兎と狼のラビリンス

こちらは白泉社『狼陛下の花嫁』の二次創作ブログサイトです。(作者様・出版社様とは関係ありません)

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♪風に舞う、金色の羽衣

このお話は、リクエスト小説(Creuzシリーズ)『♪天女の羽衣』のおまけ話です

予告通り、どシリアスで、甘さ無し

本編で出てきた、『彼女』のお話。



♪風に舞う、金色の羽衣


明治の初め。

器量良し、家柄良しの、美しい娘がいた。
年頃になった娘には、途切れる事無く縁談の話が舞い込んだ。

けれど娘は、愛し愛される唯一の男性と結ばれる事を願い。
多くの縁談を断り続けた。

そんなある日、娘はある男性に恋をした。

中貴族の次男坊で、とても優しい男だった。

娘は男に結婚を申し入れ、男も快く承諾してくれた。

愛する唯一の男性と結ばれた時、とても幸せだと思った。

けれどその幸せは、長くは気付かない。

街に買い物に出掛け屋敷に戻ってくると、愛する夫は誰かと電話で話中だった。
盗み聞きは良くないと思いながら、楽しそうな会話に娘は聞き耳を立てた。

最近、夫が執拗に身体を求めてくるようになった。
手荒な彼との行為は、娘の身体を疲れさせていた。
身体を繋ぐ事だけが、『愛』ではない。
ただ抱き締め合って眠る優しい時間を、娘は望んでいた。

男は友達らしき相手に、自らの妻を抱かせる約束をしていた。

『家柄も良く、金持ちで、身体も最高だ』と嘲られた時、娘は目の前が真っ暗になった。

愛していたのは、自分だけ。

男は娘の事を、愛してなどいなかった。

彼が求めたのは、自分のこの身体だけ。

お気に入りの金色の羽衣を羽織ったまま、娘はフラフラと屋敷を出る。

向かった先は、敷地の端の、丘の上。
その先は断崖絶壁で、高い波が押し寄せる海が広がる。

自分の人生は、一体何だったんだろう。

ただ唯一の人と、結ばれたかっただけなのに。

その結末が、この現実だ。

――これが『愛』なら、『愛』なんていらなかった。

娘は涙を流しながら、荒れ狂う海に身を投げた。


「…でね、その屋敷では様々な怪現象が起こるようになったんだって。」

GWが明けて数週間後の、学校での休み時間。
明玉が少し古びた雑誌を片手に夕鈴に言う。

数年前に発行された雑誌で、ミステリースポットの特集が組まれている。

誰も住んでいない筈の洋館に、人影が見えたり、白い何かが宙を舞うという目撃情報が多数あったそうだ。

「亡くなった女性の羽衣、この間のドラマ撮影で使われた羽衣じゃないかと、私は思うのよ。」

彼女が広げた雑誌には、明治の初めにこの洋館に住んでいた若い女性の白黒写真が載っていた。

彼女の名は、儀 蔡菜(ぎ さいな)。

あの日、羽衣が消えた後、黎翔と夕鈴の前に姿を見せた女性だ。

愛した男性に裏切られ、誰かに愛される事なく20歳という若さでこの世を去った、悲しい娘だった。

羽衣が女性と共に消え去った後、夕鈴は身体の虚脱感が酷く動く事が出来ず、結局残っていた撮影は翌日行われた。国の若き王と、小さな異国の姫君の別れのシーンは、黎翔と夕鈴、そして関係者のみで撮影され、無事終了した。

金色の羽衣を羽織った女性の事が凄く気になった夕鈴は、明玉に起こった事を話し、心当たりがあった彼女が持ってきた雑誌で、夕鈴は事の真相を知った。


そして、その週の日曜日。

「…じゃあ行ってくるわね。夕方には戻るから。」

お昼を食べた後、弟にそう告げて夕鈴は家を出た。

天気も良いので、駅まで歩いていく事にした。

初夏の日差しを浴びながら歩いていると、ちょうど公園の前に差し掛かった時、歩く夕鈴の横にピタリと一台の車が停車した。

ウインドウが下り、顔を覗かしたのは。

「――夕鈴。」

彼女の恋人、黎翔だ。

「黎翔さん…。どうして…」

彼が突然現れた事に、夕鈴は驚いた。

今日の事は、彼にも話してなかった。夕鈴がどこに行こうとしているか知れば、黎翔は怒るかと思っていたのだが。

「…行くんでしょ?――乗って。」

そう言って黎翔は笑う。

彼の車の後部座席には、薔薇と霞草の大きな花束が積まれていた。

運転しながら、黎翔は数日前に交わした会話を思い出していた。

『…君達なら、彼女を成仏させてくれるんじゃないかと思っていたよ。』

そう言って苦笑いをしたのは、監督だ。

彼の名は、儀 王弦(ぎ おうげん)。

愛を知らず、愛される事なく散った、悲しい娘の祖先だ。

『怪我をした女優には申し訳ない事をしたが…。』

その女優はこのドラマの出演は降板するしかなかったが、恩恵なのかただの偶然か、仕事も増えて忙しい毎日を送っているようだ。

監督は黎翔の唯一の存在に気付き、世を彷徨い続ける先祖の魂を成仏させる為、曰くつきの羽衣を夕鈴に羽織わせた。

(アンのくそジジイ…!)

見た目は人の良さそうな老人だが、心の中では何をか考えているのか分からない監督に、黎翔は思いっ切り悪態をついた。

電車でなら一時間掛かる道のりも、車でなら30分程で行ける。

撮影がすみ、また静かになった洋館の敷地内を黎翔と夕鈴は歩く。

管理はされているので、夕鈴は必要な水を手桶に汲み、両手で重い桶を持つ。

「僕が持つよ。」

重さでよろよろしていると、ヒョイッと黎翔に桶を奪われた。
細身でも男だけあって、水が一杯入った桶を片手で軽々と運んでいく。

「あ、…花持ちます!」

彼の負担を少しでも軽くしたくてそう言ったが、笑いながら大丈夫と却下されてしまった。

洋館から少し離れた丘の上に、『彼女』の墓はあった。
手入れはあまりされていないのか、墓石は汚れ、周囲に草や苔が覆い茂っている。

夕鈴は持っていたバックから様々な道具を取り出し、すぐさま掃除に取り掛かった。

墓石を磨くブラシや、軍手、草を削り取る道具、ゴミ袋…etc。

一体このバックのどこにこんなに沢山の物が入るんだ?と、黎翔は次々に出てくる道具達に驚きを隠せなかった。

掃除上手な夕鈴の手に掛かれば、作業もあっという間に終了し。
水をかけて磨き終え、持参した花を生ければ、見違えるほど綺麗になった。

夕鈴が家で作ってきたおはぎを、包んだままお供えする。

包みを解かないのか聞くと、「お参りが終わったら持って帰るので。」と言われた。

山間にあるお墓は、お供え物が動物に荒らされたりするので、置いたままにしない方が良いらしい。
そう言うものなのか、と黎翔は思う。

墓の前に座り、夕鈴と並んで手を合わせる。

大切な夕鈴の身体を乗っ取って無理をさせたあの娘を、許す事は出来ないけれど。
愛し愛される幸せを知らずに散ってしまった彼女の無念は、何となく分かるような気がした。

目を開けて隣にいる夕鈴に視線を向けると、彼女はまだ一生懸命娘の冥福を祈っている。

黎翔も夕鈴に会うまで、自分は一生誰かを愛する事はないと思っていた。
夕鈴がいなければ、黎翔も『彼女』と同じ運命を辿ったかもしれない。

誰かを愛し、誰かに愛される事で得る幸せを、知る事無く。

たった一人で一生を、終えたかもしれない。

思わずスッと手を伸ばし、夕鈴の肩を抱き寄せていた。

「れ、黎翔さん…!?」

バランスを崩しかけた夕鈴は、驚いて声を上げる。

「…ごめん、しばらくこのままで…」

肩を寄せ合って、黎翔はもう一度瞳を閉じる。

自分は夕鈴と出会い、誰かを愛する事の喜びを知った。
彼女に愛される事の、喜びを知った。

彼女との出会いに感謝し、黎翔は幸せを噛み締める。

自分はあの娘のようにはならない。『彼女』と同じ運命を辿ったりしない。

自分の隣で、夕鈴がいつも笑っていてくれるなら。

真っ直ぐに前に、進んでいけると黎翔は思う。

「…行こうか、夕鈴。」

「はい、黎翔さん。」


墓に供えるには向いてないが、『彼女』が好きで庭で育てていたという真っ赤な薔薇の花が。

風に揺れてサワサワ音を立て、丘を下っていく黎翔と夕鈴の後姿を優しく見詰めていた。


END


どうしても書きたかった『彼女』のお話です。

彼女はとても悲しい女性でした…。

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