兎と狼のラビリンス

こちらは白泉社『狼陛下の花嫁』の二次創作ブログサイトです。(作者様・出版社様とは関係ありません)

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狼陛下の『花嫁』選び・其の五

夜分遅くに失礼します(←いつもの事。)

五話目をお届けしてから寝ようと思います。

このお話は一昨年の今頃に書いた作品ですが、この頃の慧ネンは何かに取りつかれていたのでは?と思えるほど、更新頻度がハンパなかったです。

ブログは、ほぼ毎日更新。
小説も、2、3日おきに書いていました。

あの頃に戻れたら良いな、と密かに思います。

では、どうぞ!


***



狼陛下の『花嫁』選び・其の五


「…夕鈴様!」

侍女達の悲鳴を最後に、夕鈴の意識は闇に飲まれた。


大貴族の候補者達に、嫌がらせを受け初めて数日。子供のような嫌がらせが続くばかりなので、夕鈴は陛下にも黎夾にも紅珠にもその事実を話していなかった。

何かある度に夕鈴自身より侍女達の方が慌てふためき、陛下への進言を再三申し出てきたが、夕鈴は余り気にしていなかった。

ここで自分が過剰に反応すれば、彼女達の思う壺だ。何事も無い様に振る舞っていれば、彼女達もやがて諦めるだろうと思っていた。

そんなある日、食事会から自室に戻った夕鈴は、黎鈴の籠の前にしゃがみ込んでいる人物が目に入った。

黒い外套をすっぽり被った怪しい人物に、夕鈴は一瞬動きを止めたが、その人物が籠の蓋を開け、中に手を差し込んでいるのを見て駆け出した。

「誰!?…その子に何をするの?!」

その声に驚いたように振り返った人物は、手に持っていた何かを夕鈴に向かって投げ付けて来る。頭を掠っただけだったが、その攻撃に夕鈴の身体は思った以上の衝撃を受けた。

ぐらりと視界が揺れ、身体が床に崩れる。

霞む視界に移るのは、何者かの足と、籠から飛び出してきた黎鈴の姿。

(…ダメ、ここで、…意識を失ったら…黎鈴が……)

そう思うが、意識がだんだん沈んでいく。

「…夕鈴様?…どうされ…!きゃああ!」

物音に気付き入室してきた侍女が、目にした光景に悲鳴を上げた。侵入者が慌てたように走り出す気配を感じる。投げ出された指に、ぺろぺろと必死に舐める黎鈴の舌の感触。

「夕鈴様、しっかりなさって下さい!…夕鈴様!」

パタパタと駆け寄ってきた侍女達の悲鳴を最後に、夕鈴は意識を手放した。


妃候補者の一人・汀夕鈴が侵入者に襲われ怪我を負ったと言う報せは、すぐに白陽国国王・珀黎翔の耳に届いた。至急の案件を片付け、すぐに後宮の夕鈴の部屋に向かう。

突然の陛下の訪問に侍女達は驚き、近くにいながら夕鈴に怪我をさせてしまった事を詫びて来た。「詳しい事は後で聞く」と侍女を下がらせると、陛下は夕鈴がいる寝所に足を踏み入れた。

寝台の上には、頭に包帯を巻かれた夕鈴が横たわっていた。意識はまだ戻ってなく、頭に衝撃を受けたからか少し顔色が悪い。

陛下は彼女を起こさないように、寝台の縁に静かに腰を下ろした。彼女を守るように傍で丸くなっていた愛猫・黎鈴が、陛下の存在に気付きニィと声を上げる。シイ、と、陛下は口に人差し指を当てた。

陛下は身体を伸ばして、夕鈴を顔を見る。笑ったり怒ったり喜んだり、いつも表情豊かな夕鈴の初めて見る顔。苦しいのか少し眉間に皺が寄って汗もかいている。

「――夕鈴」

彼女の頬に、そっと手を伸ばす。

「君が…、君が大丈夫だと言ったから、僕はそのままにして置いたんだよ?」

実はあの日から、夕鈴には気付かれないように周囲を探らせていた。候補者達がどんな事をしたのか、陛下は全て知っている。

彼女達の嫌がらせは、国王である自分が彼女達に言えばすぐに無くなった筈だ。夕鈴が自分に言ってくれれば、助けを求めてくれれば、すぐに止める事が出来たのに。

「…僕を頼って欲しかったな…」

夕鈴の頬を撫でる陛下は悲しげに呟くが、その顔は少し困ったような表情で。

一人の男として彼女に頼ってもらいたいが、何者にも屈しない、強い彼女も大好きで。だから夕鈴が言ってくれるまで、自分からは動かないようにしようと決めた。

「…だが、君が怪我を負わされたなら、話は別だ。」

彼女を傷付けられて、許しておける訳がない。

「…黎鈴」

陛下は夕鈴の傍にいる黎鈴に手を伸ばし、小さな身体をそっと抱き上げる。いつも仲は険悪で、触らせてはもらえないのだが、今日の彼女は不思議なほど大人しくその手に納まった。

「…夕鈴を傷付けた者を見たか?」

黒曜石の瞳を見詰めながら問いかけると、彼女はニャアと鳴いた。

「…その者を捕まえたい。もう一度見れば分かるか?」

人間の言葉が猫である黎鈴に通じているかどうか分からないが、陛下はそう問いかけてみる。彼女は賢い猫だと、陛下は知っていた。主である夕鈴が大好きな彼女なら、自分と同じように夕鈴に怪我を負わせた輩を許しては置かない筈だ。

黎鈴が前足を動かし、陛下の手の甲に乗せた。黒い円らな瞳が、きつく細められた紅い瞳をまっすぐに見返してくる。

「ミャア!」

その瞳は、主を傷付けた人間を許さないと語っていた。


「すぐに王宮にお越し下さいませ。陛下が大変お怒りになり、貴女達をお呼びでございます。」

女官長が青褪めた顔で、彼女達に声を掛けてきた。

夕方に近いその時間帯に、妃候補者七人のうち五人が、王の前に平伏していた。玉座に座る王、傍には側近李順が控え、大臣達まで呼ばれている。さらに扉の前には衛兵が立ち、物々しい状態だった。

「陛下、急なお召し、一体何事でございましょうか?」

候補者の一人が思い切ったように声を掛けるが、その声色は震えていた。陛下は女官長が言ったように機嫌が悪いらしく、冷たい瞳が自分達を見ているからだ。

「…何事?か。…何故呼ばれたか、そなたらには身に覚えがないと?」

冷たい声に、部屋中の温度が下がる。呼ばれた理由を知らない大臣達も身を竦ませるほどだ。

「…は、はい。」
「何故私達五人だけ呼ばれたのか…。見当もつきませんわ…」

青褪めた表情のまま、「ねえ?」と彼女達は視線を交し合った。

「…この場にいない妃候補の一人、汀夕鈴が何者かに襲われ傷を負った。」

陛下の言葉に彼女達は「まあ!」と口に手を当てた。

「夕鈴殿が…。そ、それで傷の具合は…」
「大事無い。今は寝所で休んでいるが、明日には回復するだろう。」
「それはようございましたわ。」

夕鈴の傷の具合を聞いてホッとする彼女達は、本当に夕鈴の事を心配しているように見える。だがこの五人の中に、必ず夕鈴に傷を負わせた者がいる。

「…本当に良いのか?そなたらにとって、夕鈴は居なくなれば良かったのではないか?」

皮肉るように言った陛下に、彼女達は反論の声を上げた。

「…何を仰ります、陛下…!」
「陛下は私達を疑っておいでで!?」
「それならば、一番怪しいのはこの場に居ない紅珠殿では!?」

「氾紅珠は夕鈴の所だ。アレは夕鈴の事を姉と慕っている。…その彼女が夕鈴に害を為すとは思えない。」

夕鈴が怪我を負ったと聞き、止める間も無く紅珠は夕鈴の部屋に駆けていった。

「私が何も知らないとでも思っているのか?…そなたらが夕鈴にした事、全て報告は上がって来ているぞ。」

低い声で咎めると、彼女達は震えながら押し黙ってしまった。

「だがこの度の事は、見た人間がいない。」

陛下は溜息を吐く。夕鈴につけていた隠密は、今日に限って別任務で彼女から離れていた。夕鈴付きの侍女も、侵入者の顔を見ていない。

「では何故、私達を御呼びになられましたの?」
「侵入者の顔を、見た者がいるのでな。面を合わせれば分かるのではないかと思い、そなたらを呼んだ。」

ざわざわと、周囲が騒がしくなる。

「仰っている意味が良く分かりませんわ。陛下は先ほど、見た者はいないと言われました。」
「…見た人間がいないと言っただけだ。彼女は人間ではないからな。――黎鈴。」

陛下が声を掛けると、漆黒の毛並みが美しい子猫がどこからともなく現れた。

「陛下、お戯れを…。猫ではありませんか…」

ホッと、候補者達は息を吐く。

「猫に人間の事が分かるとは思えません。」

「そう思うか?…彼女は夕鈴が可愛がっている愛猫だ。主を傷付けられ、とても怒っている。…黎鈴。夕鈴を襲ったのは、誰だ?」

陛下の言葉に、黎鈴は一人の候補者に向かって飛び掛った。

「きゃああ!」

悲鳴が響き、大臣や衛兵達が黎鈴を取り押さえようと駆け寄ってくる。

「…動くな!…黎鈴に触れる事は許さない!」

狼陛下の怒声に、彼らの動きが止まった。

「…そんな、陛下!証拠もないのに私を犯人だと決め付けるのですか?!いくら陛下といえど、それは余りにも…「ニャア!」

涙ながらに懇願する言葉を遮るように、黎鈴は彼女の服の袖に爪を立て引き裂いた。露になった彼女の手首には、真新しい包帯。

「衛兵、…調べよ。」

命を受けた衛兵の一人がその包帯を解くと、そこには生々しい傷跡が三本。

「…夕鈴は黎鈴の存在がそなたらにバレ、彼女に害が及ぶのを恐れ秘密にしていた。黎鈴に今初めて会った筈のそなたに、何故黎鈴の爪痕がある?」

それは彼女が、夕鈴を襲った犯人である証。

言い逃れが出来なくなった彼女は、呆然と床に崩れ落ちた。


その後の調べで、この事件は他の候補者は関係なく、彼女の単独である事が分かった。

彼女は夕鈴、紅珠以外の五人の中で一番身分が下で、その自分よりも下であるにも拘らず、陛下に目をかけてもらっている夕鈴が目障りだったのだ。

夕鈴が不在の時に部屋に入り、猫を飼っている事に気付いた。陛下に内緒で飼える筈がない、またしても特別扱いされている。この猫が居なくなれば、夕鈴も困るだろうと彼女は考えた。

あの日、黎鈴を持参してきた籠に押し込め、どこかに隠そうと思った彼女は籠を開け手を伸ばした途端、黎鈴に引っ掻かれた。

その直後、戻ってきた夕鈴に声を掛けられ慌てた彼女は、持っていた籠を、夕鈴に向かって投げてしまった。

「…怪我をさせるつもりはなかったんです。…でも、運悪く頭に当たり、夕鈴殿は倒れて…。血、血が…沢山出て…。も、…申し訳ございません!…本当に申し訳ございませんでした…!」

泣きながら床に平伏し謝る姿を見ても、陛下は夕鈴を傷付けた彼女を許すつもりはなかった。

「そなたは処罰は追って決める。…それまでは牢にて沙汰を待て。」

冷たい声に彼女は「はい」と小さく答えた。

連行される女の後姿を見ながら、陛下は足元に寄ってきた黎鈴を抱き上げた。

「…よくやった、黎鈴。」

「にゃあ。」

褒める陛下の言葉に答えるように、黎鈴が鳴く。

「…いつもは触れさせてもくれないのに、一体どうしたんだ?」

「にゃ?」

言葉が分かっているのか居ないのか、黎鈴は首を傾げる。

狼陛下と呼ばれる彼が、猫と話しているのを見た者がいれば、卒倒したかもしれない。だがその場には、一人と一匹以外、誰もいなかった。

「お前は気付いているんだな。私と彼が、同一人物だと言う事に。」

「みゃあ。」

ペシペシと、黎鈴の前足が陛下の頬を叩く。爪は出されていないので、柔らかい肉球の感触に陛下は笑う。

「…くすぐったいよ、黎鈴。」

笑う陛下は、黎夾そのもので。


黎鈴はきっと自分の事を信用出来なかったのだと陛下は思う。

身分を隠し、偽りの存在で夕鈴に近付いた。夕鈴は未だに陛下と黎夾が同一人物だと分かっていないが、黎鈴は最初から気付いていたのだろう。その野生のカンで。

「…僕の事、認めてくれたんだ?」

「にゃ、にゃにゃ、…みゃあ。」

「…何言っているのか分からないよ。」


明日、夕鈴の体調が良ければ、いつもの庭で彼女と会おう。

夕鈴の前で、黎鈴を抱いてみよう。

きっと彼女は言うだろう。

『いつの間に仲良くなったのですか?』

――僕の大好きな、あの満面の笑顔で。


続く

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Comment

No title 

連作楽しみに覗きに来てます
可愛い陛が良いです♪
これから正体がバレたらどうなるんでしょ
便利屋さんもワクワクして待ってます
お時間の有る時で良いので更新お願いします
  • posted by 名無しの読み手 
  • URL 
  • 2014.04/12 08:24分 
  • [Edit]
  • [Res]

Re: No title 

名無しの読み手様

コメントありがとうございます(^v^)
慧ネンも名無しの読み手様のブログに日参して、覗き見しています。コメントも残さず読み逃げですみません…。
夕鈴に黎夾の正体がばれる時…う~ん、夕鈴鈍そうだから最後まで気付かなかったりして(*_*;
便利屋さんの方もゆっくりやっていきますね。
名無しの読み手様も、ご無理なさらず。お身体ご自愛下さいませ(^^♪
  • posted by 高月慧ネン(名無しの読み手様へ) 
  • URL 
  • 2014.04/13 03:05分 
  • [Edit]
  • [Res]

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