兎と狼のラビリンス

こちらは白泉社『狼陛下の花嫁』の二次創作ブログサイトです。(作者様・出版社様とは関係ありません)

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♪ドラマみたいな、ハプニング?

このお話は『♪ドラマのような、予期せぬ展開』の続きです。


「お疲れ様でしたっ!」
「…お疲れ様っ」

歌番組の収録が終わり、大勢のスタッフ達が声を掛けてくる。人の波を掻き分けながらスタジオを出ようとしていたCreuzのリーダー・Reiは、その顔にほんの少しの笑みを浮かべ、「お疲れ様」と返す。

「…今、返事をしたか?」
「あ、ああ…。スタジオ入りした時にも、おはようございますと声掛けられてびびった。」
「しかもあの笑み…Reiが笑う所なんて初めて見たよ。どういう心境の変化なのか…」

自分が去ったスタジオで、スタッフ達にそんな話をされている事など、上機嫌のReiは知る由も無かった。

夕鈴と再会出来て数日、Reiこと黎翔は忙しい収録やロケの合間に、彼女から聞きだしたメアドでメールでのやり取りをしていた。

会いに行きたいのは山々だが、ぎっちり詰まっているスケジュールではそうはいかない。会いに行けない日は、専らメールだけの付き合いが続く。

メールを送ると、たとえ遅くなっても夕鈴は必ず返事をくれて、黎翔はとても嬉しかった。

学校の事、バイトの事。

収録の事、ロケの事。

お互い共通の話題は無いが、それでも二人は色々な事を話した。

そして夕鈴は、Reiが持っていなかった礼儀と言うものを教え込んだ。

Reiがスタッフ達にきちんと挨拶するようになったのは、夕鈴が『目上の人には、きちんと挨拶をする。挨拶をされたら、必ず返す』と説教されたからなんて、誰が分かるだろう。

この日は土曜日。夕鈴が昼からコンビニのバイトを入れているのは、昨日確認済みだ。
収録が終わった黎翔は久し振りに夕鈴に会える事で浮き足立っていた。

時間は19時。まだ夕鈴のバイト終了まで時間がある。
それでも黎翔は嬉しくて、ウキウキしながらテレビ局を出て行った。


♪ドラマみたいな、ハプニング?


「…夕鈴っ!」

夕鈴がバイトを終えて公園に着くと、黎翔はいつものベンチにいつもの格好で座っていた。夕鈴の姿を認めた途端彼の顔は綻んで、満面の笑みを見せる彼をまるで犬みたいだ、と夕鈴は思う。

黎翔の足にじゃれ付いていた子犬は、夕鈴が持ってきたごはんの良い匂いを嗅ぎ付けたのか、キャンキャンと尻尾を振っている。

「…久し振りですね、黎翔さん。」
Reiの事を本名で呼ぶ事に戸惑っていた夕鈴も、ようやくこの頃違和感無く彼を呼べるようになっていた。

黎翔の隣に腰掛けた夕鈴は、持ってきた犬用のクッキーを皿に乗せて子犬の前に置く。
美味しそうにがっついている子犬を微笑みながら見ていると、隣から黎翔が「僕には?」と聞いてきた。

「黎翔さんにはこっち。」

黎翔に差し出したのは、もちろん普通のクッキー。

「うわあ、ありがとう!」

甘いね、とっても美味しいねと黎翔は幸せそうにクッキーを頬張る。

「…僕の為に作ってくれたの?」
「別に、…この仔のついでだし。」

黎翔と子犬にあげたのは、どちらも夕鈴の手作りだ。
甘い物が好きと聞いたので、今朝バイトに入る前に作って持ってきたのだが、素直じゃない夕鈴はついそんな風に言ってしまった。

「そうなの?」

首をかしげてニコニコ笑う黎翔の顔を、まともに見る事が出来ない。

(…だからなんで、そんなに嬉しそうなの…!)

子犬のついでだと言ったのに、黎翔は嬉しそうに微笑んでいるから夕鈴は居た堪れない。
まるで本心を、見透かされているようだ。

会えなかった数日間を埋めるように、二人はお互いの事を話しあった。

数日前にあったテストの点数が少し下がったと夕鈴がぼやくと、黎翔は僕で分かることがあるなら教えるよ?と返し。

最近また忙しくなって休む暇が無いと黎翔が言うと、少しの時間でもいいから睡眠はとった方が良いですよと夕鈴は心配して。

二人の間にゆっくりとした時間が流れる。
それは互いにとって、とても優しい時間で。

黎翔は夕鈴が隣にいる事で感じる事が出来る安らぎにホッと息を吐き。少し、身体の力を抜いた。
夕鈴に言った通りここ数日は忙しく気を張っていたが、夕鈴に会えた事でそれが解けてしまったのかもしれない。
ドッと、溜まっていたらしい疲労が、身体に圧し掛かってくる。

「…黎翔さん?」

異変を感じ取ったらしい夕鈴の困惑げな声に、黎翔は返事をしなくてはと思うが、なかなか言葉が出ない。それどころか、身体に力が入らず夕鈴の肩に凭れ掛かってしまう。

「黎翔さん、どうしたんですか?」

夕鈴は自分に凭れ掛かる黎翔の顔を見て、ハッとした。

顔色が悪い。先程までは気付かなかったが、ここまで近付くとその異変が分かる。
額に浮かんだ汗、青褪めている唇の色、浅い呼吸。
彼の額に手を当てると、火傷しそうなほど熱かった。

「…黎翔さん!…凄い熱ですよ!?」

崩れそうになっている黎翔の身体を、夕鈴は必死に支える。

「う……ごめっ…」

苦しそうに呻きながら黎翔は身体を起こそうとするが、全く力が入らない。

救急車を呼ぼうとした夕鈴を何とか止めて、黎翔は夕鈴にタクシーを呼ぶように頼んだ。病院なんかに運ばれたら、どこからその情報が漏れるか分からない。
夕鈴に支えられるように歩き、タクシーの運転手に住所を告げる頃には、黎翔の意識は熱で朦朧としていた。

初めて入る高級マンションをじっくりと見る暇もなく、夕鈴は重い黎翔の身体を半分引き摺りながら彼の部屋へと向かった。

肩に凭れ掛かりながらようやくといった感じで歩く黎翔の身体は物凄く熱くて、彼の身体の異変にもっと早く気付く事が出来なかった自分を夕鈴は悔いた。

ここまでは気力を振り絞ってなんとか自分でも動いていた黎翔は、夕鈴にリビングに行くように言うと、そこにあったソファに崩れるように倒れ込んだ。

「だ、大丈夫ですかっ!?」

慌てて夕鈴が声を掛けると、黎翔はうっすらと目を開き小さく笑った。

「うん、大丈夫…。…時々、こうなるんだ…。疲れが、溜まったり…するとね……。ここ、最近…ろくに寝て、なかったから…」

切れ切れに言葉を紡ぐ黎翔はとても苦しそうで、夕鈴にはとても大丈夫に見えなかった。

「…ごめんね、迷惑…かけて…」

確かに自分は細身だが、力の抜けた男の身体を支えるのは辛かっただろうと思い、黎翔は謝った。

「…バカ!…迷惑なんて、ちっとも思ってないっ。…心配、したんだから…!」

黎翔の身体が崩れるように凭れて来た時、夕鈴は凄く不安になった。一体どうしてなのか分からず、どうして良いのかも分からず、もしこのまま彼が…と、最悪な事まで考えてしまった。

人は突然、いなくなる事があると、夕鈴は知っていたから。

「うん…。…ごめん、ね…?」

自分の顔を覗き込む、夕鈴の涙に濡れた表情を黎翔は見詰める。こんな時なのに、普段敬語を使う夕鈴が高揚して、親しい人に使うような言葉遣いになったのが嬉しかった。

「何かして欲しい事ありますか?」

今にも瞳を閉じてしまいそうな黎翔に、夕鈴は言葉を掛ける。

黎翔は何か言いたそうにしていたが、小さく首を横に振った。

「…一日、寝れば…治るから…だい、じょぶ…。ゆ…りん、気にせず、帰って…?ここ、オート、ロックだから…心配いら、ない…」

そう言うと、黎翔はスウッと眠りに引き込まれていった。

そう言われても苦しそうにしている黎翔を放って帰る事など出来ず、夕鈴は彼がいつも使っていると思われる、ソファに掛けられていたタオルケットを黎翔に掛けてあげた。
そしてキッチンに向かうと冷凍庫を覗き、氷水を張ったボウルを用意する。

勝手に部屋の中を探し回るのは憚われ、夕鈴は自分のカバンに入っていた未使用のタイルハンカチを濡らし、黎翔の額に乗せた。
冷たいその感触が気持ち良かったのか、苦痛に歪んでいた彼の顔が少し穏やかになった。

ホッと息をつき、夕鈴は黎翔の頬に触れてみる。まだかなり熱いが、寝ていれば治ると彼が言うのだから大丈夫なのだろう。

熱かったようで、夕鈴がキッチンにいる間に跳ね飛ばしてしまったらしいタオルケットを、黎翔の身体にきちんと掛け直して立ち上がりかけた夕鈴の腕を、彼の手が掴んだ。

「……っ!」

どこにこんな力が残っていたのか、強く引き寄せられた夕鈴は体制を崩し、黎翔に圧し掛かるように倒れ込んでしまった。
驚いて彼を見ると、今にも泣きそうな瞳で夕鈴を見ていた。

「ゆ…りん…ゆー、りん…」

「黎翔、さん…?」

舌足らずな口調は、幼い子供のようで。

「いかな…いで……」

呟かれた言葉は、普段彼が見せない本心。

誰にも甘える事が出来ない、決して弱音を見せない黎翔が初めて見せた、『弱さ』だった。

夕鈴はペタンと、彼が横になるソファの傍に腰を下ろす。
黎翔の手はまだ夕鈴の手首を掴んだままだったが、そこからはもう力が抜けていた。再び寝息を立て始めた彼は、この事を覚えていないかもしれない。

「バカな人…」

誰にも頼らず、頼る事も出来ず、たった一人で強がって生きている彼。

そんな彼が、唯一頼れる存在に、自分がなれたら。

黎翔に付き合って欲しいと言われた時、夕鈴は半信半疑だった。あの日から数日、彼と共に過ごす時間は穏やかすぎて、黎翔もこれと言ったアプローチをしてくるわけではなく、どことなくあれはやはり冗談だったのかなと思えた。少しガッカリしている自分がいるのは、自分も彼の事を好きになっているのだと夕鈴は思う。

「…貴方が望むなら、私はずっと傍にいますよ?」

眠る彼に囁く。

彼の目を見ては、まだ言う事は出来ないけど。

額や頬の汗を拭ってあげると、彼は幼子のように微笑んだ。


いつも七時にセットしている携帯のアラームが鳴り、黎翔は目を覚ました。ぼんやりと天井を見詰め、ここは自分の部屋のリビングだと気付く。

暫く夢現でいたが、夕鈴の事を思い出しハッと飛び起きた。自分に掛けられていたタオルケットと、額に乗せられていたらしいタオルが弾みでソファの下に落ちる。

昨日収録が終わった頃は何ともなかったが、公園のベンチで夕鈴を待っているうちに少しずつ体調が悪くなった。

昔から何ヶ月かに一度、疲れが溜まり身体がオーバーヒートすると急に発熱する事があった。今回もそれだろうと思うが、久し振りに夕鈴と会える日に彼女に会わずに帰りたくなかった。
気力で耐えていたが夕鈴に会って感じた安らぎに、その糸が切れてしまったのだろう。

それからはもう、自分の身体はいう事を利かなかった。

黎翔が覚えているのは、熱に浮かされながら夕鈴に『気にせずに帰って良いよ』と言った所まで。
あの後、彼女は一人で無事に帰れただろうか?

リビングに彼女の姿はなく、人の気配も感じない。キッチンを覗くが、やはりそこにも彼女はいなかった。

その代わり、キッチンの小さなテーブルの上に自分が置いた覚えのない土鍋が鎮座している。そしてその傍には、ルーズリーフに書かれた夕鈴からのメモ。


黎翔さんへ

おはようございます。
体調は良くなりましたか?

冷蔵庫にあった材料を使って、雑炊を作ってみました。
キッチン勝手に使っちゃってごめんなさい。

もし体調が良くなってて、食欲があれば少しでも良いのでチンして食べて下さい。

あ、いらなければ捨ててもらって構いませんので。

本当はずっと傍にいたかったけど、今日もバイトなのでもう帰りますね。

メールでも良いので、また連絡下さい。

夕鈴



土鍋の蓋を開けると、もう冷めてはいるが良い香りが立ち昇る。昨日早い時間に夕食を食べて、夕鈴手作りのクッキーを食べたきり何も口にしていなかったので、黎翔の腹が空腹を訴えクゥと鳴る。

彼女は一体、何時まで傍にいてくれたのだろう?
ずっと看病をしてくれたのだろうか?
そして自分の為に、食事を用意してくれた?

「捨てるなんて、無理だよ…」

自分のためにここまでしてくれる人は、彼女しかいないと黎翔は思う。


はたして。

突然起こったこの出来事は、どちらにとってのハプニング?


続く

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よろしくお願いします。

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