に映っていたのは、夕鈴も会った事がある、あの、男。

二日前、あるテレビ局で清掃のバイトをした時、最上階フロアの一室で会った一人の男は。

『彼女とSEX出来なくって、…私は今、気が昂ぶっている。』

あろう事か美女をソファに押し倒して、コトを為そうとしているのを夕鈴に見られた挙句、

『…今度は君が、私の相手をしてくれないか?』

凄い事を、夕鈴に言った。

『…君だってそのつもりで、この部屋に来たんじゃないの?』

『この私に抱かれるんだ。…これ程名誉な事はあるまい。』

余りの強引さ、自分勝手さに夕鈴はムカつき、男の頬を引っ叩いて部屋から追い出した。男の素性は分からなかったが、テレビ局内にいるのだから局関係者か芸能人かな、とは思ったが。


「キャー、Creuzだ!」

「あ~ん、やっぱりカッコイイ!」

夕鈴のすぐ傍で、女子高生らしい数人がキャアキャアと楽しそうに話している。

「皆、カッコイイよね。ねえねえ、誰が一番好き?」

「私はSuiかな!…あの優しそうな感じが好き!」

「私はRyu!あの堅物そうな所が良い!」

「Hiroはなんか、優しいお兄ちゃんって感じで良いよね!」

友達同士で、それぞれ思うことが違うらしいが…。

「…でもやっぱり、Creuzの中ではRei様が一番よね!」

うっとりと、頬を赤くして彼女達は画面に魅入る。


くろいつ…?

れい、さま?


(何?…今の日本語?)

彼女達の話は夕鈴にとっては意味不明で、まるで宇宙語を聞いているようだった。

画面の中央でマイクを握り歌っている紅い瞳の男は、彼女達が言っているように確かにカッコイイが…。

(…性格は最悪よね。)

知らぬが仏、と言う事なのかもしれない。

だがやはり、彼は芸能人だったという訳で…。

(…叩いたのは、やっぱマズかったかな…?)

自分の掌を見詰め、夕鈴は少し心配になる。

(…訴えられたりしないよね?)

今更ながら、自分の行いを少し悔やむ夕鈴だった。


再び歩き始めた夕鈴は、街の喧騒を抜け公園に差し掛かった。人通りは少なく薄暗いのだが、余り大きな公園ではないのですぐに通り抜けられる。

父の言葉を無視するようで心苦しいが、バイトをしているコンビニから帰宅するにはここを通るのが一番近いのだ。

急ぎ足で通り抜けようとしたが、公園の奥のベンチの上に座っている男を見て、夕鈴はまた足を止めた。ベンチのすぐ傍にある外灯が、その周辺だけを明るく照らしている。

男は深めに帽子を被り、黒縁の眼鏡を掛けているが、その横顔は間違いなく…。

(…ウソ!…なんでこんな所にいるの!?)

夕鈴は慌てて、近くの植え込みの影にしゃがみ込んだ。

そこにいた男は、夕鈴がテレビ局で会い、先程女の子達が騒いでいた人物-。

CreuzのReiだった。


隠れるようにしゃがみ込んだ植え込みの隙間から、夕鈴はジッと男を見詰める。彼は何をするでもなく、疲れたようにベンチに腰掛けている。

ふと、公園の奥からトトト…と彼の座っているベンチに駆けて来る小さな影があった。

「…あ、いたいた。…なかなか来ないから、何かあったのかと心配したよ?」

男はそう言って、足元によって来た小さな影を抱き上げる。
男が抱き上げたのは、茶色い毛並みの子犬だった。

「はい、これ。」

傍に置いてあったコンビニのものらしい袋から、何かを取り出し紙皿に移しているのを、夕鈴は呆然と見ていた。

「あはは、そんなにがっつかなくても、誰もとったりしないよ?」

よほどお腹が空いていたんだねえ…と笑う彼は、一体誰なのだろうか?

男が持ってきた餌を食べ尽くした子犬は、抱っこしろとせがむように彼の袖を引き。男が抱き上げると、感謝の意を込めるように、男の顔を嘗め回した。

「…わっ、こら!…あはは!…くすぐったいよ!」

無邪気に笑う彼は、あの時のような傲慢さも、狼のような獰猛さも無く。

ただ一人の、純粋な少年のようだった。

「…もう!…顔中ベタベタになっちゃったよ?」

メッと、怒られているのに、子犬は尻尾をはちきれんばかりに振って喜んでいる。男は溜息を吐いているが、その顔は「仕方ないなあ…」と嬉しそうだ。

「…ごめんね。僕が飼ってあげる事が出来たら良いんだけど…。仕事も不規則だし、世話できないんだ…。」

悲しげに呟く男は子犬の頭を数回撫で、ベンチに下ろした。

「ごめん、もう時間だから僕行くね。…また来るからね。」

腕時計を確認してから男は立ち上がり、公園の出口、夕鈴が行こうとしていた方向に向かって歩いていく。


男の姿が見えなくなり、あの子犬も、またどこかに隠れたようだ。

じっと、男を見ていた夕鈴は、ペタン…とその場に尻餅をついて座り込む。

「…ウソでしょ?」

ドキドキと、高鳴る胸。

「あんな、あんなの見せらたら…」

カアッと、頬が赤くなる。


子供のように子犬と戯れる彼。

とても優しげな表情で、子犬を見詰めていた彼。

ただ楽しそうに。ただ純粋に。

歳相応に、笑顔を見せた一人の青年。


テレビ局で見た彼は演技で、あれが彼の、本性だとしたら…。

「詐欺だわ、こんなの…」

いけ好かないヤツだと、嫌っていられたら良かったのに。あの姿を見てしまった今、彼を嫌う事など出来そうにない。

それどころか、あの優しげな微笑を思い出すだけで…。

ボンっと、夕鈴の顔が火を吹いた。

「嘘でしょう~!?」

地面に座り込んだままジタバタしている夕鈴の姿を、明るい月だけが見ていた。



続く
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