兎と狼のラビリンス

こちらは白泉社『狼陛下の花嫁』の二次創作ブログサイトです。(作者様・出版社様とは関係ありません)

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意地悪上司の、婚約者(フィアンセ) 22

こんばんは~。
ちょっと日が空いてしまいましたが、続きを投下します。

毎日暑いので冷たいものを飲んでしまうのですが、お腹の調子が良くないです(*_*;
夏バテ気味かな…m(__)m

アイス食べたいのに、食べたらお腹壊すから食べれない。
悲し(*_*;

思いっ切り食べて、「美味し~っ!!」と叫んでみたいです。
夕鈴に叫んでもらおうかな…。

では、続きをどうぞ!


***




機械音だけが響く、薄暗い室内。
病院独特の、消毒液の匂い。

幼い頃、病に倒れ床に臥す母と共に、見舞いに来ない父をずっと待っていた。
年に数回しか会う事が無い実父は、結局病院には訪れず、黎翔はたった一人で母の最期を看取った。

黎翔は苦笑いする。

どうして、あんな昔の事を思い出すのか。
目の前のベッドにいるのは、大切な部下の女性で、母ではないのに。

――この匂いは嫌いだ。

忘れたはずの、遠い記憶を呼び覚ますから。


意地悪上司の、婚約者(フィアンセ) 22


幼い頃からの顔見知りの張元が院長を務める病院に、夕鈴は運び込まれた。
一緒に救急車に乗り込んだ黎翔は、病院に着くと手術室に運ばれていく彼女を呆然と見送った。

車で病院に来た浩大と瑠霞は、立ち尽している黎翔の背中を見ながら、怪我をした夕鈴より彼の方が心配だと思う。
考えたくないが夕鈴にもしもの事があった場合、黎翔は一体どうなってしまうのか。
最悪なケースを考えてしまい、背中にぞくりと寒気が走った。

夕鈴は幸いにも額の裂傷と腕や背中の打ち身以外大きな怪我もなく、脳波も骨にも異常はなかったが、髪の生え際の裂傷は数針縫う事になり、場所が場所だけに跡が残るだろうと診断された。

階段で頭を打った事により脳震盪を起こした彼女は、個室のベッドで黎翔に見守られながら昏々と眠り続けている。

完全看護なので付き添いはいらないのだが、黎翔はどうしてもと譲らず院長の張元がおれた。

――課長!

輝くような彼女の笑顔が、弾ける笑い声が甦る。

共にいる時間が増えると、怒った顔や、困った顔、子供のように拗ねた顔など、様々な彼女の表情を見る事が増えた。
それは黎翔にとってとても嬉しい事で、何物にも代えがたい幸せで。
それを失うかもしれないと思うと、どうしようもない恐怖が彼を襲う。

担当医に命に別状はないと言われても、彼女が目を覚ますまでは安心出来ない。

ベッドの傍の椅子に座り、非常灯の光りに浮かび上がる夕鈴の青白い顔をじっと見つめながら、黎翔はまんじりとして夜を明かした。

朝が来ても夕鈴は目覚めなかった。
黎翔は張元に追い立てられて朝食を食べるために病室を出たが、それ以外は僅かな変化も見逃さないように彼女の傍から離れなかった。

朝は激しい冷え込みだったが、午後になると気温も高くなる。
程よく暖房がきいた病室は時が止まっているような錯覚を受けるが、今日もいつもと変わらない忙しい日常が過ぎていっているのだ。
窓の外をぼんやり見ていた黎翔は、夕鈴の瞼がぴくぴく動いているのに気付いてハッとした。

「…汀?」

呼び掛けると、うっすらと目を開けた夕鈴はパチパチと瞬きをした後、「課長…?」と黎翔の顔を見て不思議そうに呟いた。
どうしてここに黎翔がいるのか、自分が置かれている状況が、分かっていない様子。

「汀…!良かった!!」

目を覚ましてくれた安堵感から、彼女の怪我の事も忘れて、思わず抱き締めてしまった。

「きゃ…痛っ…!!」
「わ、悪いっ!!」

驚きと、痛みの声を上げた夕鈴にハッとして、慌てて身体を離す。

それから、医師や看護師たちが何人も出入りして、病室内は一気に騒がしくなった。

夕鈴が診察を受けている間、病室から出ていた黎翔は、医師たちが退出してから再び室内に戻った。
包帯も巻き替えられ、着替えも済ませたらしい彼女はベッドに横になったままだったが、やっぱり落ち着きなく視線を彷徨わせていた。

溜息を吐きながらどかりと椅子に腰を下ろした黎翔を、一方の夕鈴はドキドキしながら見上げた。
何だかとっても疲れているような様子の課長に、どうしたのだろうと考える。

目が覚めたら課長に抱き締められるし、身体はとっても痛いし、医師や看護師さんに囲まれるし、一体どうなっているのか。プチパニック状態だ。

「…お前は丸一日、意識不明のままだったんだぞ。」

そう言われて、自分が階段から落ちた事を思い出した。
頭が痛いのはそのせいなのかと思いながら、もう一日も過ぎていているという事実に驚いた。
スーツの上着は着ていないが、昨日と同じ服装の課長を見て、ずっとここにいてくれたのだろうかと思う。

実際、黎翔は夕鈴の血で汚れたシャツとズボンを浩大に言われて着替えていたのだが、夕鈴は気付かなかったらしい。

先程医師が何やら治療して巻き直してくれた包帯が気になって、思わず手を伸ばし恐る恐る触れてみる。

「…出血の割には浅かったらしいが、数針縫っているからな。今はまだ痛み止めが効いているから、じっとしてろ。」

あんまり触るな、と手を掴まれそこから離された。

「課長…?」
「…ん?」

点滴の状態を見たり、布団を掛け直したりと、てきぱきと動いてくれる課長に、夕鈴は気になっている事をどうしても聞きたかった。

「…紅珠さんは、どうなったのですか?」

最後に見たのは、目を見開いた驚愕の表情。
目の前で人が落ちるのを見てしまった彼女は、きっと心に深い傷を負ったに違いない。

夕鈴の問いに黎翔は目を見開き、ちょっと嫌そうに顔を歪ませた。

「…心配しなくても、別に何もしていない。本当は、氾エンタープライズとは取引を止めようかとも思ったが、そんな事をすればお前は怒るだろう?」
「――当たり前です!」

こんな事で会社を倒産させられて、無関係な沢山の社員達が路頭に迷う事などあってはならない。

「そんな事したら、私怒りますからね!?」

予想通りの夕鈴の反応に苦笑いする。

「だろうと思って、何もしなかった。」

今朝一時的に氾エンタープライズの株価を操作して、少しだけダメージを与えた事は彼女には内緒だ。
現在は回復して通常に戻っているはずなので、夕鈴を傷付けられた報復にしては軽過ぎる方だ。

「…まあ、氾紅珠との婚約は近いうちに解消するけどな。」
「…えっ!?」

驚いて声を上げた夕鈴は、「そ、そうですか…。」と視線を泳がせる。
これは彼と紅珠の問題なので、自分が何か言うべきではないと分かっている。けれどあんなにも課長の事を想っていたのに、可哀想だと思う反面、心のどこかで喜んでいる自分に嫌気がさす。

心優しい夕鈴が複雑な思いをしている事は分かる。
けれど、黎翔にだって譲れないものはあるのだ。

隣に並んで、共に歩いていきたいと思う女性は紅珠ではなく夕鈴(彼女)なのだから。

「――汀。」

黎翔は椅子から腰を浮かし、夕鈴の顔を覗き込んだ。
怪我に触れないように注意しながら、目の淵にかかっている髪を横に流す。

「か、課長…?」

宝石のように紅く美しい瞳で見つめられて、夕鈴はドキマギする。
見つめ返すのも恥ずかしくて、しばらく視線を彷徨わせていたが、課長があまりにも優しい瞳で見つめてくるから、頬を赤く染めながら見つめ返す。

失ってしまうかと思った。
本当に怖かった。

「お前が無事で、本当に良かった…!」
「課長…!!」

黎翔は夕鈴の細い身体を、震える手で抱き締めて。
夕鈴は黎翔に縋り付くように、彼の首に腕を回した。


夕鈴の病室の前で、氾紅珠は扉をノックしようとしていた右手を下ろす。

左手には、お見舞い用の豪華な花束が持たれている。
突き落としたわけではないが、結果的に自分を助けた為に階段から落ちて怪我をしてしまった夕鈴に、一言お詫びとお礼を言いたくてやって来た。

病室の扉をノックしようとすると、中から聞こえてきた話し声は。
婚約者の彼の、感極まったような声。

自分の前では笑う事もなく、いつも冷静沈着だった彼は、彼女の前では笑えるし、彼女の事になると冷静さを失い必死になれるのだ。

紅珠は自信に溢れた彼の姿しか見ていなかった。
けれど、怪我を負った彼女を見て、蒼褪め、呆然と立ち尽くす彼の姿を初めて見た。

好きだった。
大好きだった。

親に決められた相手だったけれど、この人とならと本気で思っていた。

でも、彼の隣に立ち、共に進んでいくのは自分ではなく彼女なのだ。

何の見返りもないのに、疑った黎翔から助けてくれたように、兄水月の言う通り、彼女は人の痛みに敏感で、ちょっぴりお人好しな、素敵な女性。

(私の負けですわ…。)

ぽろぽろと溢れる涙を拭いながら、紅珠は静かにその場を離れた。
せっかく持ってきたお見舞い品だから、後で病室に届けてもらえるよう受付に預けようと向かっていた紅珠は、ちょうど開いたエレベーターから降りてきた人にそれを託す事にする。

「任せて!」と陽気に笑う小柄な男性と、ぺこりと頭を下げた女性に礼をして、紅珠はエレベーターに乗る。
病室にいる二人が、何をしているかは知らないけれど。
何だか良い雰囲気っぽくて、ちょっぴり悔しいから。

――最後にちょっとだけ、意地悪するの。

紅珠は吹っ切るように、ふふっと小さく笑った。


どちらともなく身体を離し、互いに見つめ合った後。
黎翔の長い指が、そっと夕鈴の唇に触れて。
意識するわけではなく、自然と二人の距離が近付いていく。

ドキドキしている心や、吐息すら感じられるような。
二人の境が無くなり、唇が触れ合う、瞬間――。


バッターン!!

「やっほーい!夕鈴ちゃん、目が覚めたって~!?」
「夕鈴!具合どう!?」

「「……っっっ!!!!???」」

病室の扉が豪快に開けられ、浩大と明玉が中に入ってくる。

「「あれ…?」」

二人はベッドの上のおかしな光景に首を傾げる。

ベッドに手を付き、夕鈴に覆い被さるような格好の黎翔の口を、どうしてか夕鈴が必死に抑えている。
シーン…と沈黙が流れたが、

「はっは~ん?」
「お邪魔だったかしら?」

聡い二人は、すぐに気付いたようで。
ニヤニヤしながら聞いてくる二人に、夕鈴は恥ずかしくなって慌てて布団の中に潜り込み。

――こいつら、わざとじゃないだろうな…。

良い所を邪魔された黎翔は、がっくりと肩を落とした。


続く


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Comment

┃q・ω・∪ こんばんは♪ 


∪-ω-∪…くすー♪
最後はやっぱりそんな“オチ”なんですね(笑)
課長残念www

夕鈴も何針か縫ったのは痛いけど、ほかは大事なくて良かったー。
紅珠も課長のこと諦めてくれたし!

あとは課長がきちんと夕鈴に告白するだけかな?
…出来るのかはわかんないけど←

  • posted by 桃月 
  • URL 
  • 2014.07/15 23:31分 
  • [Edit]
  • [Res]

Re: ┃q・ω・∪ こんばんは♪ 

桃月様

コメントありがとうございます!
お返事遅くなってすみません(*_*;

やっぱりオチはつきもの。そんなに簡単にこの二人の仲は進展しません(笑)
告白もしなくちゃいけないですが、鈍い夕鈴に通じるかどうか怪しい所です。
  • posted by 高月慧ネン(桃月様へ) 
  • URL 
  • 2014.07/21 16:26分 
  • [Edit]
  • [Res]

やっぱり(^-^;) 

おはようございますm(_ _)m
夕花です。

いつもコメント、ありがとうございますm(_ _)m

やっぱり(^-^;)
後ちょっとで邪魔される二人ですね(笑)
でも、告白してないのに、いきなり雰囲気でするというのもおかしいような気がしますね(笑)

目が覚めるまではついてる課長がまさしく子犬状態ですね(笑)心配で心配で離れられないのですね(^-^)
夕鈴、愛されてますね(^-^)

早く、二人の関係が進展してほしいですね(^-^)

ではまた(´▽`)ノ
  • posted by 夕花 
  • URL 
  • 2014.07/22 08:33分 
  • [Edit]
  • [Res]

Re: やっぱり(^-^;) 

夕花様

コメントありがとうございます!
美味しい所で邪魔をされる、残念な黎翔さんです。お約束です。
そうか、告白まだだから、雰囲気に流されてはいけないですよね!
清いお付き合いを(←高校生か?)

夕鈴が目を覚ますまでは、心配で堪らなかった小犬な課長です。
二人の仲は、ちょっとずつ変わっていくかな~?
  • posted by 高月慧ネン(夕花様へ) 
  • URL 
  • 2014.07/25 02:16分 
  • [Edit]
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