兎と狼のラビリンス

こちらは白泉社『狼陛下の花嫁』の二次創作ブログサイトです。(作者様・出版社様とは関係ありません)

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♪二人が出会って、初めての… ♯中編

続きです。

リクエスト小説(Creuzシリーズ



♪二人が出会って、初めての… ♯中編


何だか気まずいと夕鈴は思いながら、運転席に座る恋人にチラリと視線を向ける。
ジッと前を見据えたままの黎翔は終始無言で、夕鈴の方を見ようとしないからだ。

「…黎翔さん。」

沈黙に耐え切れなくなり、夕鈴は恐る恐る声を掛ける。

「何?」

返事を返してくれたものの、黎翔は決して夕鈴を見ようとしなかった。

「怒って、ますか…?」

視線を膝の上で組んだ自分の手に落とし、小さな声で夕鈴は聞く。

「…夕鈴がそう思うのなら、そうなんだろうね。」

黎翔の言葉に、夕鈴は泣きそうになった。

彼は間違いなく怒っていると、夕鈴は思う。
具合が悪いのに、無理してバイトをしていたからだ。

「…夕鈴。」

下を向いたまま唇を噛み締めていると、黎翔に名を呼ばれた。
ビクビクしながら顔を上げると、彼の細められたきつい視線とぶつかる。
ちょうど信号待ちのようで、車は動いていなかった。

「どうして無理してバイトするの?」

問い掛けと言うより、何としてでも聞き出そうとするような厳しい口調。
言いよどんでいると、黎翔は大きな溜息を吐く。

「――言えないの?」

「ごめんなさい…」

その理由は、まだ彼に知られたくない。

「そう。」

信号が変わり、黎翔はアクセルを踏み込む。

「君がそうするなら、私も勝手にするぞ。」

黎翔の言葉遣いが、変わった。
子犬のような性格の黎翔から、獰猛な狼のようなReiの口調。

「え?」

夕鈴が困惑げに彼を見た時、黎翔は車を急にUターンさせた。

「君がそのつもりなら、私も好きにさせてもらうと言ったんだ。」

夕鈴の自宅に向かっていた車は、逆方向に進みだす。

「…待って!一体どこに…」

夕鈴が聞いても、黎翔は答えようとしてくれなかった。


黎翔に連れた来られたのは、最近訪れてなかった彼の部屋だった。
無言のまま腕を引かれ、リビングのソファに座らされる。

「何か食べる?…軽いもの作るから、ちょっと待ってて?」

スーツの上着を脱ぎ、シャツの袖を捲くりながら黎翔が言う。

「待って下さい、黎翔さん!…私、家に帰らないと…」

家族に何も言っていないので心配されると、夕鈴は焦る。
娘を溺愛する父親が、警察沙汰にしかねない。

「あ、大丈夫。…お家には連絡しておいたから。」

ニコニコしながら言われて、夕鈴はいつの間に?と首を傾げる。

確かにここに来る途中、信号待ちの時黎翔は携帯を操作していたが、電話ではなくメールだったようだ。
夕鈴の父と弟のメルアドなど黎翔が知るわけがないのに、一体どうやって連絡したのだろう。

困惑している夕鈴に、黎翔は内心でニヤリと笑う。

実は彼女の親友・明玉に、夕鈴の実家に連絡を入れて欲しいと頼んだのだ。
今日からしばらく夕鈴は、明玉の家に泊まる事になっている。
明日もここから、直で学校に行かせるつもりだ。

「…そういう事だから、夕鈴は何も心配しなくて良いよ。」

黎翔の手回しの良さに、夕鈴は呆然とする。

「好きなようにさせてもらうって、言ったでしょ?」

大きな尻尾を盛大に振りながら、黎翔はにっこりと微笑んだ。

作ってもらったご飯を食べて、軽くシャワーを浴びて、早めに就寝した夕鈴だったが、翌朝、とうとう熱が出てしまった。

「…今日は一日、大人しく寝る事だね。」

体温計を見て、黎翔は溜息を吐く。

「このくらい大丈夫です。」

確かに喉も痛いし咳も出るが、熱があると言っても体温は37度8分。
無理をしなければ、普通に授業を受ける事が出来るはずだ。

起き上がろうとした夕鈴の両肩を抑え、黎翔は彼女を押し留める。

「…夕鈴?君は私の話を聞いていたのかな?」

にっこり笑っているが、彼の目は全く笑っていない。
ゾッと、夕鈴の背に寒気が走る。

「…このまま、起き上がれないようにしても良いけど?」

パジャマの裾から、黎翔の手が入り込んでくる。

「…ひんっ」

熱を持った身体に彼の手は冷たくて、夕鈴は声を洩らす。
ゾクゾクするのは、決して寒気からだけではないが。

「わっ、分かりました…!大人しく、寝ます…」

身の危険を感じた夕鈴は、慌てて布団の中に潜り込む。

「うん。それで良いよ。」

ちょっと残念…と思いながら、黎翔は夕鈴に向かって笑った。

黎翔はその日偶然オフだったので、夕鈴が眠るソファベッドの傍で、詩を書いたり、脚本を読みながら過ごした。
昼に消化の良いおかゆを食べさせ、汗に濡れたパジャマを着替えさせ、黎翔はかいがいしく夕鈴の世話を焼いた。

そして、夕刻。

「夕鈴、ダメだってば…!」

熱に浮かされフラフラなのに、起き上がろうとする夕鈴を黎翔は必死に止める。

「離して下さい、黎翔さん!…私、バイトに行かないと…」

そう言いながら、夕鈴はゲホゲホと咳き込む。

「…こんな身体で、無理だよ!」

何とか寝かし付けようとするが、夕鈴は子供のように首を横に振った。

「バイト…バイトに行かなきゃ…私…」

朦朧としながら、夕鈴はそう繰り返す。

自分の体調が、最悪な事は夕鈴にだって分かっている。
頭はガンガンと痛むし、熱のせいで身体中の間接が軋むように痛い。
バイトに行っても、まともに働く事は出来ないかもしれない。

――けれど。

もう日がないのに。
バイトに行かないと。
お金を貯めないと…。

黎翔に、喜んでもらえない…。

「…分かった、分かったから…」

泣き出した夕鈴の背を撫で、黎翔は必死にあやす。

夕鈴が、何故これほどまでバイトに拘るのか、まだ黎翔には分からない。
だが夕鈴にとって、どうしても成し遂げたい何かがあるのだという事だけは理解出来た。
その為に、夕鈴はこんなに必死になって頑張ろうとしている。

「大丈夫。…夕鈴が頑張った事、僕はちゃんと分かってる。…誰も君の事を、責めたりしないよ…?」

だからもう、ゆっくり休んで…?

耳元で囁かれる、黎翔の優しい言葉。

彼の声を聞きながら、夕鈴は意識はだんだんと薄れていった。

夜になっても夕鈴の熱は下がらず、黎翔は知り合いの医師に来てもらい診察してもらった。
あまりにも熱が上がるので、何かの病気なのかと黎翔は不安になったが、医師の見立てでは『過労からくる風邪』と言う事だった。

夕鈴の食欲は落ち、昼に食べたおかゆすら口にする事が出来ない。

だが医師から薬を飲ませる為に少しでも良いので何か口に入れた方が良いと言われていたので、黎翔は缶詰の果物を小さくカットして夕鈴に与えた。

「夕鈴、お薬だよ?」

食器を片付けている間にウツラウツラしていた夕鈴を、黎翔は揺さぶって起こす。
本当はそのまま寝させてあげたかったが、早く治す為にはきちんと薬を飲ませた方が良い。

夕鈴はうっすらと目を開けたが、身体を起こす事が出来ないようだ。
熱の為に琥珀色の瞳は潤み、ぼんやりとした視線を黎翔に向けてくる。

飲める?と聞くと、口は開くのだが、自分では飲む事が出来ないらしい。

黎翔は薬と水を口に含み、夕鈴の口移しで薬を与えた。
冷たい水の感触に、夕鈴の喉がコクリと動く。

彼女の咥内は熱くて、その熱を感じながら黎翔は出会ったばかりの頃を思い出した。

過労で熱を出した自分を、夕鈴が看病してくれたあの夜。
彼女のファーストキスを、奪ってしまった日。

後から知ったその事実を黎翔は嬉しく思いながら、唇を離す。

いつもは甘い、彼女の唇。

でも今日は…。

「にが…」

困ったような彼の顔は、どことなく嬉しそうで。

「早く良くなってね?…夕鈴。」

汗に濡れた彼女の頬を、黎翔は優しく撫でた。


高熱に魘されながら、夕鈴は夢を見ていた。

「はい、黎翔さん!」

欲しかった輝きを手に入れて、夕鈴は満面の笑みで黎翔に手渡す。

「…僕にこれを?――夕鈴、ありがとう!」

嬉しそうな黎翔を見て、夕鈴は彼のこの顔が見たかったんだと思う。

この為に自分は頑張ったのだと。

頬を撫でてくれる黎翔の手が冷たくて、とても気持ち良い。


熱のせいで苦しげだった表情が少し緩み、夕鈴は幸せそうに笑った。


続く

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原作沿いや現代パラレル、色々ありますので、お好きなお話をお読み下さい。
よろしくお願いします。

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