兎と狼のラビリンス

こちらは白泉社『狼陛下の花嫁』の二次創作ブログサイトです。(作者様・出版社様とは関係ありません)

Entries

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

意地悪上司の、婚約者(フィアンセ) 21

こんばんは。
珍しく、2日続けての更新です。

やっぱり書きたくて書き始めたシーンは筆の進みが早いですね~。

痛い目に遭っている夕鈴を早く助けてあげないと。
課長も安心出来ないですからね

それでは、どうぞ!


***



白陽コーポレーションに勝るとも劣らない大きな会社のエントランスで、黎翔は社長自らの見送りを受けていた。

青葉真護の受け入れ先に選んだのは、ここ数年で日本のみならず世界的にも業績を伸ばしてきたSHIINAグループ。
今までは白陽コーポレーションと何の取引もなかったが、黎翔が営業一課課長に就任した頃から、頻繁にコンタクトをとってくるようになった。
今の黎翔は一部署の課長に過ぎない。仰々しい見送りなどいらないと断ったのだが、何故か彼女――手腕で名を馳せる女社長は微笑みながら着いて来た。

人との関わりをあまり好まない黎翔が、一人の人間のために頭を下げた事がよほど意外だったようだ。
黎翔としては、大切な部下であり想い人の夕鈴から頼まれたからした事だ。

「…一度その女性に会ってみたいわね。」

うふふ、と妖艶に笑う女社長を睨み付ける。
叔母である珀瑠霞が見せる笑みに似た、面白がっている微笑み。
男女問わず可愛い子や、頑張っている人間が大好きな女社長。夕鈴はきっと気に入られる――会すわけにはいかない。

もう用は済んだとばかりに背を向けた黎翔に、彼女は「ちょっと待って。」と言葉を掛ける。

「――貴方の好きな女性、近いうちに怪我をするかもしれないわ。気を付けてあげてね。」

驚いて振り返った黎翔に女社長はもう何も言わなかったが、静かに微笑む彼女の瞳は炎のように紅く光っていた。


意地悪上司の、婚約者(フィアンセ) 21


社に戻った黎翔は自分のデスクに着き、溜まっている書類を片付け始める。先程の女社長の言葉が気になり、つい目をやってしまった夕鈴の席。
そこに彼女の姿はなく、椅子の背もたれにひざ掛けに使っている布が掛かっている。

「――汀は?」

誰ともなしに問うと、「人事の方に書類を届けに行ってます。」と返事が返ってきた。
夕鈴の周りで起こっていた物騒な事件の犯人は全て捕まったので、護衛していた克右は今別の仕事をしてもらっている。一人でいるというのが不安だが、社内で他の社員もいるので大丈夫だろうと思う事にした。

「…で、ここは…」
「こっちの件はどうなっている?」

課長補佐を務める部下と議論を交わしていると、バタバタと慌ただしい足音が聞こえてきた。
「何だ?」と顔を見合わせると同時に、「珀課長!大変です!!」と他部署の社員が走り込んできた。

「こちらの汀さんが階段から落ちて怪我をしましたっ!!」
「…何だと!?」

ガタンっと、黎翔を含め課にいた社員全員が立ち上がる。

「どこだ!?」
「こちらです!」

走り出した黎翔は、踵を返し案内をしてくれる社員を追い掛けた。

中央階段の踊り場はすでに人だかりが出来ていた。
ざわざわと煩い周囲に、嫌な胸騒ぎがする。
――そんなに酷い怪我を負ったのだろうか?

「――汀っ!!」

我ながら余裕の無い声だと思う。切羽詰まった彼の声に、集まっていた社員達が道を開けて人垣が割れた。

その中央に、金茶の長い髪を床に広がらせて、可愛い部下は倒れていた。

「…しっかりしろ、汀っ!!」

慌てて駆け寄るが、頭から血を流し、ぐったりしていてピクリともしない彼女に、黎翔は触れるのを躊躇した。
傍に膝をつき、彼女の身体を抱き起こすと、恐る恐る首筋に手を当てて脈を確認する。
――温かい。生きている。

どうして、こんな事になったのか。

不注意で足を踏み外したのか、誰かに突き落とされたのか。

ふらりと視線をやった階段の上に、見知っている女の顔が見えた。

「氾、紅珠…。」

ぎりり、と、歯を噛み締める。
まだ学生である彼女が、平日の日中にどうしてここにいるのか。
そして何故、蒼褪めた表情で震えているのか。

睨み付けると、細い身体がビクッと震えた。

「まさか、まさかお前が…」

「…ち、ちが…っ」

鋭い眼光に睨まれて、紅珠は蛇に睨まれた蛙のように動けなくなった。
『違う』と言いたいのに、喉が貼り付いて上手く言葉が出て来ない。

婚約者(フィアンセ)である彼に、こんなに冷たい瞳で睨まれた事など無かった。
好きだったはずの彼が、とても恐ろしく見える。
彼がこんなに怒っているのを、紅珠は初めて見た。
身体がガクガクと震えて、今にも崩れ落ちそうだ。

「…か、ちょ…」

紅珠への憎しみに支配されかけていた黎翔の頬に、ひんやりと冷たい震える手が触れた。
掛けられた細い声に、黎翔も、周囲にいる社員達はハッとする。

意識を取り戻した夕鈴が、うっすらと目を開けて黎翔を見ていた。


誰かに、優しく身体を抱き締められているような気がした。
自分を包む香りは、愛しい上司が愛用している香水と同じもの。

夕鈴がぼんやりと意識を浮上させると、階上を見上げている課長の姿が見える。
課長が、お前が突き落としたのかと言わんばかりに紅珠を睨み付けている。

課長?
そんなふうに睨んじゃダメですよ。
課長はただでさえ、少し怖いんですから。

紅珠の顔は見えないが、震える声で否定しようとしているのがうっすらと聞こえた。
その声も途切れ途切れで、課長に睨まれている彼女はきっと顔面蒼白だろう。

端正な顔立ちの課長は、表情が無いと冷たい印象を受ける。
そして入社当時から何度も課長に怒られてきた夕鈴は、彼が怒るとどんなに怖いか身を以て知っている。

血で赤くなっている手で、震えながら課長の頬に触れる。

「…おこら、な…で…くださ…わた、…足…すべら…かって、落ちた…す…」

彼女を怒らないで下さい。私が足を滑らせて、勝手に落ちただけですから――。

「…分かった!分かったから、もう話すな!じっとしてろ!!」

泣きそうな課長が、何だか焦ったようにそう言うから、分かってくれたのかなと夕鈴は微笑んだ。

――好きな人に疑われるのは、きっとすごく辛い事。

必死な課長もカッコいいなあと思いながら、夕鈴の意識は遠のいていく。

ふんわりと微笑んだ夕鈴の瞳が閉じられていき、頬に添えられていた手が力を失いずるりと落ちた。

「…汀?…おい、汀…?」

血の気が失せた白い顔。
彼女は相変らず幸せそうに微笑んだままで、まるで眠っているかに見える。

「…汀?…どうした?…目を開けろ、汀!!」

けれどどんなに呼び掛けても、どんなに揺さぶっても。
――その瞳は開かない。

「汀…っ!…おい!しっかりしろ!…汀っっ!!」
「…何やってるんだっ!やめろっ!!」

必死に夕鈴の身体を揺さぶる黎翔の肩を掴み止めたのは、騒ぎを聞いて慌てて駆け付けた二課長・浩大だった。

「――馬鹿野郎!頭を打っているんだ!動かすなっ!!」

怒ったようにそう言って、浩大は厳しい顔で黎翔を睨んだ。

彼と共にやって来た女医・珀瑠霞が夕鈴の応急処置を始める。
連絡を受けた救急隊員がやってきて、瑠霞と何か話しながら治療をしている。

夕鈴から引き離された黎翔は、少し離れた場所で一課の社員達に支えられながら立ち尽くす。
まるで捨てられた子犬のように不安げな、蒼褪めた表情で。彼女の血でスーツを赤黒く染めたまま、ただぼんやりとその光景を見ていた。



続く


関連記事
スポンサーサイト

Comment

┃q・ω・∪ こんばんは♪ 


∪ノシ´>ω<∪ノシ~~~~~~~~~~


…なにも出来ずに見ていることしか出来ない小犬課長が切ない(泣)

  • posted by 桃月 
  • URL 
  • 2014.07/11 20:37分 
  • [Edit]
  • [Res]

オロオロ(>_<) 

こんばんは(^-^)夕花です。
夜遅くに失礼しますm(_ _)m

高月慧ネン様。
いつもコメントして下さいまして、ありがとうございますm(_ _)m
あなた様の小説なら、きっと夕鈴は無事ですね(^-^)

さすが夕鈴!
課長を止めるとはすごいです!
課長が怒ると怖いことを一番知っていますからね(;^_^A
やっぱり夕鈴は優しい子ですね。課長が好きだから、紅珠の気持ちも理解できるのですね。
課長は何もできなくてオロオロ状態ですね(>_<)
浩大、いい出番です!代わりにテキパキやっています!

この後、課長がどうなっていくか、心配です。
続きを楽しみにしております。



  • posted by 夕花 
  • URL 
  • 2014.07/12 01:11分 
  • [Edit]
  • [Res]

Re: ┃q・ω・∪ こんばんは♪ 

桃月様

一番大切な人が怪我をしたのですから、きっと呆然自失になる筈です(*_*;
小犬の如く、ウロウロしていると思います。(そして浩大が叱り飛ばす…。)
  • posted by 高月慧ネン(桃月様へ) 
  • URL 
  • 2014.07/14 01:54分 
  • [Edit]
  • [Res]

Re: オロオロ(>_<) 

夕花様

いつもコメントありがとうございます!
励まされていますよ~(^v^)
慧ネンはハッピーエンド推奨ですので(たまに死ネタも書きますが。)夕鈴は無事ですよ!
無事じゃなかったら、このシリーズ終わっちゃってます…(*_*;

夕鈴だからこそ、課長を止める事が出来るし、不安にもさせる。
何事にも完璧な課長を普通の人間らしくさせるのは、夕鈴の存在だけだと思います。
同じ気持ちでいるからこそ、紅珠の気持ちお理解して優しく出来るのでしょう。
課長はオロオロしているし、浩大良いとこ取りです♪

あまり暗くならないように、今後の話を練ろうと思います。
  • posted by 高月慧ネン(夕花様へ) 
  • URL 
  • 2014.07/14 02:02分 
  • [Edit]
  • [Res]

Comment_form

管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。

左サイドMenu

最新記事

最新コメント

最新トラックバック

右サイドメニュー

プロフィール

高月慧ネン

Author:高月慧ネン
『兎と狼のラビリンス』へようこそ。
黎翔と夕鈴が大好きな管理人・慧ネンが、溢れる妄想を書き殴るために作ったブログです。
原作沿いや現代パラレル、色々ありますので、お好きなお話をお読み下さい。
よろしくお願いします。

†いらっしゃいませ†

キリの良い数字を踏まれた方は、ご連絡下さい♪

ご訪問中のお客様

現在の閲覧者数:

にほんブログ村ブログパーツ

ブロとも申請フォーム

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

検索フォーム

QRコード

QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。