兎と狼のラビリンス

こちらは白泉社『狼陛下の花嫁』の二次創作ブログサイトです。(作者様・出版社様とは関係ありません)

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♪ドラマじゃないけど、素敵な愛を

このお話は『♪ドラマ以上の、恋をしようよ』の続きです。


『今夜19時から3時間だけ、いつもの公園で待ってる。』


そんなメールが届いたのは、夕方の16時頃。

差出人は、彼。

記者会見を終え、ようやく一息吐いた頃に送ってきたのだろうか。
夕鈴がテレビのチャンネルはそのままで、リビングでぼんやりとしていた時だった。

塾に行っていた弟が帰宅して、夕飯の準備を何もしていない事にようやく気付き、夕鈴は慌てて近くのスーパーに向かった。
食材を選びながら店内を回っている時も、キッチンに立って料理をしている時も夕鈴の頭を占めるのは彼の事ばかり。

けれど、19時を回っても、夕鈴は公園に向かう事が出来なかった。

黎翔の事は、今でも好きだ。
例のスキャンダルで、彼との連絡を絶ってしまうほどショックを受けるくらいに。
だが好きだという気持ちだけで、彼の傍にはいられないと思う。

彼は芸能人で、自分は一般人。

もし付き合う事になっても、きっとこれからも色々苦しむ事がある。また同じような事がある。
その時自分は、平然と彼の傍にいられるだろうかと夕鈴は考える。

いや、自分には無理だと、そう思うのだ。

時間は刻々と進んでいく。

夕飯の後片付けをして、朝ご飯の下拵えをし自室に下がっても、夕鈴の脳裏から彼の姿は消えてくれなかった。

初めて彼がコンビニに自分を訪ねてきた時、夕鈴が来るまで『ずっと待ってる』と言った黎翔が、今回に限って時間を決めてきたのはどうしてなのか。

時間内に自分が行かなければ、彼とはもうこれっきりになるのだろうか?
彼にとって自分は、その程度のものなのだろうか?

悪い方向にばかり考えてしまって、夕鈴は違う、と頭を振る。

黎翔の気持ちは、あの記者会見を見て痛いほど分かった。

彼は、おそらく自分が彼を思う以上に、自分を愛してくれていると。

時計を見ると21時30分を少し回っている。
走ってギリギリと言う所だろう。

夕鈴は自室を飛び出し、階段を駆け下りた。

「…姉さんっ!?」

隣の部屋にいた弟が、夕鈴の突然の行動に驚き、扉から顔を覗かせる。

「心配しないで!…すぐに戻るから!…父さんが帰って来たら、チンして食べてって言っといてっ」

父親は残業をしているようで、まだ職場から帰宅していない。弟にそれだけ頼むと、夕鈴は肌寒い夜の街に飛び出した。

自転車で向かうかタクシーを拾えば早かっただろうに、気が動転していた夕鈴は考えも着かず、そのまま走って公園に向かっていた。

「バカやろうっ…気を付けろ!」

人通りが多い歩道を縫うように走り抜けていたが、肩が当たった男性にきつい声で怒鳴られた。

「…すみませんっ!!」

男性はもうこちらを見ずに歩き始めていたが、夕鈴は足を止めその背中に向かって頭を下げる。

ハアハアと荒い息を整え、夕鈴はまた走り出す。

チラリと見た腕時計は、21時55分――。

約束の時間が、迫っていた。


♪ドラマじゃないけど、素敵な愛を


腕時計に目をやって、黎翔は溜息を吐く。

もうすぐ19時から3時間が経つが、夕鈴は姿を見せない。

恋焦がれる相手を待つというのが、こんなに不安で寂しいものだと初めて知った。

時間を決めたのは、黎翔なりの気遣いだった。

もし『いつまでも待ってる』と言うと、優しい彼女の事だ。その気がなくても自分が行かなければずっと待たせる事になると気に病み、会いに来るだろう。

けれど、もし夕鈴に自分と付き合う気がないのなら、もう会わないほうが良いと黎翔は思うのだ。
もし会ってしまえば、自分は夕鈴の気持ちを無視して、自らの気持ちを押し付けてしまうだろうから。


五月に入ったが、今日は普段より冷える。ずっと夕鈴を待っていた黎翔の身体は、すっかり冷えてしまっていた。
ベンチに座る自分の膝の上にいる暖かい存在が、黎翔の心を少し癒してくれる。
いつもこの公園にいるこの子犬は、自分に良く懐いてくれている。
今夜もじっと夕鈴を待つ黎翔の膝に乗ったり、周囲を走り回ったりと楽しそうだった。

ピピッとアラームが鳴り、22時を知らせる。

「――タイムリミット…か。」

黎翔はハアっと空を仰いだ。

夕鈴を責める事なんて出来ない。

芸能人である自分と、一般人である彼女。
その身分の差が、彼女に戸惑いと苦しみを与える事は容易に想像が着く。
彼女に自分の想いを、押し付けるわけにはいかないから。

膝の上に座る子犬を黎翔はそっと抱き上げと、その鼻先に顔を押し当てる。

「…僕、振られちゃった……。」

ヒクッと、黎翔は嗚咽を洩らす。

初めて好きになった女性に、受け入れてもらえなかったショックは大きかった。
子犬はクウン…と鼻を鳴らし、伏せられた黎翔の頬を流れた涙を舐めた。

と、その時――。

「…黎翔さんっ!!」

公園に響いた声に、黎翔は弾かれるように顔を上げた。


公園の入り口には、ハアハアと肩で息をしている夕鈴の姿が。

「ゆ、うりん…?」

黎翔は一瞬、彼女の姿は自分の願望が見せる幻かと思った。だが瞬きをしても消えないその姿に、本物だと気付いた黎翔は慌てて腰をあげる。

一方夕鈴も、顔を上げた黎翔の目に溜まった涙を見た瞬間、弾かれたように彼に向かって走り出した。

「――夕鈴っ!!」

「黎翔さんっ…!!」

自分の胸に飛び込んできた夕鈴の細い身体を、黎翔はギュウッと抱き締める。

彼女の髪に顔を埋めると、風呂上りなのか花のような甘い香りがする。
久し振りに感じる彼女の体温と彼女の匂いに、黎翔はああ、と瞳を閉じる。

やっぱり自分には夕鈴しかいない。

彼女の事が、大好きだと改めて思う。

「…黎翔さんっ、ご、ごめんなさい…ごめんなさいっ」

黎翔に抱き締められたまま、夕鈴は泣きながら謝る。

彼の大きな身体は冷え切っていて、連絡もしなかった自分を本当にずっと待っていたと分かる。

3時間もの間、ずっと一人で――。

「…謝らなくて良い。…君は、こうして来てくれた。」

走ってきたのだろう、今だ肩を上下させている夕鈴の背を撫でる。
薄い上着を羽織っただけの細い身体は、寒さからか少し震えている。

悩んで悩んで、ようやく決断して、ここに来てくれたのだろう。

「…夕鈴。」

抱き締めていた身体を少し離し、黎翔は夕鈴の顔を見詰める。

涙に濡れた顔、鼻の頭は少し赤くなっていて――。

「ここに来てくれたって事は、僕の想い、受け止めてくれたと思って良いんだよね?」

そんな彼女が、たまらなく愛しい。

「黎翔さん…」

夕鈴は顔を上げ、黎翔を見詰める。

もう涙の跡はないが、彼の瞳は、少し潤んでいて。

これほどまでに自分を思ってくれる彼が、凄く大切だ。

「…君が好きだよ、夕鈴。」

「黎翔さ…」

「――愛してる。…僕と付き合って下さい。」


黎翔の愛の言葉に、夕鈴は顔を真っ赤にさせてコクンと頷いた。

そっと顎を取られ顔を上げた夕鈴は、近付いてくる彼の顔を見ていられなくてギュッと瞳を閉じる。

唇に感じる、彼の熱。

重ねられた後、名残惜しそうに夕鈴の唇を舐め、彼の唇は離れた。

黎翔は思った以上に甘い夕鈴の唇に酔い、もっと深く貪りたくなったが、きっと恋愛初心者であろう彼女にとっては負担になるだろうと思い、早々と唇を離した。

頬を染めてポヤンと夢現でいる夕鈴に、黎翔は苦笑いをする。

「…ファーストキス?」

だったら嬉しいな、と黎翔は夕鈴に問い掛ける。

夕鈴は頬を染めたまま黎翔の腕を引くと、彼の耳元で、小さな声で囁いた。

「…セカンドキスも、貴方で嬉しいです。」

「…えっ!?」

目を見開いた黎翔を見て、夕鈴はフフッと笑う。

セカンドキス『も』と言うことは、ファーストキスも自分が奪っちゃった―と言う事で。

でも黎翔には、残念ながらその覚えがない。

「…いつ?」

「ダ~メ…秘密!…教えてあ~げないっ!」

黎翔から身体を離し、夕鈴は彼から逃げるように走り出す。

「夕鈴っ!」

そんな彼女を、黎翔は焦ったように追い掛ける。


薄暗い夜の公園に、二人の楽しげな声が響いていた。



続く

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