兎と狼のラビリンス

こちらは白泉社『狼陛下の花嫁』の二次創作ブログサイトです。(作者様・出版社様とは関係ありません)

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♪若葉マークな、恋人達のクリスマス ♯3

続きです。

クリスマス小説Creuzシリーズ



♪若葉マークな、恋人達のクリスマス ♯3


静かなクラシックが流れる、落ち着いた店内。

大きな窓からは、綺麗な夜景を見る事が出来る。

ここは高級ホテルの最上階にある、一般人は一生入店する事がないだろうと思われる、高級レストランだ。黎翔と二人で少し歩きながら、もう予約を入れてあると言われたレストランの店内はカップル達で一杯で、良くクリスマスの夜に予約を取る事が出来たなあと思う。

半個室になっている室内に、カトラリーの音だけが響く。

夕鈴は初めて見る料理を口に入れながら、向かいに座る黎翔にチラチラと視線を送っていた。
彼は食事をしている様子も優雅で、夕鈴はついつい見蕩れそうになるが、それよりも気になる事が夕鈴にはあった。

待ち合わせ場所の駅前に来た時から、黎翔は夕鈴を真っ直ぐに見ようとしない。

初めは気のせいかと思った。

腕を組んで歩いている時、話しかけながら彼の顔を見上げても、黎翔は真っ直ぐ前を向いたまま。
見て欲しくて腕を引くと、顔を向けてはくれるが、その視線は泳ぐように彷徨っていた。

忙しい恋人との、せっかくのデート。

どうせなら、思い切り楽しみたいし、甘えたい。

「…黎翔さん。」

「…ん?」

呼びかければ、答えてはくれるものの…。

「お料理、美味しいですね。」
「うん、そうだね。」

「夜景も、とても綺麗だし…」
「うん。」

「それにしても、イブによく予約が取れましたね?」
「うん、そうだね。」

「…………」

その会話は、全く成り立っていない。

コースメニュー最後のデザートは、クリスマス仕様のケーキだった。
夕鈴は無言で、ケーキを口に運ぶ。
高級レストランの一流パティシエが作ったケーキは美味しい筈なのに、味なんて分からない。

どうして?

どうして私を見てくれないの?

ねえ、どうして?

聞きたいのに、彼の返事が怖くて、夕鈴は聞く事が出来なかった。

食べ終えた皿を下げられた後、ナプキンで口元を拭う黎翔を見ていた。
やはりこちらを見ない彼に、夕鈴は急に悲しくなって泣きそうになる。

慌てて席を立つと、その勢いでガタンと椅子が音を立てた。

「――夕鈴?」

その音に黎翔は反応し、驚いたように夕鈴を見た。
けれど、今度は夕鈴の方が黎翔を見る事が出来なかった。

「わ、私っ、お手洗いに行ってきますっ」

どうにかそれだけ言うと、夕鈴はバックを掴んでテーブルを離れる。

そんな自分の後姿を、黎翔がじっと見ている事など気付かずに。

彼女の背中が見えなくなり、黎翔はふうっと溜息を吐く。
瞳を閉じ、片手で顔を抑え、荒れ狂う自分の感情を必死に落ち着かせようとする。

黎翔が夕鈴を真っ直ぐに見る事が出来ないのは、彼女の格好だ。

駅前で彼女の姿を見た時、いつもと違う格好にも驚いたが、レストランに着いて羽織っていたコートを脱いだ夕鈴を見て、黎翔はさらに目を見開いてしまった。

大きく開いたた襟元。

有り得ないほど短いワンピース。

髪をアップした事により、普段は見えない項が丸見えになっている。

椅子に座ると、脚がギリギリのラインまで見えてしまい、とてつもなく美味しそう。

「勘弁してくれ…」

深い溜息を、聞く者は誰一人としていない。

夕鈴が自らあんな露出の多い服を着るわけがない。きっと彼女の親友達が、今日のデートの事を聞き、お膳立てしたに違いない。

純白のワンピースは、彼女にとても似合っているが、露出の多さはいただけない。
理性を試されているのだろうかと、黎翔は彼女の親友達をちょっぴり恨めしく思う。

愛して止まない恋人のいつもと違う姿を、真っ直ぐに見る事が出来ず、つい視線を逸らせてしまう。

そんな彼の曖昧な態度が、この後とんでもない事態を引き起こすのだが、精神統一中の黎翔がそれを知る由もなかった。


化粧室に飛び込んだ夕鈴は、冷たい水で零れ落ちそうな涙を洗い流す。

黎翔の前で泣き出さなくて良かったと、夕鈴は思う。

優しい彼は、何としてでもその原因を聞きだそうとするから。

ハンカチで水滴を拭い、夕鈴は鏡に映る自分の姿を見る。

黎翔は、夕鈴の格好を見ても、何も言ってくれなかった。

『似合っている』とも、『可愛い』とも。

それも夕鈴の、気になるところだ。

彼が言葉を失うほど、何も言えないほど、自分の格好はおかしいのだろうか?

それともとてつもなく、似合っていないとか?

けれど優しい彼は、それを言う事が出来ずに黙っている?

黎翔が夕鈴を直視出来なかった理由は、前記した通りだが、そんな彼の微妙な男心が夕鈴に分かる筈も無く。

彼女の考えは、とんでもない方向に向かってしまう。

彼が見てくれないほど、私は酷い格好をしているんだ。

親友達は『似合っている』と言ってくれたけれど、お世辞で言ってくれたのかもしれない。
仮にも親友に向かって、『似合ってない』とか言ったりしないだろう。

彼女達の優しさが、今はとても痛い。

ポロリと、拭ったはずの涙がまた溢れてきた。

水で洗っても、何度拭っても、涙は一向に止まらない。

化粧室に来た他の客達が、泣いている夕鈴にチラチラ訝しげな視線を送ってくる。

ここを出なきゃ…と、夕鈴は思う。

けれど、こんな姿で彼の所に戻るわけにはいかない。
こんな顔を、彼に見せるわけにはいかない。

ふらりと化粧室を出た夕鈴は、黎翔が待つ個室の前を通り越し、レストランを出た。
そして広いロビーにあるフロントで、係りの男性に声を掛け、夕鈴はそのままエレベーターに乗り込む。

化粧室に行くときにバックは掴んだが、羽織ってきたコートはレストランに置き去りのまま。
ホテルを出た夕鈴を、強い外気が襲う。

泣きながらホテルから出てきた夕鈴の姿を見て、道行く人達が目を瞠り通り過ぎていく。

「寒い…」

身を縮ませながら、夕鈴はトボトボと歩き出す。

どうしてこうなっちゃうんだろう?

楽しいはずの、イブの夜なのに。

夕鈴は唇を噛み締める。


綺麗な筈のイルミネーションが、涙で霞み、ぼやけて見えた。


続く



どうしてこうなっちゃうのかな…?

この二人、いつも擦れ違ってばかりだなあ
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よろしくお願いします。

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