兎と狼のラビリンス

こちらは白泉社『狼陛下の花嫁』の二次創作ブログサイトです。(作者様・出版社様とは関係ありません)

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♪秘密の旅行は、『何』がいっぱい? ♯2

続きです。

Creuzシリーズ



♪秘密の旅行は、『何』がいっぱい? ♯2


「「…取材?」」

夕鈴と黎翔の声は偶然にもハモっていて、几鍔は可笑しそうに苦笑いする。

「…そうだ。都心からでも短時間で行ける、心安らぐ田舎町を数箇所取り上げて特集組むんだと。その取材を、俺が任されたって訳だ。」

ここは旅館から少し離れた場所にある定食屋だ。

せっかくだから昼食は外で三人で取ろうという事になって、女将に昼食はキャンセルを入れ、三人は町の中心部に向かった。
老夫婦が二人で切り盛りする古民家風の食事処で、昼食を取りながら話をする。

「で、お前らはどうしてここに来たんだ?」

焼き魚を突付きながら聞いてくる几鍔に、本当の事を言って良いものかと夕鈴は隣に座る黎翔の顔をチラリと見る。
その視線に気付いた黎翔はニコリと微笑み、ここは自分が言った方が良いだろうと口を開く。

夕鈴にはいつも寂しい思いをさせているから、埋め合わせがしたいなと思った事。
ちょうど連休を取れたので(本当は、無理やりもぎ取った)、二人だけでゆっくり旅行に行こうと考えた事。

「その考えは立派だが、日が悪いな。秋の三連休なんて、こんな田舎町でも流石に人が増えるぞ?」

「…僕一人で来たって意味がないし。夕鈴に平日に学校休ますわけにはいかないから、多少リスクはあるかもしれないけど、何とかなるだろうと思って。」

こちらも焼き魚を突付きながら話しているが、黎翔は几鍔とは違い魚から骨をきちっと除けて食べている。

「まあ、今のお前を見ても、誰もあのReiだとは分からないかもな。」

どちらかと言うとReiは煌びやかなレストランで、高級料理を食べているイメージが強い。
誰がこんな田舎町の定食屋で、焼き魚に舌鼓を打っているなんて思うだろう。
だが高校の頃から、黎翔は家庭染みた料理を良く好んで食べていた。

「…僕としては、この旅行の日程が君と被った事に驚いているけど。誰かの策略?」

「俺は陰険マネの手先じゃないぞ?…日が被ったのも、同じ旅館に泊まるようになったのもただの偶然だ。」

「なら良いけど。」

ポンポン会話している二人を見て、夕鈴はクスクス笑う。

「…何?」

「…何だ?」

黎翔は首を傾げながら優しく聞いてくる。一方の几鍔は何だか嫌そうだ。

「…いいえ、別に何もないんですけど、二人の会話聞いていると何だか面白くて。」

几鍔から高校が同じだったと言う事は聞いていたが、二人の性格が違い過ぎて彼らの高校時代をイメージ出来なかった。

「こうやって二人が話しているのを見るの、初めてだから。」

高校生の時もこんな感じだったのかな、と思う。

「こうやって話すようになったのは、卒業してからだな。」

「そうだね…。あの頃は君と、こんな付き合いになるなんて思ってもいなかった。」

「俺もだよ。…聞けよ、夕鈴。高校ん時のこいつは、とてもヤな感じのヤツでさ…」

楽しげに黎翔の高校時代を暴露しようとする几鍔を、愛しい夕鈴に荒んでいた頃の自分の話しを聞かれたくない黎翔は必死に止めに掛かる。

黎翔と几鍔はギャーギャー言い合って、夕鈴は楽しげに笑いながらあっという間に時間は過ぎていった。

几鍔は周辺の景色を写真に収め、そして二人にもカメラを向けてきた。

「…明日は時間が空いてるから、お前らが嫌じゃなければ何枚か撮ってやるよ。…記念にもなるだろ?」

そう言った几鍔に了承の意を伝えて、今から役場に取材に向かうと言う彼と別れた。


二人手を繋いで歩きながら、夕鈴と黎翔は都会の喧騒の中では味わえない穏やかな時間を堪能していた。道路のすぐ脇を流れる小川に下りていける道を見つけて、足元に注意しながら下りてみる。

手を付けた小川の水はとても冷たくて気持ち良い。
水はとても澄んでいて、道路からでも泳ぐ魚を見る事が出来た。

「…夏に来たら、また違う面白みがあるかもね?」

「そうですね。…これだけ綺麗な場所で泳げたら、とても気持ち良いと思います。あ!釣りとかも良いですよねっ。」

色付く紅葉や銀杏の葉が、温かい陽を受けて優しい影を二人に落とす。

「…そう言えば昔、私と几鍔の家族で、よく旅行に行ってました。」

「そうなの?」

「ええ、母が亡くなる前ですけど…。母が亡くなって、父も塞ぎ込んでしまって、家族での旅行はそれ以来した事ありません。」

こんな田舎町にも、来た事があるような気がする。
幼過ぎた自分には、その記憶はほとんど残っていないけど。

「…これから、どんどん行こう。色んな所へ、僕と、君の家族と。」

思い出は、これからどんどん作っていけば良いと、黎翔は思う。

そうする事が出来たら、とても幸せだと。

「そうですね。」

夕鈴は黎翔の言葉を聞いて、とても幸せそうに微笑った。


田舎町といっても、観光のスポットとなる場所は一つくらいある。

二人が泊まる旅館からは徒歩30分ほどの場所に、その大滝はあった。5メートルほどの高さから流れ落ちる水は、湖面を打ち付け周囲に飛沫が飛んでいる。
木々の間から差し込む太陽の光が水に反射し虹を作り、とても幻想的な景色を楽しむ事が出来た。

ひんやりとした空気は気持ち良く、とても清清しい。

この場所には流石に、観光に来たと思われる家族連れやカップル達が沢山いた。
二人は少しの時間だけその場所に留まり、黎翔の素性がばれないように早々と立ち去る事にした。

あきらかに黎翔をチラチラと見る視線が増えてしまったからだ。

お手洗いを出て、夕鈴は待ってくれている彼の元へ向かう。観光客の為に整備されている駐車場の隅を進んでいた彼女は、目に飛び込んできた光景に足を止めた。

駐車場の先の柵の傍で、黎翔が数人の女達に囲まれていたからだ。

彼女達は頬を赤らめ黎翔に何か言っているが、彼は無言のまま唯見下ろしているだけだ。眼鏡の奥の瞳が、機嫌悪そうに細められている。

だが戻ってきた夕鈴の姿を捉えた瞬間、黎翔の表情は分かりやすいほど穏やかになった。
低い声で彼女達に告げると、黎翔は夕鈴の方に駆け寄ってきた。

夕鈴がいつも目にする、子犬のような素顔。

ファンらしい彼女達に向ける、Reiの冷たい瞳と言葉。

「…悪いけど、プライベートだから。」

自分が言われたわけでもないのに、低いその声は夕鈴を何故か戦慄させた。

夕鈴の傍に来た黎翔は、申し訳なさげに眉を下げる。

「…ごめんね、待たせて。」

「いいえ…私こそ、待たせてすみません。…あの、彼女達…良かったんですか?」

チラリと黎翔の背後に視線を向けると、綺麗な彼女達は夕鈴をきつい瞳で睨み付けていた。

“なんで、あんな子が?”

黎翔と付き合い始めて、何度も感じるようになった蔑みの視線。
大分慣れたとはいえ、感じる胸の痛みは変わりはしない。

「…良いんだ。今はオフだし、夕鈴の事を一番にしたいから。」

夕鈴ににこやかに微笑みながら、ファンには興味もないと告げる黎翔。

自分を一番大事にしてくれる黎翔に、夕鈴はとても嬉しく思う。
けれど、ファンの子達も、大切にして欲しいと思うのは、とても矛盾しているのだろうか?


そして、その夜。

几鍔が宿に戻ると、女将が先に戻ってきた夕鈴と黎翔の様子が変だと伝えてきた。黎翔の素性を知っている女将が几鍔にその事を伝えたのは、二人が旧知の仲だと昼間理解したからだろう。

共に夕食はとったらしいが、二人とも無言で、どことなく険悪なムードだったと言うのだ。

夕食は外で済ませてきた几鍔は、すぐにでも温泉に浸かりたいのを我慢して、荷物を部屋に置くと二人が部屋を取っている離れへ向かった。

いくら離れで人気が無いとはいえ、部屋の前の廊下にまで何か言い合っている二人の声は聞こえていて、几鍔は顔を顰めながら障子戸を開ける。

「おいおい、修羅場かよ…」

部屋の惨状を見て、勘弁してくれ…とぼやく。

「…もういいっ、黎翔さんのバカっ!…几鍔、今日あんたの部屋に泊めて!」

顔を真っ赤にして叫ぶ夕鈴は、鬼気迫るものがある。

「な!?…いくら相手が几鍔でも、一緒の部屋で休むなんて私は許さないからなっ!」

こちらも相当怒っているのか、黎翔は部屋を出て行こうとする夕鈴の腕を掴んだ。一瞬痛みに顔を顰めた夕鈴は、その手を渾身の力で振り払う。

「私があんたが借りてる部屋を使うから、あんたはこの部屋で寝て!」

夕鈴は有無を言わさぬ勢いで几鍔に言うと、ギッと黎翔を睨み。

「…黎翔さんのバカ!…分からず屋!!」

目に涙を溜めて叫ぶと、足音高く部屋を出て行った。
バタンと勢いよく締められた戸が、夕鈴の怒りを表している。

「「………」」

部屋に静寂が訪れ、男二人は言葉も無く立ち尽くす。

部屋の中は夕鈴が怒りに任せて投げ付けたのか、タオルやら化粧品などが錯乱していた。

冷たい表情をしていた黎翔がフッと身体の力を抜き、ノロノロと動き出して部屋の中を片付け始める。その顔はReiから普段の黎翔に戻っていて、肩を落としながらしょんぼりしていた。

マジで勘弁してくれと、几鍔は思う。
こんな状態の黎翔と、同じ部屋で休まなければならないのか。
今夜は寝れないかも…と、几鍔は溜息を吐いた。

何故なら。

「どうしよう…。」

片付けを終えた黎翔が、ポツリと呟く。

「…夕鈴に嫌われちゃった…」

そう言って黎翔は、クシャリと顔を歪ませた。

「このまま、…別れようって言われたら、僕…」

ポロッと目から涙を零した黎翔に、几鍔はギョッとする。

「ちょっと待て!…とにかく座れ、落ち着こう!…な?」

まるでこの世の終わりのような、悲壮感溢れる表情をしている黎翔の肩を押し、無理やり座らせる。

「…僕、夕鈴の事を一番に考えていただけなのに…」

青褪めた顔で唇を震わせている黎翔に、几鍔はこれは相当マズイと感じる。
このままでは延々と、愚痴を聞かされそうだ。

こうなってしまった以上、愚痴を聞かされるのは仕方がないが、ここは酒でも飲ませて、さっさと寝かし付けるに限る。

「分かった分かった!…お前の言い分は聞いてやるから、今夜は飲もう!なっ!?」

旅館の仲居に、強い酒を数本持ってくるように几鍔は頼む。

酒に強い黎翔が、早々に酔って寝てしまうのを祈りながら。


続く

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よろしくお願いします。

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