兎と狼のラビリンス

こちらは白泉社『狼陛下の花嫁』の二次創作ブログサイトです。(作者様・出版社様とは関係ありません)

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♪秘密の旅行は、『何』がいっぱい? ♯7

続きです。

甘い夜を過ごした二人。

帰る日になりました。

Creuzシリーズ



♪秘密の旅行は、『何』がいっぱい? ♯7


「お世話になりました。」
「ありがとうございました!」

旅館の前で、お世話になった女将と従業員達に頭を下げる。

上機嫌にニコニコしている黎翔の横に立つ夕鈴の顔は少し青白く、身体も何だか辛そうだ。
その原因を分かっているくせに、黎翔はさりげなく夕鈴の腰を支えてくる。
そんな彼を、夕鈴はギッと横目に睨み付けた。

「いえいえ。…是非またいらして下さいね。」

そんな若い二人を微笑ましい表情で見詰め、女将は優雅に頭を下げた。

「おい、二人とも。そこに並べ。」

後ろにいた几鍔に言われ、二人は首を傾げながら旅館を背に二人で並ぶ。

「…記念に撮ってやるって言っただろ?」

昨日はそれ所じゃなかったからな、と、几鍔はカメラを二人に向けた。

シャッターを切っていた几鍔と、夕鈴の横で微笑んでいた黎翔は、その瞬間不思議な感覚に襲われたが、それが何か二人には分からなかった。
黎翔は几鍔にも並ぶように言い、この旅行が三人の記念になるように、カメラの使いに慣れた旅館の従業員にシャッターを押してもらった。

その後三人は一時間ほど車を走らせて、女将が教えてくれた果樹園に向かった。ブドウと梨狩りを楽しみ、少し遅い昼食を取ってから三人一緒に岐路に着く。

行きは電車とバスを乗り継いでここまで来た几鍔だったが、黎翔が乗っていけば良いと誘ったのだ。

助手席に夕鈴、後部座席に几鍔を乗せ、黎翔が運転する車は喧騒の街に向かって進む。
また明日から、それぞれ忙しい日常が始まるのだ。


「…夕鈴?」

急に口数が減った夕鈴を不思議に思い、黎翔は視線を彼女に向ける。

オレンジ色のポカポカした日差しを受け、彼女はウツラウツラしているようだ。時々、首がカクンと揺れている。黎翔は愛しげに見詰め、几鍔にタオルケットを取ってくれと頼む。

言われた通り手に取ったタオルケットは、女の子が好みそうなキャラクターの柄だ。

あのCreuzのリーダー・Reiが、こんな物を車に積んでいると知ったら、ファンが悲鳴をあげそうだと几鍔は思う。

受け取ったタオルケットを、黎翔は片手で器用に夕鈴に掛けた。

音量が下げられた静かなクラシックが流れる車内に、夕鈴の小さい寝息だけが響いていた。


今出てきたばかりの旅館の前に佇む夕鈴は、アレ?と首を傾げる。

傍に黎翔や几鍔の姿がない。それに見上げる旅館も、少し新しく見えるのは気のせいだろうか。

不思議に思っていると、急に旅館の玄関が開いた。

そこから飛び出てきたのは、まだ幼い一人の少女。

ポニーテール姿の、亜麻色の髪の少女。
少女は夕鈴の姿が見えないのか、チラリとも顔を向けずに彼女の前を通り抜けていく。
目をこすりながら走る少女は、何だか泣いているようだ。

え?…あれって、もしかして…。

何となく見た事ある少女に夕鈴がまさかと思った瞬間、背後から大人の女性の声が響いた。

「…夕鈴っ!」

ああ、と、夕鈴は震えながら口を押さえる。
そうしなければ、悲鳴でもあげてしまいそうだ。

恐る恐る振り向くと、玄関の前には赤ちゃんを抱いた一人の女性。

「…お母さん…」

自分と同じ亜麻色の髪、栗色の瞳をした、もう二度と会う事は出来ないはずの母親の姿。

懐かしくなって、夕鈴は母に近寄る。だが彼女にも夕鈴の姿は見えていないのか、蒼白の表情で駆けて行った少女の姿を探すだけだ。

母の腕の中には、まだ幼い、一歳になったばかりの弟の姿が。

「思い、出した…。」

幼い頃、自分と几鍔の家族でよく旅行をしていた。
初めて来たと思っていたこの旅館にも、自分は過去訪れた事があったのだ。

一歳になってよく動き回るようになった弟から両親は目を離す事が出来ず、幼い夕鈴は二人が自分を見てくれなくなった、自分より弟の方が大事なんだと勘違いして、この日、一人で旅館を飛び出した。

旅館から男性が一人出てきた。
今よりも当然だがかなり若い、夕鈴の父・岩圭だ。

「あなた、どうしましょう!…夕鈴がっ!」

母は泣きながら、夫に声を上げる。母は弟を産んでから体調を崩す日が多くなり、走る夕鈴を追いかける事が出来なかった。
岩圭は必死に妻を宥め、自分が探しに行くから部屋にいるようにと言い、走り出した。

忘れていた母の顔を、夕鈴は必死に目に焼き付ける。

彼女は夕鈴を探しに出た夫の後姿が見えなくなるまでその場に佇み、やがてノロノロと旅館に入っていく。


お母さん、お母さん…!

父も母も、自分を見てくれなくなったわけではない。

いなくなった自分を心配して、こんなに泣いている姿を見て、ちゃんと愛されていた事を夕鈴は気付く。


お母さん。

もう会う事は出来ないけど、貴女の姿を見る事が出来て嬉しい。


私、好きな人が出来ました。
色々あるけど、彼と二人で幸せになります。

本当は、相談したい事とかあるけど。
母親がいる友達が、ちょっと羨ましいけど。

私、頑張るから。

ずっと、見守っていてね。

旅館の扉が閉まり母の姿が見えなくなると、夕鈴は頬を伝う涙を拭った。

フッと周囲の景色が変わる。

夕鈴は過去の自分の中にいた。

幼い自分が前も見ずに、知らない道を走っている。

やがて、幼い自分は。

「ここ、どこ…?」

気が付けば周囲はすでに暗くなり、どこを見ても覚えがない物ばかり。
子供は極端に視界が狭い。
幼い夕鈴は、初めてのこの町でアッと言う間に迷子になった。

「お父さん、お母さん~」

泣きながら声を上げ、幼い夕鈴はトボトボと歩く。

道に迷ったら歩き回らない事が鉄則なのに、そんな事知るわけもない幼い自分は、知らず知らずのうちにさらに入り組んだ道に入っていく。
時間にして30分ほどうろうろして、歩き回った足は限界を超え、夕鈴は痛さと心細さに蹲ると大きな声で泣き出した。

切れかけた外灯だけが、周囲を少しだけ照らしている。
だが田舎町の夜は都会より暗くて、夕鈴はますます怖くなり震えながら泣いていた。

すると。

「…どうしたの?大丈夫?」

急に声が聞こえて夕鈴は顔を上げる。自分を見下ろすのは、小学生くらいの男の子だ。

幼い自分の中からその様子を見ていた夕鈴は、突然現れた男の子の顔を見て目を見開く。
黒い髪の少年の瞳は、宝石のように紅い。

まさか…。

「迷子になっちゃったの…。」

「そっか。…泊まってる旅館の名前分かる?」

「うん。」

少年は夕鈴の手を取って立ち上がらせた。

「僕がおぶっていってあげるから、もう泣かないで?」

「うん。もう泣かない。」

「そう、偉いね。」

グシグシと涙を拭う夕鈴の頭を撫で、少年はニコリと笑った。

月だけが照らす道を、夕鈴は少年におんぶされて旅館までの道を歩く。
まだ子供とはいえ、ここは男の子。夕鈴は自分より広い少年の背中にしがみ付く。

「…お父さんとお母さんは、旅館にいるの?」

少年に問われて、夕鈴は旅館を飛び出してきた事を話した。

少年は静かに夕鈴の話を聞いた後。

「きっと、ご両親は凄く心配していると思うよ?」

決して君を見ていないわけではない、いなくなった君を、必死に探していると思うと少年は夕鈴を諭してくれた。


心地良い揺れにウツラウツラしながら、夕鈴は少年におぶわれ、旅館に帰り着く。
玄関先で警察官と話をしていた両親が、二人の姿に気付き駆け寄ってくる。

「お父さん、お母さん、ごめんなさい。」

夕鈴は素直に謝り、両親はそんな彼女をギュッと抱き締めてくれた。

夕鈴の両親は娘を送り届けてくれた少年に感謝の言葉を述べ、一緒にご飯を食べようと誘ったが少年は首を横に振った。

「…お別れなの?」

幼いながらに夕鈴には彼との別れが理解出来たのだろう。
目に涙を溜めて、少年を見上げる。

「…またいつか、会えると良いね。」

「お名前、聞いてもいい?」

どうしても彼の名が知りたくて、夕鈴がそう聞くと。

少年は笑って、教えてくれた。


「…二人とも、そこに並べ。」

旅館から出てきたのは、カメラを片手に持った幼馴染の几鍔。
彼は少し不貞腐れたように少年を見て、旅館を背に並んで手を繋ぐ二人にシャッターを切った。

男の子でも小学生の夜道は危険だからと、少年は警察官が送っていく事になった。

手を振りながら歩いていく少年に、夕鈴はブンブンと振り返す。
泣きそうになりながら必死に涙を堪える。

またいつか、きっと会える事を信じて。

「…ありがとう!またね、黎翔お兄ちゃんっ!」


信号待ちをしていると、助手席で寝息を立てていた夕鈴が「ん…」と声を洩らす。

起きたのかなと黎翔はその顔を覗き込むが、彼女はまだ瞳を閉じたままで。

良い夢でも見ているのか、その表情はとても幸せそうだ。

「黎翔さん…」

寝言で名を呼ばれ、黎翔は蕩けるような表情で夕鈴を見詰める。

夢の中の自分に少しだけ嫉妬しながらも、夢の中でも自分と彼女は共にいる事に歓喜して。


夕闇が迫り少し車の量が増えた道で、黎翔はアクセルを踏み込んだ。


END

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よろしくお願いします。

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