兎と狼のラビリンス

こちらは白泉社『狼陛下の花嫁』の二次創作ブログサイトです。(作者様・出版社様とは関係ありません)

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『醒めなければ』

注意:死ネタです!流血表現あります。

そして、ちょっと意味不明かも…。

大丈夫な方、気にならない方だけ読んで下さい。



『醒めなければ』


身体を刺すようなこの痛みは、一体何なのだろうか?


「…あなた?」

掛けられた妻の声に、男はハッとして顔を上げた。シンクの向こうから、エプロン姿の妻が首を傾げながらこちらを見ている。

「どうしたの?ぼんやりして…」

そう言われて、男は今の自分の状況を確認する。すでに朝食を済ませ、食後のコーヒーを片手に新聞を読みながら、少しぼんやりしていたらしい。

男は苦笑いする。

「いや…、何でもないよ?」

「?…変な人。」

妻はそんな夫を見てクスクス笑うと、焼き上がったトーストを皿に乗せテーブルに運んだ。
そして階段下に向かうと、二階に向かって声を張り上げる。

「…貴方達!…もうそろそろ準備しないと遅刻よ!?…早く下りてきてご飯食べなさい!」

「「はーい」」

二階から男女のハモった返事が返ってきてすぐ、バタバタと足音が階段を駆け下りてきた。

高校二年生の娘と、中学三年生の息子。
二人の自慢の子供達だ。

二人はギャーギャー言い合いながら、トーストに噛り付き、目玉焼きにナイフを入れる。二人が大好きな、半熟の目玉焼きだ。

もっと早く起きればゆっくり支度出来るのに、二人はいつもお寝坊で毎日この光景だ。

コーヒーを飲みながら、男は目を細めてその光景を見詰める。
見慣れている光景のはずなのに、どこか違和感を感じるのは何故なのだろう?

「ねえ、パパ。…私の好きなブランド、今度新作が出るんだ。気になってるのあるんだけど、買ってくれないかな?」

溺愛する娘の頼みを、男が断れるはずもない。

「…どれにするか、決めておきなさい。」

「やったー!…さすが、パパ!…だーい好き❤」

娘は満面の笑みで、父親に抱き付く。

「あ、姉貴だけずるいぞ!?…親父、俺欲しいゲームソフトがあるんだけど?」

娘ほどではないとは言え、自分と愛する妻の血を引いた息子。男は息子にも弱かった。

「…ゲームばかりして、勉強を疎かにしないと約束できるならな。」

「さっすが親父!…話が分かる!」

パチンと指を鳴らし、息子が歓声を上げた。

「二人とも?…早く行かないと、ホントに遅刻しちゃうわよ?」

本当に時間ギリギリなのにやけにゆっくりしている子供達に、妻は急かすように声を掛けた。その声で二人は慌てて口に詰め込むと、弾かれるように席を立つ。

「ほらほら、お弁当!」

「ありがと、ママ!」

「行ってきます!!」

文字通り玄関を飛び出していく二人に、妻は我が子ながら…と頭を押さえる。
朝からこの忙しさ。何とかならないものだろうかと。

「…元気があっていいじゃないか。」

妻の傍に近寄った男は、笑いながらそう言う。

「もう!…貴方はあの子達に甘過ぎますっ!」

キッと睨まれても、男は優しげに妻を見詰める。


愛しい、愛しい妻。

焦がれて焦がれて、ずっといつまでも共にいて欲しくて。
この想いをぶつけ、ようやく一緒になった女性(ひと)。

背中まである優しい亜麻色の妻の髪が、室内に入り込む陽の光でキラキラと輝いている。

男は愛しい妻の背を抱き、そっとその小さな唇を塞いだ。
短い口付けだったが、この歳になってなお初々しい妻は、それだけで顔を真っ赤にさせる。

「…仕方がない。だってあの子達は、僕と君の子だ。」

ずっと傍にと望んだ君の血を、確かに受け継ぐ二人の子供。

可愛くない筈がない。

「でも僕が一番甘いのは、君にだよ?」

出勤前の玄関先で、スーツ姿の男はエプロン姿の妻を身体を優しく抱き締めて囁いた。

『…これからもずっと傍にいてね?…愛しているよ、夕鈴。』


「…陛下?」

身体を優しく揺さぶられ、白陽国国王・珀 黎翔は瞳を開ける。

「こんな所で寝ていると、風邪をひかれますよ?」

目の前には、数日前ようやく正妃に迎える事が出来た愛しい女性の姿。

寝起きでぼんやりしながら、黎翔は視線を彷徨わせ、ゆっくりと身体を起こす。
どうやら長椅子で、転寝をしていたようだ。

「…陛下が私の気配に気付かないなんて、珍しいですね?」

気配に敏感な黎翔は、誰かが近付くとすぐ目を覚ます。常に命の危険に晒されている国王は、人の気配があるところでは熟睡したりしない。

それなのに黎翔は、彼女が入室して彼の身体に触れ声を掛けるまで目を覚まさなかった。

「…いつもより穏やかな顔をしていましたよ。…何か良い夢を見られましたか?」

「夢…?」

お茶の準備をしている妻の後姿を見ながら、黎翔は呟く。

そう、とても温かい、優しい夢を見た。

「…白陽国ではない場所で、僕たちは共に暮らしていた。」

見慣れない服を着て、見慣れない場所で。

「僕たちの間には子供が二人いて、とても可愛かった。」

黎翔の端正な顔付きと、彼女の優しい面影を持った二人の子供。

「…賑やかで、温かくて、とても幸せだった。」

夢なのが、少し残念だけれど。


でも、あれは夢でも良い。

愛しい女性(ひと)は、黎翔にとってたった一つの『唯一』は、あの夢と同じように彼の傍にいる。

「…愛しているよ?…夕鈴」

あの夢と同じように、黎翔は愛しい妻に向かって囁く。

「私も愛してます、…黎翔様。」

あの夢のような幸せを、これから二人で築いていけば良い。


二人は無言で、暫くの間抱き合っていた。

「…陛下。」

腕の中の夕鈴が、ゆっくりと黎翔を見上げる。

その表情は、今にも泣き出しそうな、悲しげなものだった。

「夕鈴?」

何故、そんな顔をする?

愛しい彼女に、こんな表情をさせるものは何だ?

「…この幸せが、ずっと続いたら良かった…」

ポロリと、耐え切れない雫が彼女の目尻から溢れた。

呆然と夕鈴を見詰める黎翔の前で、彼女の身体は徐々に薄れ見えなくなった。

「…ゆうりん?」

「夕鈴?…夕鈴!?夕鈴っ!!!」

狂ったように彼女の名を叫びながら、黎翔は城中を歩き回る。

どこにもいない夕鈴の姿を必死に探しながら、彼はおかしい事に気付いた。

宰相、大臣、官吏、女官、下働きの者。

あれだけ沢山の人間がいるはずのこの王宮で、誰にも会わないのだ。
気配を探ってみると、夕鈴の気配どころか何も感じる事が出来ない。

おかしい、と黎翔は思う。

これは一体どういう事だ?

皆はどこに行った? 

ここで何が起きた?

僕は一体どこにいるんだ?


彼女は、どこに消えた?

次の瞬間、ズキリと、尋常ではない痛みが身体を突き抜けた。


「……陛下っ!!」

いつも口煩い側近の声が耳元で聞こえて、黎翔はゆっくりと目を開く。

眩しさに目を瞬かせると、必死な形相をした李順の姿がうっすらと映る。

「り、じゅん…?」

彼の背後には、方淵や水月、待医や他の官吏の姿も見える。

さらにその後ろ、部屋の中の空気は澱んでいて、何故か埃っぽい。

「…私は、一体…どうし、た…?」

身体を動かそうとするが、全く力が入らない。それどころか、身体のあちこちに刺す様な痛みを感じる。特に酷いのは、ちょうど腹の部分だ。まるで刃が突き抜けた後のような、するどい痛み。

「陛下、動いてはいけません!」

待医の声、何か叫ぶような男の声、泣いているような女の悲鳴。


必死に思い出そうとする黎翔の脳裏に、最悪な状況が浮かんできた。

愛しい夕鈴をようやく正妃に迎え、その祝いとして開かれた宴。
そこには、何の後ろ盾も持たない彼女に対する憎悪を持った、刺客が混ざり込んでいた。

「…ゆう、りん…」

護りたかった。護ろうとした。護り抜かなくては、いけなかったのに。

気管に入った血で、黎翔は盛大に咳き込む。

「陛下っ」

喚く周囲を無視して、黎翔はゆっくりと身体を起こした。

虚ろな視線の先には、冷たい床に横になった、愛しい妻の姿が。


だが彼女の姿は、血で赤く染まり。

いつも微笑んでいた顔は、血の気がなく真っ白で。

優しい栗色の瞳は、開かれる事はなかった。


黎翔の周りに、転がる刺客の亡骸。
夕鈴を殺され正気を失った彼の手により、その周辺は血の海となっていた。

刺客の刃が身体を貫こうとも倒れる事無く剣を振るい続けた黎翔は、まさに鬼神の如くだった。

黎翔はゆっくりと立ち上がり、夕鈴の傍まで身体を引き摺りながら歩くと。
まるで倒れこむように、彼女の傍に縋った。

「…ゆうり…夕鈴!…すまない、すまない…!!」

何度も何度も、彼女に声を掛ける。

もう二度と、目を覚ましてくれない彼女に向かって。

護りきる事が出来なかった事を、黎翔は泣きながら何度も詫びる。


これから、二人で共に生きていく筈だった。
沢山の苦労を一緒に乗り越えて、子供を産み育て、幸せに暮らしていく筈だった。


そう、あの夢のように。



永遠にずっと醒めなければ、とても幸せな『夢』だった。


END



夢のまた夢…。

『夢』を見た『夢』を見て、そして、最後が現実だったというお話…
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よろしくお願いします。

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