兎と狼のラビリンス

こちらは白泉社『狼陛下の花嫁』の二次創作ブログサイトです。(作者様・出版社様とは関係ありません)

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♪秘密の旅行は、『何』がいっぱい? ♯4

続きです。

一人旅館を出た夕鈴は何処に…。

Creuzシリーズ



♪秘密の旅行は、『何』がいっぱい? ♯4


緑が多いこの町は、秋も深まるこの季節、朝晩の冷え込みが都会より激しい。夕鈴を照らす太陽の光は暖かいが、彼女が旅館を出た頃はまだ気温が低く肌寒かった。

旅館を出て、すでに一時間近く。
田舎道をとぼとぼと歩きながら、夕鈴は楽しかった昨日の午後を思い出す。

こんなつもりじゃなかった。彼との初めての旅行を、夕鈴だって凄く楽しみにしていた。普段出来ない恋人同士のような事を、少しでも出来たら良いなと思っていた。

大好きな彼と、手を繋いだり腕を組んだり、笑い合いながら色々な場所に行ってみたかった。
昨日の幸せな時間を思い出すように、夕鈴は二人で行った道を辿る。

小川に下りて、滝を見に行って、ぽつんと一人佇む自分にハッとして、凄く惨めな気分になり彼女を落ち込ませた。隣に彼がいない現実を、突きつけられた様な気がして、どうしようもなく辛くなるのだ。

視線を足元に落とし、夕鈴は歩き続ける。昨日は通らなかった道を歩いて、少し高い場所にある小さな公園に辿り着く。

見下ろすと、金色に色付いた田んぼや畑で作業する人達を見る事が出来た。

少し冷たい風が、夕鈴の髪を攫っていく。
柵に手を付き町の様子を見ながら、夕鈴は考える。

ケンカをしてしまった恋人と顔を合わせ辛くて、朝食を食べた後彼がまだ起きて来ないのを良い事に旅館を出てしまった。

先に帰ろうというわけではなく、一人で少し考えたかったのだ。

彼はもう目を覚ましただろうか?
いなくなった自分を、心配しているだろうか?

不安にさせるために出て来たわけではないので、旅館の女将に言伝を頼んだのだが彼は聞いただろうか?

彼の顔が、フッと浮かんでくる。

とても端正な、男らしい表情。
母性を擽られる様な、子供のようなやんちゃな表情。
夕鈴を見詰めてくる、とても優しく、甘い表情。

夕鈴が大好きな、様々な表情を持つ恋人。


そんな彼を恋人に持つ自分。

ファンの女の子達に冷たく言い放った彼を見た時、特別扱いされている自分が嬉しくもあり、少し怖くもなったのだ。

彼と釣り合わない自分が、いつか彼に別れを告げられたら、自分も今の女の子達と同じような扱いをされるのだろうかと。

だから言ってしまったのかもしれない。『ファンの子達も大事にしてあげて下さい』と。

彼の言う通り、ここに来てなお彼を芸能人として見てしまったのは夕鈴の方だ。

彼は平然と連休が取れたから旅行に行こうと言ったが、この休みを取るために彼はどれほど頑張ったのだろう。ぎっしりと詰まっているスケジュールをこなして、無理矢理この旅行を捥ぎ取ったに違いない。

二人で行く初めての旅行を楽しみにしながら、寝る間も惜しんで働いたに違いない。

唇を噛み締めて、夕鈴は嗚咽を耐える。
自分に泣く資格なんてない。
自分の言葉や態度は、どれほど彼を苦しめたのだろう。

彼の放ったあの言葉が、彼の怒りや悲しみ、そして絶望を表している。

帰ろう、と夕鈴は思う。
帰って、彼に心から謝ろう。

たとえ彼が、許してくれなくても。
伝えなくてはならない言葉があるから。

戻ろう、彼の元へ。


決意を新たにした彼女の背後に、フッと人影が落ちる。

その存在に、夕鈴は気付かなかった。


「さあ、見てないねえ…」

「そうですか、ありがとうございます。」

几鍔は畑仕事をしている老婆に頭を下げると、また走り出す。少し離れた場所で別のお年寄りに声を掛けていた黎翔に追い付くと、「そっちはどうだ?」と声を掛けた。

「いない。…君の方は?」

「こっちもダメだ。」

青褪めた表情のまま返事をした黎翔に、几鍔も首を振る。

昨日黎翔が夕鈴と二人行った場所を辿っているのだが、所々に見かける町民に声を掛け夕鈴の容姿を伝え見なかったか問うても、返ってくるのは『見てない』と言う返事ばかり。

「…この道は通らなかったのかな?」

時間が経つにつれ、二人は憔悴は大きくなる。

初めて訪れたこの地で、夕鈴が向かう場所など高が知れている。すぐに見つかるだろうと思っていたが、その考えは甘かったようだ。

「…時間が経ち過ぎているのかもな。」

几鍔は額に流れる汗を拭う。夕鈴が旅館を出てもうすぐ二時間。

お年寄り達が仕事を始めた時には、もう夕鈴はこの場所を通っていた可能性もある。

黎翔はグッと唇を噛んだ。自分が言った言葉で、夕鈴を深く傷付けてしまった。あの時の、彼女の涙を思い出す。

「…大丈夫か?」

泣きそうになっている黎翔を見て、几鍔は声を掛ける。

深い後悔と、悲しみに満ちた、黎翔の紅い瞳。

黎翔は几鍔に向かって、「ああ。」と頷いた。

泣く資格なんてない。泣いている暇もない。
今は唯一刻も早く、夕鈴を探し出さなくては。

町の中心部を歩き回り、二人は昨日は通らなかった道を見つけた。舗装はされているが道は狭く、車が擦れ違うのもやっとだ。山の方に登っていく道らしいが、この先に何があるか分からない。

近くの道の脇で草刈をしていた男性に聞くと、隣の県に抜ける旧道で、途中に休憩に使える小さな公園があるらしい。

せっかくなので、この男性にも夕鈴を見なかったか聞いてみる。

「茶色い髪の女の子?…ああ、あの子かな?」
「…見たんですか!?」

思い出すように首を傾げる男性に、黎翔が大きな声で聞き返す。黎翔の切羽詰った顔に驚いたのか、男性は瞠目しながら、「ああ」と返事を返す。

「3、40分前かな?…女の子が一人上がって行ったよ。君達が言っている子かどうかは、おじさんには分からないが。」

ようやく得る事が出来た情報に、黎翔と几鍔は顔を見合わせる。

「…あの子、君達の友達かい?…だったら、早く追い掛けた方が良い。」

「「…え?」」

男性の話を聞いていた黎翔は次第に厳しい表情になり、話が終わるより先に走り出した。

「あ、おいっ!」

男性に頭を下げると、几鍔もすぐに黎翔の後を追う。


「その子が行って少し経ってから、ガラの悪そうな男が三人、この道を上がっていった。少し気になっていたんだが…。」

緩やかな傾斜が続く坂道を、黎翔は全力で駆け上がる。

…夕鈴、夕鈴!

「この時期になると都会からの観光客が増えて、その中にはあまりガラの良くない若者が、良くこの先の峠で悪さしてるって噂もある。」

峠に向かう途中には、休憩所となる公園がある。
女の子一人で長い時間いるのは危険だと、男性は告げる。

悪い予感がして、黎翔の鼓動がドクドクと高鳴る。


夕鈴、待ってて!

…すぐに行くから、今すぐ君の所に行くから!!

フワリと笑う夕鈴の姿が、黎翔の脳裏に浮かび、消えていく。


お願い!…どうか無事でいて…!!


続く

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