兎と狼のラビリンス

こちらは白泉社『狼陛下の花嫁』の二次創作ブログサイトです。(作者様・出版社様とは関係ありません)

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♪ドラマのようには、上手くいかない

このお話は『 ♪ドラマのように、衝撃的な 』の続きです。

ちょっと、暗い…と言うか悲しい内容になっちゃいました

視点が時々入れ替わるので、少し読みにくいかもです


「ここに座って、見てもらって良いから。」

テレビ局の男性にそう言われ、夕鈴は「はあ…」と呟きながら椅子に腰を下ろす。


テレビ局からまたバイトに入って欲しいと連絡があり、夕鈴は数日振りに先日清掃のバイトをした局を訪れた。また新たな場所の清掃かなと夕鈴は思っていたのだが、局の男性に連れて来られたのは、何故かスタジオだった。

何かを収録するのか、沢山の人間が慌しく準備をしている。その片隅で椅子に座っている夕鈴は、凄く居心地悪くて身を硬くする。周囲の視線が、痛いからだ。

夕鈴は立ち上がると、近くで指示を飛ばしている男性にそっと近寄った。

「あの、私…バイトに来たんでもう行って良いですか?」

「ああ、ごめんね、待たせて。…暇だと思うけど、もう少し待ってくれないかな?もうすぐ始まるから。」

そう言われ、夕鈴は首を傾げる。何が始まると言うのだろう?

「でも、バイトが…」

「…あれ?聞いてない?」

バイトを気にする夕鈴に、男性は信じられない事を言った。

「…これが君の、今日のバイトだよ?」

訳が分からずどういう事かと問い詰めた夕鈴に、「先方からの指示で、君にここにいてもらわないと困るんだよ」と男性は言う。

「先方って…」

「ああ、彼。」

男性が視線が向けた先、入り口からちょうどスタジオに入って来た人物を見て、夕鈴は顔を顰める。


バンドグループCreuzのリーダー・Rei。


彼を筆頭に、メンバーが次々とスタジオに入ってくる。

「…君をここに呼んで欲しいと、彼からの指示でね。…君がいないなら収録はしないと言い出す始末。我が儘もいい加減にして欲しいよ。」

必ず居て欲しいと念を押した後、男性は指示を出しに夕鈴から離れていった。

…どう言う事?

夕鈴は困惑する。あの男の考えている事が分からない。先日の腹いせか、それともまた夕鈴をからかう為にした事なのか。

ふと夕鈴は視線を感じ、思わず振り返る。

男が、Reiが強い瞳で、じっと夕鈴を見ていた。自分が望んだように夕鈴がこの場に居る事に満足したように、Reiはニヤリと笑う。


あの夜、公園で見た、優しい微笑みをする彼は、どこにも居なかった。


♪ドラマのようには、上手くいかない


これがバイトだと言われればここから出て行く事も出来ずに、夕鈴は椅子に座って収録の様子を見ていた。確かに彼は歌のが上手だ。滅多に音楽を聴かない夕鈴だが、彼の歌のレベルが高いのは分かった。

だが…。

「…Reiがまた我が儘言ったんだって?」

「いつもの事だよ。…何でも自分の思い通りになると思っているからな。」

そんな会話が、夕鈴の耳に聞こえてきた。チラリと視線を向けると、数人の男性が小声で話している。

「局内で擦れ違う時にも、挨拶すらしない。…礼儀ってモノを知らないようだ。」

「確かに歌は上手いけど、あれじゃあな……」

普段のReiの態度がかなり腹に据えかねているのか、彼らの話は文句ばかりだ。

Reiは自分だけではなく、誰に対してもああいう態度らしいと夕鈴は思う。

どういう環境で育ってきたのか夕鈴には知る由も無いが、彼はかなり人間としての礼儀が欠けているようだ。


夕鈴はステージで歌っているReiを見詰める。

煌びやかな空間で歌う彼は、楽しそうにも見える。

きっと周囲の誰もが、そう思うに違いない。あの公園で見た、彼の本当の笑みを知らない者なら。

夕鈴には今の彼の瞳が、今にも泣きそうに見えた。


「…どうだった?」

ニヤニヤと楽しげに夕鈴を見下ろすのは、収録が無事に終わり控え室に戻ったReiだ。

収録が終わったのだから自分はもう帰って良いだろうかと、立ち上がった夕鈴の腕を彼の手が掴んだ。
あっという間にスタジオから引っ張り出され、連れ込まれた先は彼らの控え室だったと言う訳だ。

「……何がですか?」

出ていこうにも扉の前に立つ彼に出口を塞がれ、ここから離れる事は難しそうだ。

夕鈴は不本意ながら、彼の先程の問いに答える事にした。

「私の歌だよ。…私の事を知らないという事は、私が歌っているのを見た事が無いと言う事だ。違うか?」

「…そうですね、貴方が歌っているのを初めて見ましたよ。で、それが何か?」

「感想は?」

「はい?」

「…私の歌を聴いた感想は?」

夕鈴は頭一つ分ほど高い、彼の顔を見る。

Reiは楽しそうに、唇の端に笑みを浮かべて夕鈴を見下ろしている。

「…歌は、上手だと思いますよ。」

少し悔しいが、夕鈴は思った事を素直に伝えた。

彼の歌を聴き、そう思ったのは事実だ。

「歌『は』、という事は、他に何かあるのか?…汀 夕鈴。」

彼の口から零れた自分の名に、夕鈴は驚愕する。

「なっ、何で、私の名前知って…!」

「…局(ここ)の人間に聞けばすぐに分かる。…私が問えば、誰だってすぐに答えてくれる。現に、あの日最上階フロアを清掃していた高校生は誰かと問うたら、すぐに教えてくれたよ。もちろん、君の名も。」

クックッ、と、Reiは愉しそうに笑う。

「私が望めば、叶わない事など一つもない。」

今までそうやって、Reiは生きてきた。

それまでの『自分』を、全て捨てて。


「…本当にそう思っているんですか?」

「…何?」

「本当に何もかも、自分の思い通りになると?…自分に叶わない事など無いと、本当に思っているのですか?」

「何を、言っている…?」

「…そんな事ばかりしていると、いつか周りから孤立しますよ。」

先程のスタジオでの、陰口を思い出し、夕鈴はReiに忠告する。だがReiは、可笑しそうに笑うだけだ。

「周りの人間など、私には何の興味も無い。…私はただ、楽しく歌う事が出来ればそれで良い。」

「…じゃあ、何で!…あんな瞳(め)で歌っているのですかっ!?」

思い出すのは、今にも泣いてしまいそうな、深い悲しみを湛えた彼の紅い瞳。

「…数日前、夜の公園で犬と戯れる貴方を、偶然見ました。」

その彼を見て、惹かれてしまった夕鈴はどこか気恥ずかしくて、視線を足元に落とす。

「そうか、アレを見られていたのか…。」

「あの時の貴方はとても楽しそうでした。…作った笑みではなく、心の底から笑っていました。」

少年のような純粋な笑みに、夕鈴は心惹かれた。


「…そちらが演技だとしたら?」

冷たい声に弾かれるように、夕鈴は顔を上げた。

彼は、哂っていた。とてもとても、冷たい笑みで。

「これが私の本性で、あの時は演技をしていた。…私は俳優もしている。君が公園で見たのが私の素顔だと、どうして言い切れる?」

「ちがっ、だって、だってあの笑みは演技なんかで出来るものじゃ…」

「…私の事を良く知りもしないくせに、勝手な事を言うな!!」

Reiが大きな声で怒鳴った。その顔は怒りに満ちていて、夕鈴は自分の言葉が彼の逆鱗に触れてしまった事に気付く。

「どうして…?」

怒鳴られた夕鈴は身体を震わせながら、それでも必死に言葉を紡ぐ。

「どうしてそこまでして、自分を偽ろうとするの…?」

ツーと夕鈴の頬を流れ落ちる雫を見て、Reiはハッと身体を揺らした。

「…歌う事が好きなら、もっと楽しげに歌って?…歌うのが苦痛なら、止めた方が良い。貴方の本質を出せないなら、それには何の意味もないもの。」

夕鈴の言葉を聞き、Reiの表情が驚愕したように歪む。

「君は…」

Reiが夕鈴に何か言わなくてはと口を開いたが、結局言葉が出ず閉じる。

先程まで傲慢な態度だったReiが、夕鈴を前に少し動揺し始めた。それが自分の言葉に対してか、泣かせた事に対してなのか夕鈴には分からなかったが。

「色々失礼な事を言って、申し訳ありませんでした…。」

夕鈴はそう言って頭を下げると、キュッと口を結ぶ。溢れる涙を拭おうとするが、それは止まる所を知らず次々と流れてくる。
夕鈴は涙を止める事を諦め、泣き顔のままReiの顔を見詰めた。

「…もう会うことは無いと思いますが、頑張って下さいね。…貴方の『歌』は素晴らしいと、私は思います。」

彼の歌は、彼の作る歌詞は、人々を魅了する力がある。
出来る事なら、演技ではなく本当の笑顔で彼が歌える日が、来る事を願って。

ぺこりともう一度頭を上げると、夕鈴は彼の横を通り抜けようとした。

「…待って!」

このまま彼女を帰してはいけないと思ったReiは、思わず彼女の腕を掴んでしまった。

だがその腕を、夕鈴は渾身の力で振り払う。

「…さよならっ」

キラキラと中を舞う彼女の涙はとても綺麗で、走っていく夕鈴の後姿をReiは呆然と見詰める。

「…Rei。」

声を掛けてきたのは、メンバーの最年長、Hiroだ。どこから見ていたのか知らないが、泣きながら去っていく彼女の姿を見たのかもしれない。

「…遊びならもっと手馴れている女にしろ。…純粋な子を虐めたら可愛そうだろ?」

今の子、どう見ても高校生だろ?と、HiroはReiに忠告する。

「…別に、遊んでなんか…」

Reiは振り払われた自分の手を見詰める。


初めてだった。あんな風に、言ってくれた人は。

誰もが皆、Reiと言う作られた人間に魅かれ、その本質を見ようとはしない。
自分の事を思って涙を流してくれたのも、彼女が初めてだった。

彼女の顔を思い出そうとするが、怒った顔と泣き顔しか出てこない。

彼女の笑顔を、見たいと思うのは今更だろうか?

「遊んで、なんか…いない」

「だよなあ…」

Hiroは溜息を吐き、困ったように笑った。

「お前、今自分がどんな顔しているか分かってる?…置き去りにされた子犬のようだよ。」

鏡、見てみる?

からかうような口調の言葉は、今のReiには届かなかった。


夕鈴は泣きながら、駅に向かってトボトボと歩く。

さすがに勝手には帰れないので、事務所を覗き帰る旨を伝え、今日の分のバイト代はいらない、もうここでアルバイトをする気は無いとだけ伝えて。

泣いている夕鈴に、何があったのか問うて来るのを無視して局を飛び出した。

こんなつもりじゃなかった。

あの夜公園で見た、彼の笑顔をもう一度見たかっただけ。

夕鈴が嘘偽り無いと感じた、あの優しげな笑みを。
彼がまた、あの笑みを見せてくれるのではないかと思っていた。

彼が自分の隣で、あの笑顔を見せてくれる…そんな日がいつか来て欲しい。

彼の純粋な笑顔を見た時、夕鈴はそんな事を願ってしまった。

普段は本性を偽る彼が、唯一素顔を見せられる場所。

そんな唯一の存在に、なる事が出来たら。

まるで『ドラマ』のような、素敵なストーリー。

『ドラマ』は決められたシナリオを元に、進んでいくだけ。現実にはそんな都合良く、上手くいくはずが無いのに。

実際には彼の逆鱗に触れ、不快な思いをさせただけ。

芸能人の彼の特別な存在に、自分がなれるはずが無い。

浅はかな、望みだった。


続く
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