兎と狼のラビリンス

こちらは白泉社『狼陛下の花嫁』の二次創作ブログサイトです。(作者様・出版社様とは関係ありません)

Entries

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

意地悪上司の、婚約者(フィアンセ) 24

こんばんは。
夜分遅くに失礼します。

毎日暑いですね~。
外にいても、家にいても暑い!
溶けちゃいそうです(*_*;

さて、いつもの如くこんな時間ですが、婚約者(フィアンセ)の続きが出来ましたのでお届けしてから寝ようと思います。

今回でラストです!
ちょっと長くなっちゃいました。
お時間ある時にどうぞ!


***



コンコンと扉がノックされて、夕鈴は読んでいた雑誌から顔を上げて「どうぞ」と声を掛ける。

「…失礼します。」

細い声が応えて、スッと扉が開くと幾分不安げな表情をした女性が入ってきた。
どうしても話したい事があって彼女の兄経由で連絡を取ってもらった。本当は自分から伺うのが筋だが、怪我の事もあるし、もしこの事が課長の耳に入れば厄介な事になる。

だから今彼女と会っている事は、彼には内緒だ。

「来てくれて嬉しいわ、ありがとう紅珠さん。」

夕鈴は課長の婚約者である紅珠と、笑顔で向き合った。


意地悪上司の、婚約者(フィアンセ) 24


厳しい寒さが和らいできた、三月半ばの清々しい朝。
出社時間になると、次々と社員達が出勤してくる。
白陽コーポレーションの社員用駐車場で、夕鈴は黎翔の車から外に出てフウッと息を吐いていた。

階段から落ちて怪我をした日からずっと仕事を休んでいたので、今日は実にほぼ一ヶ月振りの出社になる。
夕鈴としてはもっと早く復帰したかったのだが、今運転席から外に出て来た、直属の上司である課長に止められてしまった。

ならばせめて退院して自宅療養したい。
検査結果も異状はなかったし、退屈な病院のベッドにいるより、アパートに帰りたい。

「…ダメだ。」
「どうしてですか!?」
「どうしても、ダメなものはダメだ!」

黎翔も夕鈴の気持ちが分からないでもなかった。

だがもし、突然具合が悪くなったら?
一人きりのアパートで、倒れてしまったら?
助けてくれる者など、いないかもしれない。

黎翔の脳裏には、踊り場でぐったりと力無く倒れていた彼女の姿がこびりついている。
何が起こるか分からないのに、彼女を一人になど出来るはずが無い。

夕鈴の訴えにも黎翔は耳を貸さず、けれど彼女も譲れなくて、何度か言い合いになり揉めに揉めてようやく。
再び彼のマンションにお世話になる事になった。

(…課長は、ズルい。)

俯いた夕鈴は唇を尖らせる。

「――もう二度と、お前のあんな姿を見たくないんだ…。」

力無い声で、そんな事を呟かれたら。
分りましたって、言うしかないじゃない…。

無意識に見つめていた先を歩く課長の背中から、夕鈴はフイッと視線を逸らした。

沢山の社員でごった返すエントランスはざわざわしていて、夕鈴と黎翔にチラチラと視線を向けてくる者や、ひそひそと何か囁き合っている者もいる。

鬱陶しいと黎翔が顔を顰めていると、急にざわっと周囲の喧騒が酷くなった。
何事かと思っていると急に道が開き、その先に二人の男女が立っている。

困ったような笑みを浮かべる氾水月と、にこにこと花が咲くように微笑んでいる妹紅珠。

――もう関わるなと言っておいたのに、まだちょっかいをかけてくるのか…?
これ以上夕鈴を苦しめるというのなら…。

黎翔の機嫌が急降下し、ゆらりとどす黒い空気が立ち込めるが。

「――夕鈴お姉様っ!!」

駆け寄って来た紅珠が嬉しそうに飛び付いたのは、黎翔ではなく夕鈴の方だった。
驚いた夕鈴から、「きゃっ」と短い声が上がる。

「こ、紅珠…さん?」
「…嫌ですわ、紅珠、と呼び捨てて下さいませ。」

キラキラした瞳で見つめられて、若干引きながら「こ、紅珠…。」と呼ぶと、「はい!」と嬉しそうに微笑まれる。

「もうお加減よろしいですの?…会わせてほしいと連絡しても取り次いでもらえず、私、寂しゅうございました…!」

花のような笑顔が急激にしぼんでいき、夕鈴に抱き着いたまま紅珠はハラハラと涙を流し訴えた。

「え…?」

紅珠から電話があったなんて知らないし、聞いた事もない。
夕鈴はチラリと傍にいる課長を見ると、彼はバツが悪そうにそっぽを向いた。
自分がもしかして、と思った通り、課長が故意に黙っていたようだ。

「課長~?」

どうしてそんな勝手な事するのか。
膨れっ面をして課長を見上げるが、彼は謝る気もないようだった。

そんな二人を見て、紅珠はクスッと笑う。

「やはり、お姉様は素敵ですわ…!!」

黎翔にはっきりと意見を言える彼女は、とても強くて素晴らしい女性だと思う。
それに――。

兄水月から連絡をもらい、夕鈴の病室にやって来た。
数日振りに会う彼女はまだ額に包帯が巻かれていて、とても痛々しく見える。
詳しい事は教えてもらえていないが、跡が残るとも聞いた。
女の身で、身体に傷が残ってしまうなんて。紅珠には耐えられない事。自分は何て事をしてしまったのだろうと思う。

「…どうぞ、座って下さい。あ、何か食べますか?お見舞いで色々頂いたの。」

責められても仕方が無いと覚悟して来たのに、夕鈴は全く怒る気配もなくにこやかに話し掛けてくる。
そして静かに、自分の本当の想いを紅珠に語った。

「…私が悪い事は分かっています。でも、課長の事を諦めたくはないの。今ならはっきり言える、私、課長の事を愛しています。」

婚約者の紅珠がいるのだから、自分は身を引くべき。
分かっていても、愛する事は止められない。

「…私、全力で迎え撃つから。だから紅珠さん、貴女も全身全霊を掛けて奪いに来て。どちらが課長を幸せに出来るか勝負よ。」

――私達はライバルで、同じ男性(ひと)を好きになった同志でもあるから。
きっと、仲良くやって行けるわ。

そう言い切った夕鈴が、とても凛々しくて紅珠は憧れてしまった。
そう、婚約者の事など、どうでも良くなるほどに。


抱き着いてくる紅珠からは花のような甘い香りがする。
つい彼女の頭を撫でると嬉しそうに微笑まれた。
「…夕鈴お姉様と、お呼びしてもよろしいでしょうか?」と言われた時にはどうしようかと思ったが、本当の妹がいたらこんな感じなのかなと思う。

同じ人を好きになったライバルのはず、なのだけど。
こういうのも良いかな、と夕鈴が思っていると。

「…私、夕鈴お姉様をお慕い致しております。」

キラキラとした瞳で、紅珠がうっとりと夕鈴にそう言った。

「「「…ん?」」」
「「「は?」」」

黎翔の不機嫌な声と、周囲から素っ頓狂な声が上がり、ここがエントランスで沢山の社員がいる事を思い出す。
奇異な視線が気になって仕方が無い夕鈴は、
「こ、紅珠…。取りあえず、場所を移動しましょうか…。」
場所を変えるよう進言してみた。

所変わって、営業一課の応接室。

「…いい加減、汀から離れたらどうだ?氾紅珠。」
「い、や!ですわ。」

夕鈴にべったり抱き着いたままの紅珠と、向かいに座っている黎翔との間にバチバチと火花が散る。

「こ、紅珠?…もうそろそろ離してくれないかしら?」
「…お姉様は、紅珠の事がお嫌いですの?」

仕事の遅れを取り戻すため、そろそろ業務に付きたくてそう言うと、うるうるした瞳で見つめられて、夕鈴はウっ、と唸る。

「そ、そんな事ないわ。私も貴女の事が大好きよ。」
「お姉様…!」

ギュウッと抱き締め合う姿はさながら恋人同士のようだ。
――女同士だが。

「こ、紅珠?…兄としては障害の無い恋愛をしてほしいのだけど。」

部屋の隅で佇んでいた水月が、すごく複雑そうに声を掛けてくる。

婚約者の事で苦しんで悩んでいた妹。やっと吹っ切れたような顔を見せるようになったと思ったら、どうしてまた、前途多難な相手に惹かれるのだろう。

「あら、お兄様。お考えが古いですわ。今の時代、愛があれば性別なんて関係ないのです!」
「あ、愛っ…!?」

夕鈴から素っ頓狂な声が上がる。
紅珠が好きなのは、婚約者(フィアンセ)である課長ではなかったか。

「~~~っ!いい加減にしろっ!!」

声を荒げたのは黎翔だ。

彼はイライラしていた。

夕鈴にギュッと抱き着いている紅珠。
――私だって、まだそんなふうに抱き着いた事はないのに。

嬉しそうに、彼女の名を呼ぶ紅珠。
――私はまだ、汀と苗字で呼んでいるのに。

「…ご自分の気持ちもはっきり伝えられないくせに、こういう時だけズルいですわ。」
「――何だと!?」

睨み付けてくる黎翔に夕鈴は顔を青くしたが、紅珠はどこ吹く風とばかりにツンッとそっぽを向く。

本当に黎翔様はズルい。
夕鈴お姉様の事を愛してらっしゃるのに、それを素直に言葉にしないくせに。
そんな独占欲を見せるなら、はっきりと気持ちを伝えたら良いのに…。

そうすれば、互いを想い合っている二人は幸せになれる。

まだ心の奥に、彼を愛する気持ちはあるけれど。
紅珠はそれに蓋をする、二人が幸せになれるように。
少しだけ切なくなって溢れた涙を誰にも見られたくなくて、紅珠は夕鈴の胸にすりっと顔を押し付けた。

「……っ!…お前…!!」

黎翔は思わず声を上げて、

「…紅珠。」

彼女が隠そうとした涙に気付いた夕鈴は、その細い背中をポンポンと優しく叩いた。

応接室から響く声に、一課の入り口で様子を見に来ていた浩大が楽しそうに笑い、一課の面々も仕事をしながら興味津々に聞き耳を立てる。

――営業一課は、今日も賑やかだ。

***

その後、紅珠は自ら婚約を破棄。
なおも大手企業の子息との婚約を進めてくる父親に反抗し、反対を押し切り家を出て一人暮らしを始める。

彼女は自分の文才を生かし、『素直になれずに好きな部下を苛めてしまう意地悪な上司×そんな彼が大好きな可愛い部下』と言う、誰の事か丸分かりな小説を(趣味で)書き始める。

敬愛する夕鈴と元婚約者の愛の物語(つまりは妄想)を同人誌として何冊も発行。すぐに若い女性の間で口コミで広がり人気が急上昇し、熱心なファンも出来て超売れっ子作家になる。

明玉経由で偶然手にした紅珠作のそれを見てしまった夕鈴が、羞恥で悶絶する事になるのだが。
――それはまた、別のお話。



END


※ちょっとした後書き

途中で自分が何を書きたかったのか、分からなくなってしまいました。
書こうと思っていた『お約束の婚約者紅珠登場』『紅珠を庇って夕鈴が怪我をする』『夕鈴に惚れ込んだ紅珠が、自ら婚約破棄』は、何とか組み込む事が出来たと思います。
夕鈴を良く思わない輩と、課長を良く思わない輩がいて、二人の周りで不審な事が起こって…と書き進めるうち、オリキャラまで登場してしまったわけですが。
読者様はどう思われたか分かりませんが、慧ネン的には気に入ったオリキャラが出せて良かったと思います。
彼女はまた何れ登場させたいですね。

そんなこんなで、とても長くなってしまいましたが何とか完結を迎える事が出来ました。
長々とお付き合い頂き、ありがとうございました!
次は、○○○編…かな?



関連記事
スポンサーサイト

Comment

┃q・ω・∪ おはようございます♪ 


ぷー( ´艸`//)
課長、紅珠に痛いところをつかれましたね(笑)

課長もいつになったら夕鈴のコトを名前で呼べるのかwww
この先が楽しみです♪

連載お疲れ様でした(*^_^*)

次は何編かなぁ~♪
  • posted by 桃月 
  • URL 
  • 2014.07/25 07:14分 
  • [Edit]
  • [Res]

管理人のみ閲覧できます 

このコメントは管理人のみ閲覧できます
  • posted by  
  •  
  • 2014.07/25 17:11分 
  • [Edit]
  • [Res]

Re: ┃q・ω・∪ おはようございます♪ 

桃月様

いつもコメントありがとうございます!
そしていつもの如く、お返事遅くなってすみません(*_*;

ずっと傍にいるのにまだ気持ちを伝えられないヘタレ課長。
紅珠の方がずっと大人でした。
いつの日にか、課長も「夕鈴」と名前で呼ぶ日が来る事でしょう。

次は…?
  • posted by 高月慧ネン(桃月様へ) 
  • URL 
  • 2014.08/03 02:01分 
  • [Edit]
  • [Res]

Re: No title 

うりうり様

ご無沙汰しております。某国の日記は、こっそり覗いています、ごめんなさい。
せっかく書き込みして下さったのに、お返事遅くなってすみません(*_*;
これに懲りず、良かったらまた遊びに来て下さい。

原作では巻物でも、現パロなら立派な同人誌ですよね!
ネット小説も面白そう!そして課長もこっそり読んでいたら笑えますね(^^♪
慧ネンも紅珠先生のお本を読んでみたいです♪

こんな長い話を書いた事なかったので、途中何度か挫折しそうになりましたが、何とか完結いたしました。
うりうりさん、同棲じゃなくて同居だと、課長が怒っておりますよ?
同棲生活はまだまだ先の事になりそうです。

次の○○○編も、頑張って書きますね!
  • posted by 高月慧ネン(うりうり様へ) 
  • URL 
  • 2014.08/03 02:58分 
  • [Edit]
  • [Res]

紅珠もすごい(笑) 

こんばんは(^-^)夕花です。

夜遅くに失礼しますm(_ _)m

紅珠もすごいですね(笑)
さっさと婚約まで破棄してしまいましたね(;^_^A夕鈴に惹かれると、誰でも変わりますね(笑)心優しく、凛とした強さを持ち、可愛らしい一面もある魅力的な女性ですから(^-^)
夕鈴は可愛い妹が出来たみたいで嬉しそうですが、課長は腹が立って仕方ないみたいですね(笑)
夕鈴を抱きしめたいのに、独り占めしたいのに、なかなか出来ないわけですから(笑)

課長はこれからも苦労しそうですね(^_^)

次回も楽しみにしています(*^▽^*)
  • posted by 夕花 
  • URL 
  • 2014.08/05 00:50分 
  • [Edit]
  • [Res]

Re: 紅珠もすごい(笑) 

夕花様

いつもコメントありがとうございます(^^♪

初めは自分の事しか考えていないような紅珠でしたが、夕鈴に会った人は皆いい方向に変わっていくんです。その最たる例が課長なんですけどね☆
夕鈴に惹かれた紅珠は、婚約者の黎翔さんの事なんかアウトオブ眼中になってしまったようです(笑)
課長にとっては、夕鈴のファンが増えるたびに苦い思いをする事でしょうね(ププ)

課長は素直になれなくて夕鈴に辛い思いをさせておるので、もっと苦労すれば良いと思います!

  • posted by 高月慧ネン(夕花様へ) 
  • URL 
  • 2014.08/10 00:00分 
  • [Edit]
  • [Res]

Comment_form

管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。

左サイドMenu

最新記事

最新コメント

最新トラックバック

右サイドメニュー

プロフィール

高月慧ネン

Author:高月慧ネン
『兎と狼のラビリンス』へようこそ。
黎翔と夕鈴が大好きな管理人・慧ネンが、溢れる妄想を書き殴るために作ったブログです。
原作沿いや現代パラレル、色々ありますので、お好きなお話をお読み下さい。
よろしくお願いします。

†いらっしゃいませ†

キリの良い数字を踏まれた方は、ご連絡下さい♪

ご訪問中のお客様

現在の閲覧者数:

にほんブログ村ブログパーツ

ブロとも申請フォーム

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

検索フォーム

QRコード

QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。