兎と狼のラビリンス

こちらは白泉社『狼陛下の花嫁』の二次創作ブログサイトです。(作者様・出版社様とは関係ありません)

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♪若葉マークな、恋人達のクリスマス ♯4

続きです。

連休なので、集中更新

クリスマス小説Creuzシリーズ



♪若葉マークな、恋人達のクリスマス ♯4


「遅いな…」

黎翔は腕時計を見ながら呟いた。
化粧室に行った夕鈴が、帰って来ない。

女性は確かに化粧直しなどで時間が掛かるかもしれないが、夕鈴は普段からほとんど化粧をしない。15分近くたっても戻らないなんて、何かあったのかと不安になる。

見に行くべきかと考えていると、個室の入り口に人が立った。

「失礼致します。」
と丁寧に頭を下げ近寄ってきたのは、このホテルのオーナーだ。

「…帰った?」
黎翔が困惑気味に聞き返すと、オーナーも困ったように眉を下げる。

「はい。10分たったら貴方様に伝えて欲しいと言われたのですが、なにぶん、お連れの女性の方の様子が気になりまして…。」

この寒さの中、コートも着ず、マフラーも巻いていない。

当然だ、夕鈴は席を立つ時、バックしか持っていかなかった。
しかも泣いたのか、目元が赤かったらしく、10分を待たずに伝えに来たのだとオーナーは言った。

黎翔は探してくる旨を伝え、夕鈴が置いていったコートを持って外に出た。
暖房の効いた室内とは雲泥の差で、外の空気は肌を刺すように寒い。
この寒さの中を、夕鈴はあんな格好で歩いていったのか。

ドアマンにどちらに行ったか聞き出すと、黎翔はすぐに駆け出した。

夕鈴は寒さに震えながら、駅に向かって歩いていた。

恋人の態度に傷付いて、気分は最悪なのに、夕鈴をさらに気落ちさせる存在が現れた。ホテルを出てすぐ、肩を叩かれ振り向くと、そこにはいかにも遊んでいそうな一人の男。

無視しても、何度断っても、熱心に夕鈴をナンパしてくるのだ。

「な?…悪いようにはしないから。そんな格好じゃ寒いでしょ?」

確かに男に言う通り、寒くて仕方がない。

「彼と喧嘩でもした?…君みたいな素敵な女性を放っておく男なんて、最悪なヤツだなあ。」

夕鈴の顔を覗き込み、その紅い目元を見て、的確に起こった事を当ててくる。

「可愛い君と出会えて、俺は幸せ者だよ。」

「可愛い…?」

無視して歩いていた夕鈴は、その言葉に足を止めた。

「私、可愛いですか?…この服、似合ってますか?」
「う、うん!…とっても似合っているよ!!」

今まで無反応だった夕鈴が突然返事をしたので、男は嬉しくなって彼女の容姿を褒める。

振り返った夕鈴は、初めて男の顔を真っ直ぐに見た。
黎翔より背は少し低いが、まあまあもてそうな男だ。
ナンパ慣れしているように見える。

普段の夕鈴なら、男の言葉に返事を返したりしなかっただろう。

けれど、自分の姿を見ても何も言ってくれなかった恋人。彼に真っ直ぐ見てもらえなくてショックを受けていた夕鈴は、男の言葉が嬉しかった。

本当は、黎翔にそう言ってもらいたかったけれど。

褒めてくれた男にお礼がしたくて、夕鈴はお茶くらいならご一緒しても構わないと伝えた。
このまま外にいては、寒さで動けなくなりそうだ。
気持ちが落ち着くまで、どこかに入って休むのも良いだろう。

二人並んで歩いていると、男が小さな包み紙を出してきた。

「チョコレート。…甘い物食うと、心が落ち着くだろ?」
「ありがとう…ございます…」

夕鈴は素直にお礼を言って受け取る。口に入れると、チョコの甘さと少しの苦味が広がった。

実は男の渡したチョコは、ウイスキーボンボン。
酒に免疫のない夕鈴には、結構キツイ代物だった。

「あれ…?」

夕鈴は足を止めて顔を抑えた。
さきほどまで寒かったのに、今は腹の底の方からカアっと熱くなってくる。

「…これ、お酒…ですか…?」

ぼんやりと霞む男の顔を見ながら、夕鈴は問い掛ける。

その表情はトロンとしていて、男はごくりと唾を飲み込んだ。
まさかここまで酔っ払うとは思わなかったが、この方が事は運びやすい。

足元が覚束ない夕鈴の身体を、腕を伸ばし男は支えた。
このまま、ホテルに連れ込む事も出来そうだと、男はほくそ笑む。

「…いいトコ、行こうか…?」

力が抜けた身体に回された腕。

耳に囁き掛けられる言葉。

愛する恋人とは違うのに、酔いが回り朦朧とする意識の中で、夕鈴はそれでも良いかとぼんやり思う。

黎翔は、何も言ってくれなかったから。

夕鈴の望む言葉をくれなかったから。

貴方が褒めてくれるのを、待っていたのに…!

夕鈴の頬を、新たに流れた涙が一筋伝わった。

「…そんな男の事など、忘れさせてあげるから…」

優しい声で慰められ、ついに夕鈴はコクリと頷いてしまった。
男に肩を抱かれ、歩き出そうとしたその時。

「――その手を離せ!」

背後から掛けられた、聞き覚えのある声。

腰にクルこの低い声は、聞き慣れた恋人の声。

「いでで…!」

腕を後ろ向きに捻られて、男は痛みに悲鳴を上げたが、

「何をするっ!?」

すぐに黎翔に食って掛かった。

「彼女は僕の恋人だ。」

「…勝手に彼女の身体に触れるな。」

紅い瞳が、男を睨み付ける。
低い声で、黎翔は男を牽制した。

冷たい瞳に見据えられ、男は「ひ…」と呻き声を上げる。
黎翔が腕を離すと、慌てて逃げていった。

フウッと息を吐き、黎翔は夕鈴を見る。

ワンピース姿の彼女は、寒さからカタカタ震えている。
黎翔は無言で、持ってきた彼女のコートを肩に掛けてあげた。

彼女を早く温めなければいけないのは勿論だが、そんな魅惑的な姿をこれ以上を他の人間の目に晒したくなかった。

「…夕鈴。」

聞きたい事は、沢山あった。

どうして、何も言わず先に帰ろうとしたの?

どうして、あんな男に着いて行こうとしたの?

どうして、そんな悲しい顔をしているの?

それに。

クンと鼻を鳴らし、黎翔は夕鈴から漂う僅かな酒の匂いを嗅ぎ取る。

「…お酒飲んだの?」

顔を顰め低い声で聞くと、夕鈴はフルフルと首を振る。

「チョコを…」
「チョコ?…ブランデーでも入っていたの?」

多分…、と夕鈴は頷く。

チッと、黎翔は舌を打つ。

未成年で、いかにも酒に弱そうな彼女に、そんなものを食べさせるなんて。

それは男についた悪態だったが、そんな黎翔を見て、夕鈴はビクリと震えた。

「君に怒っているんじゃないよ。」

黎翔はそう言うが、その視線はやはり真っ直ぐ夕鈴を見てはいなかった。

どこかよそよそしい、他人行儀な態度。

どう見ても彼は怒っている。

自分の行いに、呆れている。

こんなみっともない格好でウロウロして、あげく男に着いて行こうとした自分に。


唇を噛み締め、泣くものかとギュッと両手を握り締める夕鈴。

視線を逸らせたまま、溜息を吐き、苛立つように前髪を掻き上げる黎翔。

そんな二人の様子を、駅前を行き交う人々が訝しみながら見ていた。



続く


波乱続きな、クリスマス~
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よろしくお願いします。

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