兎と狼のラビリンス

こちらは白泉社『狼陛下の花嫁』の二次創作ブログサイトです。(作者様・出版社様とは関係ありません)

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意地悪上司の、婚約者(フィアンセ) 10

やっと書けました~

書き始めて三時間くらい?
もっと早く書き上げる能力が欲しいです

さてさて、四月も半ばを過ぎ、桜も見事に散りましたね~。
でも慧ネン、葉桜も大好きです

このシリーズの二人に春が訪れるのは、一体いつの事になるのでしょうか?
まあ今書いているのは、冬(一月)のお話なんですけどね


***



静かな空間に、時折カトラリーの音が響く。
黎翔と紅珠、二人の間にはほとんど会話が無かった。たまに紅珠が話し掛け、黎翔が短く返すだけ。
夕鈴と一緒に食事をする時にも会話は弾まないが、それでも黎翔は彼女との時間を十分楽しんでいた。
趣味や好きなもの、彼女の事を知る事が出来るのは嬉しかった。

それに比べて向かいに座る紅珠の、自分を窺うような表情が気に入らないと彼は思う。

彼女の父・氾史晴はレストランに着いてすぐ、「ここからは若い二人だけの方が良いでしょう。」と言って帰って行った。最初からそうするつもりだったのが分かる、明け透けた行動。

いつまでこんな茶番を続けなければならないのか。
紅珠が王手取引会社の重役の娘でなければ、歯牙にもかけないのに。

そんな事を思いながらフルコース最後のデザートを食べ終わった頃、黎翔の携帯が鳴った。


意地悪上司の、婚約者(フィアンセ) 10


「――失礼。」

紅珠に断りを入れ、黎翔は立ち上がり個室を出た。
誰だろうと画面を見てみると、夕鈴の警護を任せている克右からだった。彼はかなり焦っている様子で、黎翔は夕鈴の身に何かあったのかと不安になる。

「…何があった?」

思わず問い詰めるような口調になってしまったのは仕方が無い。
克右の報告を聞き、黎翔はすぐに紅珠が待つ部屋に戻る。

「申し訳ない。急用が出来たので、私はここで失礼する。」
「…何かあったのですか?」
「――貴女には、関係ない事だ。」

心配げに聞いて来た紅珠をきつい言い方で切り捨て、黎翔はコートを羽織る。

「もちろん、ここの食事代は私が持ちます。タクシーを呼んでもらうよう頼んでおきますので、貴女もお帰り下さい。」

そう言うと黎翔はもう後ろを見ずに、紅珠を置いて部屋を出る。
彼女が、悲しげな視線で自分を見ていたことに気付かなかった。


懇意にしている病院に駆け込み、院長室の扉をノックもせずに開ける。

「…汀っ!!」

「こりゃ、ノックくらいせんか。」

顔馴染の院長・張元が窘めるが、黎翔の視線は夕鈴に釘付けだ。
コートを翻しながら息急き切って飛び込んできた課長を見て、夕鈴は申し訳なくなった。

夕鈴を誘拐しようとした男は、克右によって難なく捕えられた。何の事はない、夕鈴の急所への一撃が効いていて、男は逃げ切る事が出来なかったのだが。

克右が課長と浩大に連絡しようとしているのを、夕鈴は必死に止めた。二課長・浩大はともかく、課長はきっと婚約者の紅珠と一緒にいるはずだから、二人の時間を邪魔したくはないと。

けれど報告をしないわけにはいかないと、克右に押し切られてしまった。

「…一体どういう事だ?」

きつい瞳に睨まれて、克右はゾッとしながらも、自分が目を離した隙に夕鈴が襲われた事を話した。本来なら玄関先まで彼女を送るのが自分の仕事、職務怠慢だと叱責されても致し方ない。

「克右さんを責めないで下さい!…私がエレベーター前までで良いって言ったんですっ!!」

口を開き掛けた黎翔を咎めるように、非は自分にあるのだと夕鈴が叫ぶ。
まさか、たった数分の僅かな隙に、襲われるとは思ってもいなかった。

必死に克右を庇おうとする夕鈴に嫉妬しながらも、黎翔は彼女の首に巻かれた包帯から目が離せない。
白いブラウスの襟元に、赤い染みが見える。

「出血は多いが、傷自体は浅かったので縫うには至らんかった。今夜あたり熱が出ると思うから、痛み止めを解熱剤を処方しとくからな。今夜は風呂は控えてくれ。明日は仕事を休ませた方が良いぞ。」

張元は黎翔と夕鈴に注意事項を伝えると、内線で看護師を呼んで処方箋を受け付けに回すよう手渡した。
克右と浩大に守られながら受付に向かう夕鈴の後姿を見ながら、黎翔の隣に佇む張元は彼に言う。

「真っ直ぐな目をした良い娘(こ)じゃ…。お前さんを変えたのも、あの娘なんじゃろ?」

幼い頃から自分を知るこの年寄りには、黎翔も言い返せない。

「あの澄んだ目が曇る事の無いように、お前さんが傍で護ってやるんじゃぞ。」
「――分かっている。」
「…分かっているなら良いんじゃ。今のお前さんを見とると、何やら悩んでいるように見えたからの。年寄りの戯言だと、聞き流して下され。」

自慢の髭を触りながらホッホ、と笑う張元を、黎翔は食えない爺さんだと内心毒づいた。

彼女を好きでいる事が、果たして彼女のためになるのか。
この想いは、彼女を苦しめる事になるのではないか。

――そんな漠然とした不安が、いつも黎翔の胸の内にある。

だからなのかもしれない。
彼女に対し、優しく出来ないのも。
彼女に対し、素直にこの気持ちを言えないのも。

けれど日に日に大きくなる彼女への想いは隠しようが無く。現に彼女以外の部下には気持を知られてしまっているらしい。夕鈴が気付かないのは親友の明玉曰く、「あの子は鈍いから」だそうだ。

自分の態度が彼女に誤解を与えた事もある。
泣かせた事もあるし、辛い思いをさせた事もある。

最近は共に食事に行くし、笑顔を見せてくれるようにもなった。
不器用さが災いして相変らず優しく出来ない時もあるが、そう言う時には上手く一課の部下達がサポートしてくれる。
例え気持ちを伝える事が出来なくても、傍にいるだけで、黎翔は満たされていた。


久し振りに、一緒にマンションに帰った。
黎翔はもう食事を済ませていたが、帰宅途中に襲われた夕鈴は食べていない。
彼女が買っていた材料を使って、黎翔がキッチンに立ち、夕鈴の食事を作った。
薬を飲ませ、早めに就寝させたが、夜遅くに彼女の様子を見に行くと真っ赤な顔をして魘されていた。

「汀…?汀。」

呼ぶとうっすらと目を開けたが、その瞳は潤んでいる。
額に手を当てるとかなり熱く、張元が言った通り夕鈴は高熱を出した。

「か、ちょ…」

解熱剤を飲ませたり、額の汗を拭ったりと甲斐甲斐しく世話をしてくれる課長を、夕鈴はぼんやりと見上げた。

「辛いか?…こんな目に合わせてごめんな、――夕鈴。」

痛ましげな表情をした彼が、小さな声で呟く。

――ああ、あの時と同じだ。

夕鈴は思い出していた。
飲み会で彼に暴言を吐いて、誤って飲んだビールで酔い潰れたあの日の事を。

初めは夢だと思った。
心配げに見詰めてくる瞳。
普段意地悪な彼が、初めて見せた優しさ。

「――夕鈴。」と、

いつもは苗字で呼ぶ彼が、初めて呼んでくれた自分の名。

あの時と同じように、大きな手が優しく触れてくる。

(あれはやっぱり、夢じゃなかった…。)

ふわふわと、身体が浮くような感覚。
辛いはずなのに、彼が触れた所から痛みが消えていくような気がする。
それなのに、思わずフウッと夢心地に息を吐いたら、びくりと彼の手が引かれてしまった。

「課長…?ここにいて…?」

離れた手を残念に思いながら、彼がここからいなくなるのが怖くて、普段なら言わないような事を言った、ような気がする。
「…ああ。」と短い返事の後、恐る恐る、と言った感じで、大きな手が頬に触れてきた。

その手の冷たさが火照った身体にとても気持ち良くて。くふ、と満足げに微笑むと。
薬が効き始めた夕鈴は、とろとろと穏やかな眠りに引き込まれていった。


続く

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