兎と狼のラビリンス

こちらは白泉社『狼陛下の花嫁』の二次創作ブログサイトです。(作者様・出版社様とは関係ありません)

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♪何よりも大切なもの ♯4

続きです。

Creuzシリーズ

♪何よりも大切なもの #4


人があまりいない所へと思い、上がってきた屋上。所々で昼食をとっている生徒がいたが、夕鈴は彼らから離れた場所に腰を下ろした。

「…Reiと何かあった?」

単刀直入に聞かれて夕鈴は一瞬言葉に詰まった。浩大の問い掛けは疑問系だったが、彼は自分達の間に何かが起こっている事に確実に気付いている。

「あ…えっと、その…」

誰かに聞いてもらえれば、少しは楽になるのだろうか。異性と付き合うのが始めての夕鈴は、こういう時どのように対処すればいいのか分からない。

「ごめん、無理に言わなくても良いよ。…これは二人の問題だし、聞きだそうとも思わない。でもさ…」

浩大はそこで言葉を切った。受話器の向こうで、彼が深い溜息を吐く。

「Reiがさ、滅茶苦茶落ち込んでんだよ。…そりゃもう、見ているのが気の毒なくらいに。」

「黎翔さんが…?」

「ああ。姫ちゃん、あいつからの連絡無視ってるだろ?…『メールしても返事がないし、電話にも出ない』って、朝からすごい落ち込みよう。お陰でちょっと仕事にも影響出ててさ…」

「えっ…?」

「打ち合わせの後リハだったんだけど、Reiだけ調子悪くてさぁ。…俺達は今昼食ってんだけど、あいつはマネージャーにお小言くらってる。せっかく姫ちゃんが昼休みの時間帯に連絡するって言ってたのに、その時間が取れなくて、もう機嫌が悪いのなんのって。」

夕鈴と話しながら、浩大は控え室で睨み合っていた二人を思い出し身震いした。

夕鈴との間に起こった事がかなりショックだったのか、黎翔は打ち合わせが始まってもどこか上の空。リハーサルも上手くいかない。

そんな黎翔に業を煮やし、神経質なマネージャーの雷がついに落ちた。

夕鈴に電話を掛ける前、二人がいる控え室を覗いてきたが…。


(蛇とマングース?いやいや、どちらかと言うとマネージャーの方が蛇か?…じゃあ、狼と蛇の睨みあい?)


言葉も無く、二人は険しい顔付きで睨み合っていた。


「…姫ちゃん。俺からこんな事頼むなんて変だと思うし、大きなお世話かと思うだろうけどさ。Reiの事、見捨てないでやってくれよ?」

浩大の言葉に、夕鈴の胸が大きく跳ねる。

「そ、…そんな見捨てるなんて…。それにどちらかと言うと見捨てられるのは…」

私の…ほう……。

「姫ちゃん!」

夕鈴が思わず漏らした言葉。その続きを聞かなくても何を言おうとしたのか浩大には分かった。

芸能人と一般人。

その違いに、夕鈴が戸惑い傷付いているのも分かる。だがその壁を乗り越えないと、二人はいつまでたっても今のままだ。


「…何があったのか、なんとなく分かったよ。姫ちゃんが悩むのも苦しんでいるのも分かる。でもさ、Reiも同じように苦しんでいる事に気付いて欲しい。…俺言ったよね?姫ちゃんに会ってから、Reiのヤツすごく人間らしくなったって。年相応に、笑ったり楽しんだりしているのを久し振りに見たって。」

「浩大さん…」

夕鈴は初めてCreuzのメンバーと会った時を思い出す。黎翔に連れられて初めて彼の仲間達に会ったのは、恋人同士になってほんの数日後。

その時の、浩大の言葉。自分の存在が、黎翔を良い方向に変えていけるのならと思うと嬉しかった。対等にいられるんじゃないかと思った。

「確かにReiはさ、過去遊んでいたけど、姫ちゃんと出会ってからは姫ちゃん一筋だよ?…もう二十歳(ハタチ)越えてる良い大人だけど、本気で誰かを好きになるのが初めてだから、あいつもどうして良いか分からないんだよ。」

だから恋人と連絡がつかなくてあんなに焦ってる。ショックを受けている。

過去の自分の浅はかな行いを、悔いている。


「バカな男(ヤツ)だけどさ、――信じてやってくれないかな?」

ポロリと、夕鈴の眦から涙が零れた。


『信じる』


そうだ。自分は恋人の事を信じてあげなくてはいけなかったのだ。

それなのに自分は、あの光景を見て、何の違和感も無く彼の隣に立てる女性に嫉妬し、自分を好きだと言ってくれる恋人を疑った。

「君が好きだよ」という、彼の言葉を疑った。

呼び止める彼の声を無視し、彼の言葉も聞かず、あの場を逃げ出した。


「…ひっ、…う…~~」

止める事が出来なかった嗚咽が、夕鈴からもれる。

自分勝手な思いで、黎翔を傷付けてしまった。彼は確かに愛してくれていたのに、それをなかなか信じられなかったのは自分の方だ。

溢れてくる涙を必死に拭うが、それはなかなか止まらなかった。

「…姫ちゃん、姫ちゃん?」

夕鈴の堪え切れない嗚咽が聞こえてきて、浩大は焦ったように声を掛ける。

「…泣かないでよ。参ったな…姫ちゃんを泣かせたなんてReiにバレたら、何をされるか…」

背中に寒いものが走り、浩大は思わず身を震わし後ろを振り返る。あまりの寒気に本人がいるのではないかと思ったが、彼はまだ説教中らしい。


「…ご、めんなさい、浩大さん…」

暫く話しかけずに待っていると、スンと鼻を啜った後、ようやく夕鈴の声が聞こえてきた。どうやらようやく落ち着いたらしいと感じ、浩大はホッとする。

「いや、良いよ。少しは落ち着いた?」

「はい、大丈夫です。」

「今日学校が終わって、時間が空いてたらさ、Reiに連絡取ってやってよ。」

「…はい。」

「…そして、姫ちゃんが思っている事、全部あいつにぶちまけてやれ。面白いものが見れるかもよ?」

「面白いもの?…一体何でしょうね?」

笑う浩大の言葉に、夕鈴もようやくクスクスと笑みを漏らす。

「…やっと笑った。ごめんな、変なお節介焼いて…。Reiが落ち込んでたり焦ったりするのを見るのは面白いから好きなんだけどさ、今回のは…なんて言うか、いつもと違う気がして…。」

夕鈴の言葉や態度に、様々な表情を見せるようになった黎翔。

いつもはそんな彼を冷やかし、当たり障りの無いアドバイスのようなものを言うだけの浩大だが、今回は今までとは違うような気がしたのだ。

上手く言えないが、このままだと二人は別れてしまうのではないかと思ってしまった事は内緒にしようと思う。見た事もない黎翔の悲痛な表情に、何か手を打たなければと思った。


「昼休みにごめん。…メシ食う時間あるかな?」

「あ、大丈夫です。…浩大さんの方こそ、時間大丈夫ですか?」

忙しい合間の、僅かな休憩時間のはずだ。それなのに浩大は、バンド仲間とその恋人の自分のために気に掛けて態々連絡までくれたのだ。

「平気平気!、俺の事は気にしなくていいよ~」

あっけらかんと言う彼の口調が、とてもありがたく感じる。

「…浩大さん、電話、本当にありがとうございました。…何よりも大切なものが何なのか、少し分かったような気がします。」


「じゃあね~」と言って電話を切った浩大。彼の優しさが身に沁みて、夕鈴の心は少しだけ落ち着いた。

夕鈴はふと空を見上げる。

目に眩しい日差し。暖かい気温。

頭上には、ここに上がってきた時には気付かなかった、澄み渡った青々とした空が広がっていた。



続く
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