兎と狼のラビリンス

こちらは白泉社『狼陛下の花嫁』の二次創作ブログサイトです。(作者様・出版社様とは関係ありません)

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♪秘密の旅行は、『何』がいっぱいだった?

このお話は、『♪秘密の旅行は、『何』がいっぱい?』の後日談です。



♪秘密の旅行は、『何』がいっぱいだった?


突然響いたインターフォンの音に、夕鈴はビクリと肩を震わせる。自分がバンドグループCreuzのリーダー・Reiの恋人だとばれて、誰かに後をつけられたのかと思ったのだ。

黎翔は安心させるように頭を撫でて立ち上がると、来客の対応をする。

夕鈴との幸せな時間を邪魔されて、少し不機嫌になった黎翔だったが、突然の来訪者の正体が分かるとロックを解除し、「上がってきて」と声を掛けた。

「よう、久し振りだな。」

扉を開けると、そこには手に紙袋を持った几鍔が立っていた。

「久し振り。…今日はどうしたの?」

几鍔を部屋に上げて、リビングに向かいながら黎翔は聞く。

彼とは、あの旅行以来だ。
あれから二週間が過ぎていた。

「几鍔…?」

幼馴染の姿を確認し、夕鈴は驚いたように声を上げた。彼女も、几鍔に会うのは旅行以来だ。

「…やっぱり来てたか。」

リビングのソファに座っている夕鈴に気付いた几鍔は、

「お前もいるならちょうど良い。」

持ってきた紙袋を床に置きながらそう言った。

「…この間の旅行の時の写真が出来たんだ。いるなら焼き回ししてやる。」

几鍔は袋から持ってきたアルバムを取り出すと、黎翔に手渡した。

彼の隣に座っていた夕鈴も、黎翔と共にアルバムを覗き込む。

写真に関してはキチッとしている几鍔らしく、数ある写真は綺麗に収められている。

旅館の前で並んで撮ったものや、果樹園で撮られた写真。
高い位置に生っている梨を取ろうと、必死に手を伸ばしている夕鈴の姿。
取ったばかりのブドウを一粒摘んで食べようとしている、子供のような黎翔の姿。

撮られた事にも気付かなかった、黎翔と夕鈴が二人手を繋いで駐車場を歩く後姿。

気取らない、素のままの表情をその写真は捉えていた。

芸能人と一般人ではない。
どこにでもいるような、普通の恋人同士の二人の姿が鮮明に映し出されている。

「…相変わらず、君の写真は凄いな。」

黎翔は感嘆の声を上げる。

まるで今にも動き出しそうな、生き生きとした表情。

このタイミングを逃さずシャッターを切る事が出来るカメラマンは、世界広しと言えどそう居ないだろう。

「被写体が良いからな?」

仮にも芸能人に向かって、几鍔はニヤリと笑って言う。

「置いていくから、ゆっくり決めてくれ。…いつでも構わない。」

「…分かった。」

最後まで一通り見て、黎翔はアルバムを閉じた。

黎翔が用意した紅茶を一口飲んで、几鍔は「そう言えば…」と紙袋を漁る。
彼が取り出したのは、やけに古びたアルバムだった。

「部屋の整理をしていたら出てきたんだが…」

少し茶色に変色しているアルバムを開くと、几鍔は二人の方に向けてテーブルの上に置いた。

「これ、お前だよな?」

几鍔が指を指すのは、見た事ある旅館の前に立つ、少年と幼い少女。

どことなく硬い笑みで映る少年は、黒い髪と紅い瞳の端正な顔立ち。
一方、泣き笑いのような表情の少女は、茶色い髪をポニーテールにしている。

黎翔はフと表情を和らげた。細められた瞳は、遠い過去を思い出しているようにも見える。

遠い過去に、田舎町で迷子になった女の子を親元に連れて行った事があった。
それから色々あり、慌しい日々に黎翔はこの出来事を忘れていた。

「懐かしいな…。」

そう呟き、自分の隣に立つ少女を見る。

「ん?…この写真を撮ったのが君って事は、この子は…」

黎翔は隣に座る夕鈴に視線を移した。

黎翔と共にアルバムを覗き込んだ夕鈴は、口を押さえ「やっぱり…」と呟いた。

「「やっぱり?」」

黎翔と几鍔の声がハモる。

今から12年も前の写真だ。
当時5歳だった夕鈴には、その記憶はないだろうと思っていたのだが。

「…夢を見たんです。」

ポカポカと暖かい陽射しに負け、黎翔が運転する車の助手席で、寝てしまった秘密の旅行の帰り道。

もう会う事が出来ない母。
知らない町で迷子になった自分。
そこで出会った、とても大人びた一人の少年。

幼過ぎて、忘れ去られていた懐かしい記憶を、見た。

「僕達、こんな昔に出会っていたんだね…。」

黎翔と夕鈴が並ぶ写真の横には、夕鈴の父が撮ったと思われる、几鍔も含めた三人で映る写真もある。
そこに映っている几鍔は、どことなく剥れていて。

「何で君は、こんな顔をしてるの?」

「うるせーな、そんな昔の事忘れたよっ!」

黎翔に聞かれ、几鍔は面白くなさげに声を上げる。

言える訳がない。

当時8歳だった自分は、ずっと自分について回る幼い少女に、淡い恋心を抱いていたなんて。
それを突然現れた自分と同い年の少年が、幼い少女の心を瞬時に奪っていった。

「何でそんなに怒るの~??」

そんな事を言えば、怒られて頭にクエスチョンマークを浮かべているこの腐れ縁の同級生に、どう詰め寄られるか分からない。

今はもう、夕鈴に対してそのような感情は湧かない。
あくまで今、几鍔にとって夕鈴は妹のようなものだから。

黎翔の隣で、夕鈴が一枚の写真にそっと指を這わす。
そこに映っているのは、亡き夕鈴の母。

この日から僅か二年後、彼女は事故で帰らぬ人となった。

「…夕鈴のお母さん、綺麗な人だね。」

目に涙を浮かべる夕鈴の肩を、そっと抱き寄せる。


遠い昔の、あの日の記憶が蘇る。

迷子になっていた夕鈴をおぶって、辿り着いた旅館。
そこには帰って来ない娘を探す、青褪めた表情の彼女の両親がいた。

当時、黎翔は実母を亡くし、珀本家で暮らしていた。
なかなか打ち解ける事が出来ない、義母と異母兄。
父が気を使いこの旅行を計画したのだが、旅館の同じ部屋に居辛くなり、一人勝手に旅館を出てウロウロしていた時に夕鈴に出会った。

彼女の両親は娘を送り届けてくれた事を凄く感謝し、一緒にご飯を食べようと誘ってくれたが、早く帰らないと何を言われるか分からないと思い断ってしまったのだ。

本当は、この暖かい家族と、一緒にいたいと思った。

『またいつか、会えると良いね』

その言葉通り、二人は12年の時を経て、再び出会う事が出来た。


「…確かに美人だけど、結構豪快な人だったぜ?」

二人の向かい側で、几鍔が苦笑いをする。

「そうなの?」

「ああ。」

夕鈴の弟を生んで体調を崩し、病弱になってしまったが。
それまでは良く、悪さをしては頭を叩かれたものだ。

家事が得意で、家族をとても愛していた。
曲がった事は大嫌いで、とてもお人好し。
そしてとても、優しい女性(ひと)だった。

「…夕鈴みたい。」

初対面の時、頬を叩かれた黎翔は、嬉しそうに顔を綻ばせる。

「ああ、こいつをもう少し大人にした感じだ。…だんだん似てくるな。」

高校生になった頃から、夕鈴は亡き母に似てきた。
父・岩圭からは良くそう言われる。

「もうちょっと、そのがさつな所をなんとかしたら、ホントそっくりなのに…」

「…煩いわねっ!」

心底残念そうに呟く几鍔を、夕鈴はキッと睨む。

「まあまあ…。」

苦笑いしながら、黎翔は夕鈴を宥める。


二人だけの、秘密の旅行は。

思いがけず几鍔に会い、初日から波乱の予感があった。

その日の午後には二人ケンカをしてしまい、翌日には離れ離れ。

夕鈴は少しだけ危険な目にあいかけて、黎翔は久々にぶち切れてしまった。

その土地ならではの、美味しいご飯も食べて温泉を満喫した後、仲直りした二人は、甘い甘い夜を過ごし。

翌日向かった果樹園では、子供のように遊びまわった。

几鍔が撮った写真達は、その記憶を、鮮明に未来に伝えていく。

遠い昔の思い出を、二人が思い出したように。

色褪せる事無く、彼らの中で生き続ける。


波乱もあり、ケンカもあり、危険もあり。

蜜のような甘い誘惑もあった『秘密の旅行』は。

新しい『思い出』と沢山の『幸せ』を、三人の心に残す事になる。


「…僕達三人がまた会えたのは、きっと夕鈴のお母さんが導いてくれたんだよ。」

ニコニコ嬉しそうに言う黎翔に、夕鈴はコクンと頷く。


黎翔の部屋のリビングに、思い出話に花を咲かせる三人の笑い声が響く。

古いアルバムの中から、笑みを湛える女性が優しげに見詰めていた。



END

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