兎と狼のラビリンス

こちらは白泉社『狼陛下の花嫁』の二次創作ブログサイトです。(作者様・出版社様とは関係ありません)

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♪ドラマのような、予期せぬ展開

このお話は『♪ドラマのようには、上手くいかない』の続きです。

夕鈴を泣かせてしまったRei、はたしてどう動くか…?





高校二年生の春、新学期が始まり数日が経過した。夕鈴は広間は学校、夕方からバイトという日々を送っている。
週三日入れているコンビニのバイト。この日の夜も、五時から九時のシフトで入っていた。

夕方の忙しい時間をもう一人のバイトの子と捌き、客足が減り、品薄になった商品を補充していた午後八時過ぎ、彼はいきなりやって来た。

来客を知らせるベルが鳴り、「いらっしゃませ」と顔を上げた夕鈴は、入店してきた男を見て思い切り顔を顰めた。

「…こんばんは。」

夕鈴の表情を見て、困ったように笑って挨拶をしたのは、もう二度と会う事は無いと思っていたCreuzのリーダー・Reiだった。

春休みに夜公園で見た時と同じように、彼は黒縁の眼鏡を掛け、深めに帽子を被っている。
だが彼が放つオーラは隠しきれないようで、離れて作業していたもう一人のバイトの子が、驚愕したようにこちらを見ている。

「…何か御用ですか?」

夕鈴は作業の手を止めず、小声で彼に問う。Reiはしゃがんでいる夕鈴に目線を合わすように腰を下ろした。

「話…したくて。」

「私には話す事などありません。」

今まで傲慢な態度を取り続けていたReiにしては珍しく、どこか弱々しい声で言った言葉に、夕鈴はきつい言葉を返す。

話とは一体何なのか。夕鈴はもう彼に会うつもりは無かったし、話をするつもりも無い。
彼との事は、あの日に全て終わった。

何もかも、今更だ。

「…少しの時間で良い。時間をくれないかな?」

「ですから、私には貴方と…っ」

Reiに腕をそっと掴まれた。

「…頼む。」

懇願するように言われて、夕鈴は言葉に詰まる。眼鏡の奥の彼の瞳が、悲しげに揺れているのに気付いた。

何で、そんな顔をするの…?

夕鈴が何も言えないでいると、Reiは彼女の腕を放した。

「今日ここのバイトは何時まで?」

「え?…九時までですけど…」

教える義理も無かったのに、夕鈴は条件反射で正直に答えてしまった。

「…じゃあ、あの公園で待ってる。」

立ち上がったReiに、夕鈴も慌てて立ち上がると反論する。

「…私、行きませんからっ」

どうして彼の言う事を自分が聞かなくてはいけないのか。夕鈴はムッとして、食って掛かる。

「…君が来てくれるまで、いつまでも待ってる。」

「…な!?」

「本当だよ?…ずっと、待ってるから。」

目を見開いたままの夕鈴を見詰め、Reiは真剣な表情と声で言う。
呆然と立ち尽くす夕鈴にじゃあね、と言うと、Reiはコンビニから出て行った。


♪ドラマのような、予期せぬ展開


「お疲れ様でしたっ!」

九時になり出勤した大学生と交代すると、夕鈴は私服に着替えコンビニを出た。季節は四月だが、今夜は少し冷える。人通りの多い通りを抜けて、夕鈴は足を止めた。もう少し進むと、Reiが待っていると言った公園がある。

Reiは待っていると言ったが、夕鈴が彼に会いにいく義理は無い。彼が一歩的にそう言っただけで、夕鈴は必ず行くと約束したわけではない。

クルッと向きを変えて、夕鈴は元来た道を戻り始めた。
早足で歩いていた夕鈴の足は、徐々にゆっくりになり、やがて完全に止まった。

Reiは待っていると言った。「行かない」と言った夕鈴に、「何時までも待っている」と。
間近で見た、彼の揺れる瞳を思い出す。

「…~~っ!」

夕鈴は眉間に皺を寄せると、踵を返し公園に向かって歩き始める。

(…別にあいつに会いにいく訳じゃないっ。…この道の方が、近道だし…!)

素直になればいいのに、心の中でそんな言い訳をしながら。

Reiがコンビニを出て一時間近く。多忙な筈の彼が待っているわけが無いと夕鈴は思っていたが、夕鈴が公園に着いた時、彼はあのベンチに座っていた。
彼の足元には、あの時の子犬がじゃれ付いている。

Reiは夕鈴の姿を認めると、安心したように笑った。

「…良かった、来てくれた。」

「…芸能人って結構暇なんですね?…私てっきりもう帰っているかと思っていました。」

少し皮肉げに夕鈴が言うと、Reiは苦笑いする。

「待ってるって言ったからね。…君が来るまで、本当に何時間でも待つつもりだったよ。」

バンド活動のレコーディングや打ち合わせ、ドラマのロケなどで忙しかったReiが、夕鈴に会うこの時間を作る為に、どれだけ無理なスケジュールをこなしてきたか、もちろん夕鈴には知る由も無い。

「で、話ってなんですか?」

「…立ち話もなんだから、座って?…はいこれ。」

バイトお疲れ様、と、Reiは夕鈴に隣に座るように言うと、缶入りのココアを取り出した。

「今日は冷えるからね。…安いもので悪いけど。」

ベンチに座り、反射的に受け取ってしまった夕鈴は、突き返す事も出来ずに小さな声でお礼を言った。

甘く暖かいココアが、冷えた身体を心から温めてくれるような気がして、夕鈴はホッと息を吐いた。そんな彼女の様子を、隣に座るReiは優しい表情で見つめる。

「…何ですか?」

彼の視線を感じ、夕鈴は気まずげにReiの顔を見る。
先程からの彼の優しい視線に、夕鈴は戸惑いを隠せなかった。

「…やっと、君に会えたと思って。」

Reiは安堵の表情でそう言った。

「あの日の事を、…ずっと、謝りたかった。」

誰にも見せられずに隠していた自分の本心を夕鈴に見透かされ、ついカッとなって怒鳴ったしまった事を、Reiはずっと後悔していた。

すぐにでも謝りたかったが、彼女はそれから一度もテレビ局に来る事は無かった。

忙しいスケジュールをこなしながら、空き時間にこの公園を中心に彼女がバイトをしていそうな場所を探していた。誰の力も借りず、自分一人で。
Reiが権力を使って調べようとすれば、すぐにでも夕鈴の居所は知れただろう。局の人間に問えば、住所も分かったかもしれない。
だがReiは、これ以上彼女を怒らせるような事をしたくなかった。

だから時間がかかると分かっていても、自分自身の手で夕鈴を探し出したかった。
彼女が高校生である事を考え、学生でも雇ってもらえそうなコンビニや喫茶店、スーパーなどを探して、ようやく彼女のバイト先を探し出した。

あの日から二週間がたっていた。

「あの日君に、本当の事を言い当てられて、全てを見透かされた気がしたんだ…。だから思わず、怒鳴ってしまった。…本当にごめん。」

肩を落としながら謝る彼の瞳は、不安げに揺れている。だからこそ、その言葉は彼の本心だと分かった。

「…私の方こそ、ごめんなさい。」

Reiが謝るのなら、夕鈴は自分にも彼に謝罪する事があると思う。

初対面の日、彼の頬を叩いた事。
あの日、良く知りもしないくせに失礼な事を言った事。

「夕鈴が謝る必要は無いよ。…僕には新鮮だった。…僕に向かって文句を言う者も、頬を叩く者も、僕の事を思って言ってくれる者も、今までいなかったから。」

何の見返りも求めず、本心を告げてくれたのは夕鈴が初めてだったから。

「…僕は、嬉しかった。」

芸能人としてではなく、一人の人間として、彼女は見てくれたから。

「…本当に、嬉しかったんだ。」

「Rei、さん…」

自分の頬を流れる一筋の涙を、Reiは気付いているのだろうか?

初めて見るReiの表情に驚きを隠せない夕鈴は、呆然と彼を見詰める。
そんな夕鈴を見てフワリと笑った彼の頬には、もう涙の跡はなく。

「…珀 黎翔。」

「え?」

「…僕の本当の名前。」

「黎翔、さん…?」

「そう。…Reiと言うのは、あくまでも芸名で本名じゃないから。夕鈴には、本当の名で呼んで欲しい。」

あ、でも、世間には内緒だから他の人には教えないでね?と黎翔は笑う。

「どうして私に…?」

夕鈴は困惑する。

彼とはまだ数回しか会っていない。こうやって話をするのも、今日が初めてだ。
世間にも秘密にしている事を、彼が自分に教えるのは何故なのか?

夕鈴の戸惑いを感じ取った黎翔は、かけていた眼鏡を外し、唇の端に笑みを浮かべた。
その瞬間、夕鈴の背に寒気が走る。

これは、テレビ局内で会った彼の表情だ。

先程までの子犬のような黎翔ではない。獰猛な狼みたいなReiの顔。

「…君が好きになったと言ったら、君は信じるか?」

「はあ!?」

突然の彼の告白に、夕鈴は素っ頓狂な声を上げた。Reiはそんな夕鈴の反応を見て、楽しそうに笑う。

「君の事が好きになった。…私と付き合って欲しい。」

「…また私をからかっているんですか?…冗談もほどほどに…」

芸能人である彼が、特別美人でもなく、ただの一般人の自分を本気に好きになる事などあるはず無い。またからかわれているんだと思った夕鈴は苦笑いするが、Reiに腕を取られ引き寄せられる。

「これが、冗談だと思う?」

押し付けられた、彼の胸。

ドクンドクンと激しく鳴る鼓動は、彼の緊張を夕鈴に伝えてくれる。

Reiは、いや黎翔は、夕鈴を胸から離すと彼女の両肩を掴み、その顔を見詰める。

真っ赤になっている、夕鈴の顔。

黎翔は伝わったかな?と思う。

この想いが、この高鳴りが。

「…覚悟してて?」

「…え?」

「僕、本気で行くから。」

こんなに愛しく思える存在を、逃がしたりはしない。

にっこり笑う黎翔は、笑顔なのに何故か怖くて。
彼の本気を感じ取った夕鈴は、戸惑いを隠せない。

「…え?…ええっ!?」


ドラマのような出会いではなかったけれど、衝撃的な思いもして、上手くいかなくて泣いた日もあったけど。

まるでドラマみたいな、予期せぬ展開が待っていた。


続く

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よろしくお願いします。

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